【産経主張】蔡政権1年 民主主義の成熟を強みに

【産経主張】蔡政権1年 民主主義の成熟を強みに

2017.5.21産経新聞

 台湾の蔡英文政権が発足1年を迎えた。

 政権交代時の興奮は冷め、一転して政権の支持率は伸び悩んでおり、蔡総統は「夜明け前の闇だ」として、低迷脱出に奮起を誓っている。

 支持率の波は民主社会の常だ。蔡氏には、就任演説で掲げた台湾の平和と安定などの公約実現に全力を尽くしてもらいたい。

 海峡対岸の中国は、「一つの中国」をめぐり、蔡政権に圧力を強める。世界保健機関(WHO)の総会から台湾を排除した。南太平洋フィジーの在台事務所が閉鎖されたのも、中国の働きかけとみられる。

 訪中した与党・民主進歩党(民進党)の元職員が、中国の治安機関に身柄を拘束される事件も起きた。これまで複数の日本人訪中者も拘束され、帰国が実現していない。とても人ごとではない。

 露骨な圧力を受けながらも、蔡政権は両岸(中台)関係の「現状維持」を掲げている。恫喝(どうかつ)的な行為に屈せず、頑張り抜けるかどうかの大事な時期だろう。

 政党別の好感度では、民進党と新興政党の時代力量が上位を占める。いずれも中国が台湾独立派として警戒する政党である。

 統一への圧力を強めることによって、台湾の民意を中国になびかせるのは難しいということだろう。中国は蔡政権との建設的な対話に方針転換すべきである。

 台湾の安全を確保するため、蔡政権が日米との関係強化を求めたのも当然だ。

 米国とは大統領選当選後のトランプ氏と蔡氏の電話会談が、1979年の米台断交後初めて行われた。日本との間では、高官交流の副大臣級への格上げや、「日台」の呼称を織り込んだ窓口機関の名称も実現している。

 外交関係はなくとも、日米台は法の支配や民主主義の理念を共有している。実務的な台湾との関係強化に知恵を絞りたい。

 折しも、今年は台湾で世界最長といわれた戒厳令が解除されて30年となる。台湾では中国国民党の一党独裁が終わり、複数政党制による民主政治が定着した。

 共産党独裁が続く中国にとって最も目障りなのが台湾の民主主義ではないか。

 再び独裁体制に陥るようなことになってはなるまい。そのためにも、民主主義の成熟に向けた不断の努力が望まれる。

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