2019/4/3 産経新聞
中国軍の殲(せん)(J)11戦闘機2機が台湾海峡の中間線を東に越境した。
中台の実質的な停戦ラインの侵犯である。台湾軍は戦闘機の緊急発進など迎撃態勢を取らざる
を得なかった。
狭い海峡上空での挑発は、偶発紛争すら招きかねない。中国の危険な⾏動を強く⾮難する。
国共内戦の延⻑線上に台湾を位置づけることで、中国はこれまでも台湾周辺で武⼒威嚇を繰り
返してきた。1996年の台湾総統選に合わせた中国によるミサイル演習は、台湾海峡にとどま
らず、地域全体の緊張を⾼めた。
今回の挑発は、台湾の蔡英⽂総統の対⽶外交を牽制(けんせい)したものだろう。蔡⽒は南太
平洋諸国の歴訪中、⽶ハワイ州で現役の⽶軍将官と会談した。インターネット回線経由でワシン
トンのシンクタンクに向けても講演した。
講演で蔡⽒は、習近平政権が軍事圧⼒を伴って「⼀国⼆制度」の受け⼊れを迫る現状を踏ま
え、「台湾軍の強化」を訴えた。台湾海峡の現状に照らせば指導者として当然の発⾔である。
もちろん、中国の視野には来年1⽉の台湾総統選が⼊っている。再選をめざす蔡⽒をにらんだ
軍事⾏動は、⺠主的な選挙制度を揺さぶる暴挙にほかならない。
蔡⽒と同じ与党⺠主進歩党(⺠進党)では、「台湾独⽴」をより鮮明に主張する前⾏政院⻑
(⾸相に相当)も総統選をめざす。他⽅、最⼤野党の中国国⺠党で出⾺が取り沙汰される⾼雄市
⻑の訪中を中国は厚遇で迎えた。
飴(あめ)と鞭(むち)を交えた台湾への政治介⼊は、中国の常套(じょうとう)⼿段であ
る。中国の総統選への介⼊に警戒を強める必要がある。
地域に⽬を広げれば、東シナ海の⽇中中間線付近でも、中国は新たなガス⽥試掘の動きを昨年
から強めた。台湾海峡情勢は、軍事⼒を背にした中国の海洋進出と密接にかかわる。
台湾を含む地域の安全に責務を持つ⽶国の対応は、とりわけ重要だ。⽶軍艦艇が今年に⼊り毎
⽉台湾海峡を通過している事実は、この地域で中国の暴挙を許さない意思の表れとして歓迎した
い。
こうした地域情勢を前に、⽶台と⾃由と⺠主主義という共通の価値観を有する⽇本が無策でい
ることは許されない。蔡⽒が提案した安保対話を含め、実効的な地域の協⼒に踏み込むべきだろ
う。
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