【産経記事】分厚い顔を持つ恥知らずな国

【産経記事】分厚い顔を持つ恥知らずな国

2009.12.7 産経新聞

野口裕之の安全保障読本

 中国軍がレバノンに派遣するPKO(国連平和維持活動)部隊を編成した際、大きな違和感を覚えた。

 中国は、PKO派遣兵力が24回・延べ1万人を超え、常任理事国中1位であるため、派遣目的が「中東・アフリカへの影響力拡大やエネルギー資源獲得」であっても、それは当然だ。PKOへの部隊派遣は、鳩山由紀夫首相が大好きな「友愛」外交からではなく、どの国も国益と天秤(てんびん)にかけた結果であるからだ。

 日本は、中国の「不純な狙い」を非難する前に、派遣しないことによる不利益を反省する必要がある。だが、武力紛争を解決すべきPKO派遣国=中国が、当該地域に武器密輸し、紛争を助長しているとなると、「不純な狙い」では済まされない。PKOの目的である「国際紛争防止」を形骸(けいがい)化させる国際犯罪である。

 中国軍が参加している国連レバノン暫定駐留軍の目的の一つに、「南レバノンからのイスラエル軍撤退監視」がある。そのイスラエル軍は、パレスチナ自治区ガザのイスラム原理主義組織ハマスと激しい闘争を継続中だ。そうした中、イスラエル国防省は今年1月、「ハマスのロケット弾・カチューシャは中国製」と、地元メディアにリークした。中国政府は、「第3国から密輸されたもので、ハマスに売ったことはない」と弁解している。しかし、カチューシャの製造番号は消されているが、ロシアではほぼ製造停止になっている。

 そもそも中国には前科がある。イスラエル国防省がリークしたころ、スーダンでのPKOに向け中国軍第2陣1次部隊153人が出発。道路や橋、駐機場の建設・補修をはじめ、水資源調査や井戸掘削、取水補助施設建設などを実施するためだった。だが、あろうことか、平和を植え付けに来たこの国に軍用トラック200台以上を売りつけている。まさに、国連という羊の皮をかぶった狼の「マッチポンプ」。国連経費を使い「死の商売」を続けているに等しい。

 ところが、外交・安全保障関係の米シンクタンク・全米外交政策委員会(NCAFP)のジョージ・シュワブ会長によるレバノン派遣部隊へのはなむけの言葉には、唖然(あぜん)とさせられた。

 「中国はこれまでずっと、国際社会の優秀な一員だった。それは、中国の外交政策目標が平和維持・戦争反対だけでなく、アフリカなど開発途上地域の発展に向けた一層の支援である事実を表している」

 NCAFPは、中国共産党や朝鮮労働党とのパイプが太く、両党との「対話路線」をすすめてきた。それを差し引いても、国連のシンボルカラーとして知られる空色のベレー帽や、ヘルメットの着用を定めるPKO部隊の尊称「ブルー・ヘルメット」が最も似つかわしくない戦闘集団への賛美が過ぎる。

 もっとも、水面下でいかに悪辣(あくらつ)な武器密輸をしようが、国際社会も被派遣国も実績で評価する。警察官を含めた中国のPKO要員展開数は9月末で2147人。常任理事国の中では最大規模(加盟国中14位)であることは既に述べた。一方、常任理事国で中国に次ぐのはフランスの2021人(同16位)。これにはちょっと驚いた。3自衛隊とほとんど同規模の仏3軍は、PKOとは別にアフガニスタンやジブチ、ガボン、アブダビだけでも7500人の兵力を展開中だからだ。

 仏軍もまた中国軍と似たようなもので、宗主国としての既得権益保護に加え、エネルギー資源確保に始まり、武器輸出なども成約させる「先兵」となっている。中国軍との違いをあえて挙げれば、露骨な「マッチポンプ」を避けていることぐらい。

 これに対し自衛隊の場合は、PKO枠で出ている自衛官は54人(同84位)。その他、ソマリア沖海賊対策や対テロ給油活動に900人を派遣しているに過ぎない。自民党との政策の違いを際立たせるため、民主党は「自衛隊以外のアフガン貢献」を必死で作り出し、給油活動終了を模索する。「国連中心主義」を掲げる小沢一郎幹事長からもPKO拡大の発言は、ほとんど聞こえない。中国海軍に先を越され、慌てて出した海賊対策だけが続行可能性が高い。

 繰り返すが、PKOを含め有力軍部隊の海外派遣は、「武器セールス」の側面を併せ持つ。中仏両軍は今後世界で展開し、共同作戦も増えるだろう。1989年の天安門事件以来、対中武器禁輸措置を採るフランスは、その「売却欲」をいつまで自制できるだろうか。

 「友愛」外交では、とてもとても阻止できない。


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