【注意喚起】林志昇集団とその分派の主張の危険性

「台湾の声」【注意喚起】林志昇集団とその分派の主張の危険性

作者:多田恵 2014.5.21

1.はじめに

栗原茂男氏の主宰する「純日本人会」のメールマガジンに4月16日、次のような黄恵瑛の文章が掲載された:

“我々の台湾地位正常化促進会は台湾民政府と同じではありません。台湾の「日属論述」は我々の国際法研究家の発見で台湾民政府が利用しているのです。”

これは、栗原氏が「台湾地位正常化促進会」準備委員を名乗る黄に対して、「台湾民政府」と同じかどうか訊ねたメールへの回答である。本稿では黄の言葉を検証するとともに、林志昇集団の分裂の概略とその主張について批判的に検討する。

2.経緯

なお、黄のこの表明の経緯は、黄が「台湾地位正常化促進会」準備委員という肩書きで、2013年8月8日付で“「台湾」は、天皇陛下に返還すべき! 日本国民は「万国公法」を依拠に、米国大統領へ訴求せよ!”という文章を発表し、それを、増木重夫氏が主宰する「NPO法人百人の会」を経由して栗原氏がインターネット上に転載した。その黄氏の文中に“「(植民地)は割譲できるが、(固有領土)は割譲できない」のが「万国公法」の鉄則である。”とあることについて、今年の2月、筆者がその根拠を栗原氏に質したことが発端になっている。

これについて、栗原氏を経由して黄より、「万国公法とは、移転できない天賦の自然法です。固有領土は人間の手足と同じく割譲できません。」という返事があったが、根拠や傍証はまったく示されなかった。

台湾は下関条約により日本が主権を持つにいたった。主権には割譲する権限も含まれるくらいであるから、サンフランシスコ講和条約で「放棄」する権限もあると考えられる。

たしかに、結果から言えば、日本による「すべての権利・権原の放棄」によって台湾人の生命を含む権利が大きく侵害されたが、それは一義的には、当時、連合国を構成していた蒋介石政府の不法行為が原因である。

黄らの考えは平和条約たるサンフランシスコ講和条約を否定する、つまり、平和的秩序を否定する暴論である。

3.黄恵瑛と林志昇

「美国加州聖地牙哥台湾同郷会(米国カリフォルニア州サンディエゴ台湾同郷会)」のウェブサイトに2005年に掲載されたアンディ・チャン氏の記事は、サンノゼの環球漫話社という雑誌社の社長である陳辰光と同社の副社長で編集長をしている黄恵瑛が7月15日にサンディエゴの台湾センターを訪れ、台湾にいる何瑞元(Richard Hartzell)と、「陳志昇」の台湾の国際地位についての見解を伝えたことなどを紹介している。「陳志昇」というのは「林志昇」の誤植であろう。

林志昇は、同年の4月に、何瑞元とともに、『台美関係関鍵報告』を出版し、5月には、「建国党」から唯一、「任務型国民大会」の議員に当選しているが、6月に辞任した。翌年末には、「保護台湾大聯盟」から高雄市長選挙に挑戦するも、1746票しか取れず、最下位で落選。すると、なんと、「美國台湾平民政府」の名義で、自らが高雄市長に当選したと宣言した(インターネットによる)。

2009年7月には、ロサンジェルスの台湾会館で「福爾摩沙法理建國會」が林志昇らの米国政府に対する訴訟についての記者会見をしているが、発言者として、陳辰光、黄恵瑛、蔡明法、野口一、曽根憲昭らの名前が挙がっている。

2012年8月には、新しいバージョンの「身分証」を発行すると予告。「台湾政府身分証」と印字されている。手数料は1000台湾ドル。

2012年11月20日の「台湾民政府公告」によれば、「台湾民政府中央決策委員会議政治局常務委員会」が組織され、曽根憲昭が主席、蔡明法が副主席、陳辰光、黄恵瑛は政治局常務委員になっている。なお、林志昇氏は「臨時召集人」に就任している。

同年の6月6日、黄恵瑛は「台湾民政府 黄恵瑛(日本名:友田恵子)」という署名のある「石原慎太郎を総理大臣に!」と題する文章を発表。「石原都知事が総理になられた暁には、是非とも台湾民政府と提携し、国際法で以って、米政府に訴願し、台湾地位正常化を促し、日本領土の台湾奪回を実現させて、大日本帝国 ( Great Japan) の再建を完成させるべきであります。」と訴えた。

4.蔡明法らの分裂

2013年4月の末、「台湾民政府」幹部が「台湾政府」成立の記者会見のため訪米した際に、総理・蔡吉源、副主席・蔡明法、顧問・何瑞元らが、「不明朗な会計、ルール無視の人事、目標と主張が絶えず変わる」などとして、林志昇を「切り」、「美国台湾政府(Taiwan Government, USA)」を結成。また、「台湾は日本に帰属という主張にこだわる」林志昇らの理論は、「本土台湾人」の問題を解決できないと批判した。

この「美国台湾政府(Taiwan Government, USA)」(米国台湾政府)の主席には、蔡明法(Nieco Tsai)が就任した。陳辰光はこの「美国台湾政府」に参加した。現在、フェースブックには、「美国台湾政府 陳辰光専欄」というページがある。

なお、「美国台湾政府」は、米国国旗などが印刷された「台湾人身分証」を発行している。発行には、300ドルの費用がかかる。「台湾民政府」の身分証を放棄して切り替える場合は無料になる。

5.「台湾地位正常化促進会」も「台湾民政府」のウェブサイトを紹介

さて、黄恵瑛の話に戻ると、黄は、今も用いている「台湾地位正常化促進会」準備委員という肩書きで、2013年8月8日付で“「台湾」は、天皇陛下に返還すべき! 日本国民は「万国公法」を依拠に、米国大統領へ訴求せよ!”と題する文章をインターネットで発表した。その「署名」部分には、「参考ウェブサイト:www.taiwan.gr/」と記されている。

実はこのウェブサイトこそ「台湾民政府」の日本語サイトであり、黄はそこで「友田恵子」名義で「米国政府と米国連邦法廷で闘った台灣民政府の成果」という文章などを執筆している。

一方、林志昇らの「台湾(民)政府」は、現在も台湾で活動を続けている。「日台共栄促進会」という「台湾(民)政府」の日本語による宣伝グループのホームページが日本語での最新情報を提供している。「台湾(民)政府」という表記は、林志昇集団の現行の表記である。このウェブサイトのデザインは、黄が挙げた「参考ウェブサイト」と似ているが、ここには執筆者の署名は見当たらない。

はっきり言えることは、黄恵瑛は、少なくとも2005年から2012年まで7年にわたって林志昇をサポートし、かつ2013年4月の「台湾民政府」分裂後、黄が「台湾地位正常化促進会」を名乗ってからも「台湾民政府」のホームページを紹介し続けたという事実があるということだ。

この重い事実の前に、“我々の台湾地位正常化促進会は台湾民政府と同じではありません。台湾の「日属論述」は我々の国際法研究家の発見で台湾民政府が利用しているのです。”という黄の説明は虚しく響くだけである。たしかに、違う名前だから「同じではない」のだが、それは言い逃れというものだ。

そして、「日台共栄促進会」は、黄恵瑛が「台湾民政府」との関係を隠すために匿名で執筆している可能性もある。「同じ」ではなかったとしても、協力して動く別働隊であるのに、「違う」と言い張るとすれば、悪質である。

もし本当に違うというならば、 黄恵瑛氏は「台湾民政府」と、なぜ、どのようにして袂を分かつにいたったのか、明らかにしていただきたい。

また、「台湾地位正常化促進会」はホームページを持たず、メンバーも明らかではない。「日属論述」を「発見」したという「我々の国際法研究家」とはいったい誰なのだろうか。

6.蔡世能らの「大日本帝国重建政府」と「大日本人民救援委員会」

なお、どうやら、台湾の「台湾(民)政府」はさらに分裂を繰り返しているようだ。2014年2月20日、「大日本帝国重建政府」が成立を宣言した。

これは、「天図果真ウェブサイトデザイン」という会社を経営する蔡世能が主宰するグループだ。蔡世能は「(次)内閣総理大臣兼(次)外務大臣」と署名している。メンバーによれば、やはり林志昇の会計上の問題などに嫌気して、新たに結成したという。「林志昇が中国共産党のスパイだということは本人も認めている」などと言っていた。蔡世能は、2013年には、「台湾民政府」の「宜花東州」で「身分証」の発行審査員をしていた。

このグループは、国際連合に非政府組織として登録していることが自慢であり、主張が国連に認められたとしている。その名称は「Rescue Committee for the people of Japan Empire」、本人たちは「大日本人民救援委員会」と呼称している。国連のウェブサイトに表示される「専門分野」は、「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上、持続可能な開発」とあり、「台湾は大日本帝国である」という主張が「認められた」かどうかは、かなり怪しい。

このグループも日の丸や赤十字マークの入った「大日本帝国臣民身分証」を発行している。これは無料だという。

7.林志昇およびその分派の問題点

蔡世能のグループは、国際組織に手紙で訴えるだけであり、メンバーによると、台湾で行われる選挙には投票しないのだそうである。この点は、林志昇らと同様の主張である。

しかしながら、台湾で行われている選挙をボイコットして、台湾人の意思を反映させないならば、残るは革命しかない。しかし彼らはそれも行わない。彼らはせいぜい、日本、アメリカ、国連組織に、台湾を日本領に復帰させろなどと手紙を出すだけである。

さらに、迷惑なことは、台湾人の自らの努力によって台湾を変えて行こうとする「台湾独立派は間違っている」と批判して、自らが正しいかのような印象を持たせようとするのである。

黄恵瑛ら、林志昇支持者は、台湾独立建国聯盟のことを正式名称で呼ばす、わざと「台湾独立連盟」などと呼んでいる。相手の名称を、わざと間違って言及し、正当に扱わないのは、中国国民党系の人々が大好きなやり方だ。

そして台湾人や台湾を支持する日本人が、台湾の中国国民党政権を選挙によって引きずりおろそうとしたり、中国国民党政権を牽制しようとすることにちからを注がないように誘導しているのだ。

なお、彼らの「法理論」に疑問の目を向け、根拠の提示を求めると、自分が答えられないことを棚に上げて、「お前は法律を知らない」と開きなおり、「お前は日本人のはずがない。シナ人に違いない」「そんなことを言う日本人は切腹しろ」などと言う支持者を抱えている。

大日本帝国による統治に戻りたいなどという彼らの主張は、日本人にとっては、哀れみを感じてしまうだろうが、サンフランシスコ講和条約を反故にして、台湾を日本の統治下に戻すなどということは、国際法を守るという姿勢を持つ日米そして国連がこの御時世にするわけがないのである。国際法のひとつである条約を無視しようとするのは、中国のような専制的国家ならではの発想である。

日本が放棄したが、ほかの国に割譲しなかったという事実と、住民自決の原則、そして蒋介石集団が1949年以降、中国を代表しないという国際社会の認定および台湾にかかわる諸事実からすれば、台湾は事実上の独立国家である。あとは、「正義の回復」を含む台湾憲法の制定と国際社会の承認による安全の保障が必要なだけである。

そのためには、あらゆる手段を使って、台湾人を正しく啓蒙し、中国国民党およびそれが台湾に残した反台湾的な諸制度を打倒しなければならない。台湾意識のある指導者が意識ある有権者によって圧倒的な力を持たなければ、「中華民国体制の打破」「台湾憲法の制定」は行えない。選挙はそのひとつの重要な方法なのである。

台湾人の台湾における自助努力を放棄するよう呼びかける黄恵瑛ら林志昇グループのたくらみに、日本人が手を貸すことは、台湾人の独立建国の足を引っ張ることになるのではないか、ということを、黄恵瑛の文章を転送したりしている日本人の皆さんは、今一度、考えてみてほしい。

2014.5.21 08:00