【産経正論】「頑健な日本」の姿勢を見せよ

【産経正論】「頑健な日本」の姿勢を見せよ

2018.8.21 産経新聞

 明治大学名誉教授・入江隆則

 世界は目下、歴史的な大転換期に遭遇している。何からの転換かといえば、第二次世界大戦の長かった「戦後の時代」からの転換である。むろん「戦後は終わった」くらいのことなら、何年も、いや何十年も前からさんざん言われてきたことではある。しかし、当時の人々の目には「戦後」が終わったことは漠然と見えてはいても、その後に何がくるのかが必ずしも判然としていなかった。

 それがやっと見えてきたのがこの数年間の情勢であり、その意味ではやっと人々の目に「ポスト戦後」の姿が映じてきたようにみえる。それは世界有数の大国が、自分自身の内部に回帰していく時代として現れていると思う。

 ≪米国抜きの安全保障を考えよ≫

 まずアメリカであるが、トランプ大統領が述べた「アメリカファースト」という言葉について、いろいろ解釈もあるようだが、私はアメリカ大陸以外の世界からの関与からの撤退と考えればよいと思う。いわゆるモンロー主義への回帰だ。

 周知のようにモンロー主義というのは第5代大統領のジェームズ・モンローが1823年に述べた、アメリカとヨーロッパの相互不干渉を主張する外交政策の原則である。ここでヨーロッパが出てくるのは、ヨーロッパこそが当時の世界の実質的な全てだと見なされていたからである。

 従って、今日、同じことを言おうとすれば、ヨーロッパのみならず中東からアジアまでを含めた全世界から降りるということになり、それが「世界の警察官といった愚行は一切、やめる」というトランプ大統領の言葉になる。

 もちろん、直ちに在韓米軍を引き揚げるわけではないにしても、徐々にそういう方向にアメリカが動いていくことは確かだと考えなければならない。日本としても「アメリカ抜きの世界」の安全保障を今から考えておかねばならないだろう。

 ≪中国は復讐を意図している≫

 次いで中国だが、同様に自分自身への回帰に向かっていくと考えられる。しかし、それは中国が繁栄した時代だった14世紀から17世紀にかけての明帝国に還(かえ)ろうとしているかのようだ。明朝時代の中国は、鄭和の艦隊の大航海が象徴しているように東シナ海や南シナ海のみならず、インド洋からアフリカ沿岸までをも、その支配下に置いていた時代だった。だから現代の中国の世界戦略である「真珠の首飾り」や「一帯一路」といった海と陸からの大中華帝国に似た時代だった。

 同時に今日の中国には「世界列強への復讐(ふくしゅう)」という戦略があるのも見逃してはならない。これは歴史家のアーノルド・トインビーがつとに指摘していたところで、19世紀以後の中国は1840年にアヘン戦争が起こり、その半世紀後の94年に日清戦争が起こっている事実から明らかなように、世界の「列強」からいじめられてきた歴史がある。今日の中国がそれに対する「復讐」を意図しているのが、アメリカの先祖還りとの重大な相違である。

 ≪期待を裏切ってはならない≫

 では日本はどうか。思い出すべきは、第二次大戦後の日本人が自虐的な東京裁判史観によって“洗脳”された事実である。戦争に至る過程で「すべて日本が悪かった」というのがその考え方である。同時に戦後日本の「超平和主義」も、アメリカが日本の復讐を恐れて、日本人の頭にたたき込んだ結果である。この問題については、彼らが第一次大戦のドイツの戦後から学習した側面がある。

 第一次大戦の敗戦国だったドイツは、勝者だった連合国によってさまざまな外的、軍事的な拘束を課された。将校の数が4000人を超えてはならないとか、10万人を超える軍隊を持ってはならないなどの規制である。

 しかし裏をかくのはたやすいことで、例えば民間人に実質的な軍人としての教育を施しておけば、一朝有事の際には軍人をそろえることができる。したがって思想教育や洗脳が重要なのであって、それを敗戦国民に施して大成功を収めたのが、日本の戦後の特色だった。

 それでは洗脳から脱して、本来の日本を取り戻すためにはどうしたらよいか。記憶すべきことは、昭和20年8月15日までの日本軍は世界第一級の精強な軍隊だったことである。それは日本軍と戦ったアメリカ人がよく知っていた。だからこそ、「超平和主義の日本」を意図的に作り上げたのである。

 しかし、世界の人々は「毅然(きぜん)として戦った日本」を決して忘れてはいない。

 戦後の日本が初めて遭遇する重大な国際紛争としての尖閣諸島問題に直面している今こそ、われわれは「頑健な日本」の姿勢を見せなければならないはずである。中国に対抗できる国は、東アジアでは日本しかないことを世界の人々は知っている。その期待を裏切ってはならない。(いりえ たかのり)


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