【浅野和生】WHOにおける中国の呪縛を解け

【浅野和生】WHOにおける中国の呪縛を解け

台湾の常時参加実現を
中国贔屓が情勢悪化に拍車

平成国際大学教授 浅野 和生

 新型コロナウイルス(COVID-19)に対する世界保健機関(WHO)テドロス事務局長の言動は、当初から中国に傾斜しており、不適切であった。

 最初は1月23日、中国以外では人から人への感染が見つかっていないとして、「世界的な健康の危機ではない」とし、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」宣言を見送った。30日には、前言を翻して「緊急事態」を宣言したが、同時に、「渡航や貿易の制限は推奨しない」と述べ、中国は「感染症流行への対応に新たな模範を示している」と称賛した。このとき、中国に遠慮せず、WHOが中国との渡航制限を強力に呼び掛けていれば、その後の悲劇は抑制されたのではないか。

<<一覧表から消えた台湾>>

 さらに3月2日、中国以外の直前24時間の感染者増加数が、中国の約9倍だとして、テドロス事務局長は韓国、イタリア、イラン、日本の4カ国が「最大の懸念だ」と述べた。しかしこの日までに、中国の感染者数は8万人を超えたが、韓国4200人、イタリア1700人弱、イラン1000人弱、日本は250人ほどだった。実はこの中国の数値は、症状のない感染者4万人超を省いたものだという。要するに、テドロス発言は、国際的な非難を中国から逸(そ)らそうとしたものではないか。

 さて、1月20日から毎日、WHOが新型コロナウイルスの状況報告(Situation
Report)を公開している。当初、状況報告の一覧表は一つだったが、2月1日から二つになった。表1は、中国だけ独立して扱ったもので、中国の地域ごとの数値を掲示した。表2は、中国以外の各国感染者数等一覧である。その表1に、中国の一部という扱いで、台湾の数値が掲載された。

 周知のように、台湾の新型コロナウイルス対策は、初動が早く、かつ徹底していたため、感染拡大抑制に成功してきた。3月15日時点で、台湾を除く中国全土の感染者は中国発表の数値で8万995人、死者3203人に達したが、台湾では感染者53人、死者1人であった。

 台湾政府が主権独立国家として、2月当初から、中国からの入国者を拒絶した結果がこの数値である。つまり、新型コロナウイルスは、中国が主張する「一つの中国」という虚構に対して、台湾が中国とは別の国家として厳然と存在する事実を示したのである。

 その後、感染拡大の中心は、2月までの中国から、3月には欧州、米国に移った。するとWHOリポートは、3月16日から表1を廃止し、表2に中国の数字を加えた各国情勢一覧だけにした。

 ところで、表1が消えた結果、台湾の数値も消えてしまった。これ以後、WHOの情勢リポートでは、台湾の数値は「中国」の数字に吸収されてしまった。同リポートでは、台湾の数値も、台湾を除いた中国の数値もわからなくなった。一方、アメリカ領のグアム、フランス領のポリネシアやニューカレドニアは「Territories」として掲載されているのである。

 人口2300万人を数える台湾だが、昨年、日本を訪れた台湾人は500万人、台湾を訪れた日本人は200万人を超えている。それだけに日本の新聞各紙は、中国とは別に台湾の数値を掲載している。本来、WHOが台湾の数値を中国の一部としたこと自体が間違いだが、世界の感染症対策の総本山が、今や台湾を無視している。

「一つの中国」を標榜(ひょうぼう)する中国は、WHOに台湾が別枠として参加することを峻拒(しゅんきょ)してきた。だからWHOは、台湾代表の会議への参加も認めてこなかった。しかし2月11、12日の研究会合には、日本やアメリカの強い要望によって、台湾もインターネット参加を認められた。今回は良かったが、一時的な対処にすぎない。

<<脅かされる人々の生命>>

 WHOは中国の呪縛(じゅばく)によって、機能不全に陥っている。今やその呪縛は、事務局長個人にも及んで、的確な判断と情報発信を妨げている。その結果、世界の多数の人々の命が脅かされてしまった。

 世界の感染症拡大防止のため、日本は、アメリカその他価値観を共有する国々と協力して、WHOにおける中国の呪縛を解き、台湾の参加を実現させ、機能を回復させなければならない。そうしなければ、困るのは日本人であり、世界なのである。

<<(あさの・かずお)>>


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