【王明理】「戦後日本と台湾の関係」4

戦後日本と台湾の関係(4)
                 王 明理 台湾独立建国聯盟日本本部 委員長 

【もし、敗戦がなかったら】

 歴史にif(イフ)は無いと言うが、もし、日本が敗戦せず、そのまま台湾の領有を継続していた場合、どうなっていたかを書いてみたい。

 おそらく、日本の技術力をつぎ込んだ米作、製糖業などの産業は更に収益を上げるようになり、高等教育を受けた台湾人が多く育ち、より多くの台湾人が社会の運営に携わるようになっていただろう。そして、戦後の住民自決、自主独立の気運に乗って、1960年代に次々とアジア、アフリカの国々が独立する様子を見て、日本は、台湾を独立させただろうと推察する。

 その時には、もちろん、議会制民主主義の制度をきっちり作り、行政、警察、教育、産業など全ての面でしっかり台湾人に仕事を任せられるように手配してから、日本人の引き揚げを考えたであろう。

 そうであったなら、台湾人はどんなに幸せであっただろう。母語台湾語を公用語にしつつも、台湾語のリテラシーが育つまでの間は、引き続き、日本語も公用語の一つとして使用したはずだ。

 日本にとっても、隣国に、日本精神を持ち、日本語を理解する穏やかな気風の民主主義国家があったとしたら、どれだけ心強かったであろう。両国は、安全保障面でも、経済面でも、技術開発面でも、最高のパートナーとなってアジアをリードし、他のアジア諸国をもその仲間に入れて、アジアの民主主義国家連盟として国際社会の一翼を担ったに違いない。

 今の日本の現状と比べてみれば、このイフの話がどれほど魅力的であるか分かると思う。

 架空の話で片付けず、この理想の状態に近づけるような方向に日本は舵を取るべきではないだろうか。つまりは、台湾との関係を正常に戻すことである。もはや、中国の顔色を伺っている場合ではない。台湾をどうするかで日本の将来も決まる。

 いくら経済面で中国と抜き差しならぬ関係になっているとはいえ、経済は国家あってこそのもので、国家の大事より優先するものではないはずだ。家庭に置き換えてみればよく分かる。金は持っているが道徳心のないめちゃくちゃな家庭を目指すのか、多少経済的に苦しくてもしつけの良い子供たちと両親が仲良く労わりあって暮らす家庭を目指すのか。

 もし、台湾問題を看過しているうちに、台湾が中共の一部になってしまったら、台湾は中国の永久的不沈空母として、海軍空軍基地となり、日本の一大脅威となることは間違いない。日本のそばに親日国家台湾を置くのか、反日国家の前線基地を置くのか。前者であれば、どうすればいいのか、よく考えて速やかに対策を講じる時が来ている。台湾と日本の幸せは、一蓮托生、運命共同体であることを忘れないでほしい。戦後70年、日本人が立ち止まって考え直す時であると思う。

 台湾の歴史については、王育徳著『台湾―苦悶するその歴史』(1964年・弘文堂、1970年改訂)、酒井亨『台湾入門』(2001年・日中出版)をお薦めします。

 また、戦前、戦後の台湾の様子は、王育徳の自伝『「昭和」を生きた台湾青年』(2011年・草思社)に詳しく描写されています。

(完)

著者:(おう めいり)東京生まれ。慶應義塾大学文学部英文学科卒。父王育徳の志を継ぎ、現在、台湾独立建国聯盟日本本部委員長。編集書『王育徳全集』『「昭和」を生きた台湾青年』、共訳書『本当に「中国は一つ」なのか」、他詩集など。

〔『伝統と革新』19号(2015年5月刊)「戦後はまだおわらないのか?」(たちばな出版)に掲載〕

2015.6.18 08:00


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