産経新聞の検証記事でばれたNHK「回答」のウソ

2500件を超える声の「多くが『一方的だ』という意見」だった」

 NHK「JAPANデビュー」問題で、全国紙としては産経新聞が一人気を吐いている。
日本李登輝友の会がNHKに抗議声明を手交したことを伝える4月11日の報道以来、政界
に波及したことなど4月だけで5回も報道している。

 5月に入ってからも1日の「主張」では、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理
検証委員会が、慰安婦問題を扱ったNHK番組をめぐる問題で、放送倫理検証委員会の指
摘に疑問を投げかける文脈で「JAPANデビュー」問題に触れている。「取材に協力し
た台湾の元医師らが『日本の功績も話したのにカットされた』などとNHKを批判してい
る」ことを紹介して「BPOの意見にとらわれず、NHK自身が視聴者の立場で番組を真
摯(しんし)に検証することが大切だ」と釘を刺している。

 この「主張」を受けてかどうかは分からないが、5月3日には「番組は何を取り上げ、何
を報じなかったのか。3日の第2回放送を前に、その“文脈”を検証する」として、「台湾
民族と漢民族」「日台戦争」「人間動物園」などについて、柯徳三氏をはじめ関係者に取
材して検証している。

 着目すべきは、これまで日本李登輝友の会に寄せたNHKの回答では「視聴者からも、
事実を初めて知り、そのことを踏まえて関係を築いていくことの大切さを記した意見が多
数寄せられました」(第1回回答)、「番組の反響の中には、台湾の方々の証言に感銘を受
け、日本と台湾との絆を考える契機になったというものも少なくありません」(第2回回
答)と、いずれも番組が「多数」あるいは「少なくない」視聴者の支持を得ていると述べ
ていることだ。多くの視聴者の支持を得ているのだから文句は言わせない、偏向と受け取
る方がおかしいのだ、という不遜とも言えるような書き方だった。

 確かに、NHK広報局は「(4月)21日までに電話やメールなどで1900件を超える反響
が同局に寄せられ、『戦前の台湾統治の状況をよく伝えていた』『日本は台湾によいこと
もしており、一方的に悪いという描き方は納得できない』などがあるという」(4月23日付
「産経新聞」)と答えていた。支持と批判(不支持)が相俟っているというような受け取
り方ができる答えだった。

 ところが、この5月3日付の産経新聞の記事によれば、NHK広報部は産経新聞に対して
4月末までに2500件を超える声が寄せられたと伝え、その「多くが『一方的だ』という意
見」だった」ことを明かしていたのである。

 2500件の「多くが『一方的だ』という意見」、つまり批判的意見を寄せていたというの
だから、NHKは回答で批判(不支持)の意見が多かったことを隠して、いかにも多数が
支持していたように偽装していたのだ。日本李登輝友の会にウソをついたのである。

 これで、NHKが寄って立つ「視聴者の意見」という後楯はもろくも崩れた。いかにも
誠実に答えているような文面を装いながら、このようなウソを織り交ぜて「回答」してく
るNHKを絶対に許してはならない。

                  (メールマガジン「日台共栄」編集長 柚原正敬)


【検証】NHKスペシャル 台湾統治めぐり「一面的」

【5月3日 産経新聞】

 NHK総合テレビが4月5日に放送した「NHKスペシャル シリーズJAPANデビュ
ー」の第1回放送「アジアの“一等国”」に対し、出演した台湾人のほか日台の友好団体、
識者などから「一方的だ」と批判の声が上がっている。NHKは「番組にすべての要素を
盛り込むことはできない」(日向英実放送総局長)と反論するが、番組は何を取り上げ、
何を報じなかったのか。3日の第2回放送を前に、その“文脈”を検証する。(牛田久美、
草下健夫)

【台湾民族と漢民族】
 ≪一家は中国福建省から移り住んできた漢民族でした≫

 番組でそう紹介された元医師の柯徳三さん(87)は「私は漢民族ではない」と言い切る。
 「台湾人の祖先は、宋代に南アジアの少数民族との混血が進んだ。その一部が約200年
前に台湾に移り、南方系の先住民と結婚した。私でその移民から7代目。漢民族の血は1万
分の1も入っていない」
 台湾民族のHLA(ヒト白血球型抗原)を研究したことのある東京大学の徳永勝士教授
は「民族の呼び方は、その人たちのアイデンティティーを尊重するべき。(反発は)自然
なことなのでは」と語る。北京政府は、台湾を国家として認めず「中国の一部」と主張す
る。漢民族という呼び方は、その文脈に沿った表現といえる。

【日台戦争!?】
 ≪台湾人の抵抗は激しさを増していきます。戦いは全土に広がり、後に日台戦争と呼ば
れる規模へと拡大していきました≫

 番組出演者の蒋松輝さん(96)は「初めて聞く」と驚きを隠さない。「確かに祖先は抵
抗し、治安は悪かったが、戦争は言い過ぎ」。柯さんも「思いも寄らない言葉だった」と
語る。

 NHKは「日本軍だけで死者は5000人近くにのぼった。学者も用いている」としている
が、4000人以上はマラリアによる病死で戦死ではない。国立国会図書館の論文検索でも
「日台戦争」は1件もヒットしない。学説と呼べるのだろうか。

【人間動物園…】
 このほかにも、数多くの疑問が示されている。
 「台北一中の生徒は台湾人が2人だけで厳しい制限付きだったというが、教育は開かれ
ていた」(台湾協会、小原孝弼さん)

 「樟脳(しょうのう)生産や港湾整備を取り上げ≪金のなる島≫と強調したが、日本の
統治への高い評価が抜け落ちている」(日本李登輝友の会、柚原正敬事務局長)

 「(先の大戦で)21万の台湾人を戦場にかり出したと言うが、その10倍も(日本軍への)
志願者がいた事実は報じていない」(日本文化チャンネル桜、水島総代表)

 1910年にロンドンで開かれた日英博覧会で台湾の先住民族を紹介したことを≪人間動物
園≫と表現したことも、自民党議員らから反発を集めた。

【多面的か?】
 出演者の柯さんが「日本統治の功罪の両面を50%ずつ話したが、NHKが取り上げたの
は罪の部分だけ」と評したこの番組が放送された後、NHKには4月末までに2500件を超
える声が寄せられた。「多くが『一方的だ』という意見」(NHK広報部)だったという。
放送法3条は「意見が対立する問題は多くの角度から論点を明らかにすること」と定めて
いる。台湾研究フォーラムの永山英樹会長は「日本が侵略者だというストーリーに合わせ
て証言、史実を切り貼りしている。一面的すぎる」と評する。

 日向総局長は、多面性の確保については「放送全体の中で考えてほしい」としている。
第2回以降の放送が注目される。
                   ◇
【用語解説】NHKスペシャル「JAPANデビュー」
 NHKが今後3年間にわたって「これから日本はどこに向かい、私たちはどんな生き方
を選ぶのか」(番組広報資料)をテーマに、歴史から教訓を探る目的で放送する大型企画
番組「プロジェクトJAPAN」の一シリーズ。NHKによると(1)アジアの“一等国”
(2)天皇と憲法(3)貿易で立つ国家(4)軍事強国−の4回を放送予定。



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