【渡辺 利夫】日台交流基本法を

【渡辺 利夫】日台交流基本法を 

【月刊「Voice」2019年5月号】
          

 渡辺 利夫(拓殖大学学事顧問)

 岩波書店の広辞苑の最新版で「日中共同声明」の項目を引いてみると、こうある。「中華人民共
和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め、中国は賠償請求を放
棄した」。しかし、共同声明の正文では、台湾が中国の「領土の不可分の一部である」という中国
の立場を、日本が「十分理解し、尊重する」となっている。「理解」とは、広く用いられている外
交用語でいえば「認識する」(acknowledge)であって、「承認する」(approve)や「同意する」
(concur)ではない。しかし、中国の国力が増大し、台湾のプレゼンスが相対的に縮小する過程
で、いつの間にやら台湾が中国の一部であることが当然視されるようになってしまったのであろ
う。残念なことである。

 実際問題として、日本と台湾の交流は、日本側に「日本台湾交流協会」、台湾側に「台湾日本関
係協会」という民間実務機関を設け、これが人的往来、在留、船舶・航空機の運航、経済・文化交
流の実務を担当している。そして両機関の間で、実に多様な取決めがなされてきた。「日台双方の
交流と協力の強化に関する覚書」に始まり、「日台航空自由化(オープンスカイ)協定」「日台民
間投資取決め」「日台漁業取決め」「日台民間租税取決め」「税関相互支援のための日台民間取決
め」「海難捜索救助分野の協力に関する覚書」などである。

 しかし、残念ながらこれらは民間実務機関の取決めであって、主権国家相互の間で締結された国
際法ではない。法治国家としてきわめて不自然なことである。それら諸取決めを主権国家として法
的に担保するための、米国の「台湾関係法」に類する、日本版の「日台交流基本法」ともいうべき
国内法を成立させる責任が日本にはある。

 台湾海峡に深刻な危機が迫ろうとしている。実務機関の取決めでは安全保障分野に踏み込むこと
など論理的に不可能である。米台日の安全保障協力体制の構築をも見据えた“「日台交流基本法」
を早急に制定せよ”という提言を日本李登輝友の会が発している。注目が集まることを願う。

              *     *     *

[わたなべ・としお]1939年、山梨県生まれ。70年、慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修
了。経済学博士。筑波大学・東京工業大学教授などを歴任。拓殖大学国際開発学部学部長、学長、
総長などを経て、2015年12月より現職。


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