小林英明氏に聞く
【産経新聞:2010年8月22日】
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/media/100822/med1008220811001-n1.htm
NHK経営委員を6月に退任した弁護士、小林英明氏(55)は、NHKが昨年4月に放送した日本の台湾統治を描いた番組について「放送法違反ではないか」と経営委の場で執行部にただしていた。しかし、その問題提起はきちんと議論されないまま経営委で立ち消えとなる一方、番組をめぐっては約1万人の集団訴訟がNHKに対して起こされる事態となった。インタビューの後半は番組問題と、経営委のあり方について聞いた。
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平成21年5月26日のNHK経営委。小林氏は4月5日放送の「NHKスペシャル シリーズJAPANデビュー第1回 アジアの“一等国”」に言及し、番組で使われた「日台戦争」という表現について「歴史的事実がない」と指摘、「放送法違反ではないか」とNHK執行部に問うた。これに対し、日向英実(ひゅうが・ひでみ)理事(放送総局長)は「日本台湾学会の考え方だ」と反論、少数説や異説であることも否定した(別表に主な発言)。
──執行部の回答に納得したか
「私が言ったことの方が正しかったのではと思っている。日向理事は『日台戦争』という呼称が日本台湾学会の多数説として使われているという説明をされたと理解し、その後、私なりに文献で調べた。しかし、400人いるという学会員で『日台戦争』を使っているのは2人はいる可能性があるものの、その他は確認できなかった。少なくとも多数説という理解は正しくないというのが、私の研究の結果だった」
──指摘に対しては「経営委員は個別番組について干渉すべきではない」という批判も起きた
「放送法第3条は『放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない』と定めている。しかし、経営委員には放送法で執行部の職務執行を監督する義務があり、少なくとも放送法違反の疑いがある場合は『法律に定める権限』で個別番組にも発言できると解釈している。経営委がそれをできないとすると、NHK外部からの圧力や介入を招きかねず、むしろNHKの自律を脅かすことになる」
──執行部の説明を、経営委は検証できないのか
「それは議事運営の問題であり、日向理事の答えが正しいのかどうかという問題は議論されず、経営委員が個別番組に発言していいのかという問題も結論が出されなかった。代わりに、小丸成洋(こまる・しげひろ)委員長が記者ブリーフィングで『干渉は自制しなければならない』『(台湾番組に重大な疑義は)ないと思う』と個人的見解を述べただけで終わってしまった」
「番組に視聴者から多くの疑義が寄せられた場合、これに真摯(しんし)に対応し、十分な説明をしなければ、肝心の受信料義務化について視聴者の理解を得ることも難しくなるだろう」
──何が問題か
「委員長交代後の1年半は、経営委は執行部が出した議案をいかに素早く議決するかという機関になっており、合議体としての意思形成ができていない。これを問題と思う委員は、私以外に何人もいた。また、現行法で委員は教育、文化など各分野から選ばれ、放送の知識が十分でない人が多い。重要な経営判断に関与するには、人選のあり方の見直しも必要ではないか」
(聞き手 鵜野光博、佐久間修志)
【用語解説】NHKスペシャル・JAPANデビュー問題
日本による台湾統治を描いた番組に対して、出演者らが「統治の悪い面しか描いていない」「取材で話したことを一方的に都合よく使っている」などと抗議。番組内容に偏向と歪曲(わいきょく)があったとして、視聴者を含む1万人以上がNHKに損害賠償を求め訴訟を起こし、係争中。台湾統治下の暴動を「日台戦争」と表現したり、先住民族が日英博覧会(1910年)に出演した企画を「人間動物園」と表現したことなどが批判されている。