【産経・主張】外交安保 脅威増す隣国を直視せよ

【産経・主張】外交安保 脅威増す隣国を直視せよ 世界の安定に責任果たす時だ

産経新聞2016.1.5

 アジア太平洋での覇権を追い求める中国は、年が替わってもその貪欲さを隠そうとさえしない。

 日本は外交、安全保障のあらゆる政策を用いながら、この地域の平和と安定を保つことに注力していく必要がある。

 それなしには、伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)の議長国として指導力を発揮し、国際社会で十分な役割を果たすこともままならないからだ。

 中国の不穏な動向は最近も相次いで報じられた。

 東シナ海では、昨年12月26日、中国海警局の公船(巡視船)3隻が、尖閣諸島周辺の日本領海に侵入してきた際、うち1隻の甲板に機関砲とみられる装備が搭載されていた。

 ≪尖閣危機新たな段階に≫

 従来、尖閣海域に出没する中国公船は砲を外していた。政府には中国側の「自制」との分析もあったが、中国はそれさえかなぐり捨てたということだろうか。

 尖閣をめぐる危機のステージは上がったと見るべきだ。それに対応できる警戒の強化が必要だ。

 南シナ海の波も高くなっている。スプラトリー(中国名・南沙)諸島で国際法を無視して人工島の軍事拠点化を進めている問題で、中国外務省は人工島の滑走路で航空機を離着陸させたことを今年に入り公表した。

 中国国防省は2隻目の航空母艦を建造中であることを、昨年末に発表した。

 昨年10月、米海軍がこの海域で「航行の自由作戦」を行い、中国の人工島領有を認めない姿勢を明示したことへの挑戦といえる。中国の強硬姿勢には、沿岸国のベトナムやフィリピンも反発する。

 さらに中国は、第2砲兵部隊(戦略ミサイル部隊)を「ロケット軍」に格上げすることを明らかにした。核戦力でも米国に対抗していく国家意志がみえる。

 引っ越しができない隣国としていかに対処していくかが、安倍晋三政権に改めて問われている。

 昨年11月に実現した日中韓首脳会談などを通じ、日中関係に一定の改善はあった。経済面の結び付きを求める意見もあるが、安保環境の悪化を忘れてはなるまい。

 3月下旬に安全保障関連法が施行され、自衛隊の法的な行動範囲が広がる。日米同盟の抑止力強化は、より幅の広い外交政策を進める土台にもなる。

 安倍首相は年頭会見で、安保関連法の成立で「子や孫の世代に平和な日本を引き渡していく基盤を築くことができた」と語った。

 新たな法的基盤に基づき、どのように自衛隊を活用し、平和を築いていくかの具体的方策をもっと国民に説明してほしい。

 危機の際に国や国民を守る自衛隊の人員、装備の一層の充実を図る努力も続ける必要がある。

 ≪議長国の手腕問われる≫

 これら日本自身の取り組みは当然として、外的要因にも目を向けねばならない。

 一つは、米国が大統領選の年に入ったことだ。

 アジア太平洋を重視する米国の「リバランス(再均衡)戦略」が、おろそかになる恐れがある。「米国不在」の間に、中国が南シナ海などで勢力を広げ、既成事実を作り上げかねない。

 泥沼のシリア内戦などに加え、新たにサウジアラビアの対イラン断交という事態が生じた。中東情勢のさらなる混迷が懸念され、日本としての戦略も求められる。

 問題は、国際社会の目が中東に集中し、アジア太平洋への関心が相対的に低下することだ。法の支配よりも力を重視する中国が身勝手な行動をとりやすい環境を作らないよう、日本は欧米や周辺国との緊密な連携が欠かせない。

 国際テロ対策、地球温暖化問題、世界経済の行方など課題は山積しているが、日本の国益に資する課題への取り組みをこの機会に強く主張するのは当然である。

 日本は国連安全保障理事会の非常任理事国(任期2年)にも就いた。北朝鮮による日本人拉致、核・ミサイル開発の問題についても、優先的に対応するよう仕向けることが重要だ。

 首相は「日本外交が世界を引っ張っていく」とも語った。

 オバマ米大統領の政治力の低下が見込まれるなか、外交、軍事面で影響力を増す中国やロシアにどのように対処していくのか。世界の平和と安定に直結するだけに、首相の手腕が厳しく問われる。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: