【産経主張】天安門事件30年 終わりなき弾圧を許すな

【産経主張】天安門事件30年 終わりなき弾圧を許すな

2019.6.4産経新聞

 ■覇権助けた対中政策に猛省を

 中国の民主化を訴える学生らに対し、戒厳部隊が血の弾圧を加えた1989年6月4日の天安門事件から30年を迎えた。

 事件後、中国から逃れた民主活動家らを迎え、この日は海外で追悼行事が行われる。自由と民主主義を訴え、犠牲となった人々を悼みたい。

 最高実力者だったトウ小平氏ら中国共産党指導部は、学生らの運動を「反革命暴乱」と断罪した。

 今日まで共産党はこの評価を固持し、民主化に踏み出す政治改革を完全に拒んでいる。弾圧の罪を悔いない独裁政権が、世界第2の経済大国を支配する現実を改めて認識しなければならない。

 ≪国内外に事実の開示を≫

 天安門広場を埋めた学生らは、戦車、装甲車を擁する戒厳部隊によって駆逐された。

 この過程で一体何人が犠牲となったのか。事件をめぐる基本的な事実すら30年を経て開示されていない。極めて遺憾である。

 当時の李鵬首相は事件の約3カ月後に犠牲者を「319人」と述べた。他方、海外での報告などは犠牲者を数千人から1万人規模とみる。事件の真相を明らかにすることこそ、異常な現状をただす最低限の一歩である。

 共産党政権下の中国では、災厄を招いた大躍進運動、文化大革命の犠牲者も公表されていない。だが、国際社会で中国の存在感が高まった現在、毛沢東時代と同じ隠蔽(いんぺい)を見逃してはならない。

 党指導部がどう押さえ込もうとも、国民を銃で弾圧した罪科は免れ得ない。事件を見直し、再び政治改革に踏み出すことが、最終的に中国国民の福祉に最良の選択肢であることは疑いない。粘り強く実現を求めたい。

 習近平国家主席は、事件処理の中心にあったトウ氏の影響から離れて選出された。父が改革派長老だったことを踏まえれば、習氏が事件の見直しに正面から取り組む余地もあったのではないか。

 ところが、習氏は汚職排除を口実に党内の政敵粛清に力を傾注した。相次ぐ治安立法やハイテクも駆使した国内統制で終わりのない弾圧を繰り広げている。

 憲法改正による国家主席の任期制廃止は、毛沢東時代の教訓だった長期独裁への歯止めを捨て去る最悪の暴挙だった。

 当時学生リーダーだった王丹氏は、中国の人権状況が「天安門事件前と比べて、はるかに悪くなった」と述べた。正しい情勢認識であり、もはや習政権下の中国と民主や法の支配という価値観を共有できないことは明白である。

 トウ氏が進めた改革・開放政策に対して、日米欧は積極的な関与を取った。旧ソ連への対抗策に加え、中国が豊かになればやがて民主化するとの期待があった。

 ≪日本は人権で旗を振れ≫

 その期待が誤っていたことは、中国が巨大な経済、軍事力を背景に対外覇権を強め、独裁を進める今日の姿で証明済みである。

 事件の直後、日本は円借款の凍結など米欧とともに対中制裁に加わった。関与の誤りを修正する重要な機会だったが、海部俊樹内閣は円借款の再開で世界に先駆け対中制裁の解除に動いた。

 事件と同じ89年には、東欧のポーランドで自由選挙が実施され、東西分断の象徴だったベルリンの壁が崩壊した。世界で社会主義体制が終焉(しゅうえん)に向かう歴史的な転機にあって、日本は国民虐殺の責任を問うことなく中国の独裁政権の再起に手を差し伸べたのだ。

 この教訓を胸に刻み、対中政策が中国の覇権を再び助長することのないよう政府に求める。

 米国との緊張を受け、中国は対日関係の改善を急ぐ。安倍晋三首相も日中関係が「完全に正常な軌道」に戻ったとの判断だ。

 中国は習政権の進める巨大経済圏構想「一帯一路」に日本の参入強化を求めている。構想は中国の対外拡張戦略であり、この構想で日本が安易に関与しては事件の教訓が無に帰する。

 6月には20カ国・地域首脳会議(G20サミット)出席のため習氏が来日する。事件の惨劇から30年にあたり、日本は事件を忘れない姿勢を示すべきである。

 中国に民主化を促すことは、日本の国益にも合致するはずだ。状況悪化が伝えられる中国の人権問題で、日本が世界の先頭に立つことも重要だ。

 自由と民主主義の価値観を確認して中国に向き合いたい。


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