【正論】台湾が阻む「中華帝国」復活の夢

【正論】台湾が阻む「中華帝国」復活の夢 
 
2015.9.28産経新聞

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【一言】

その為にも日本との連携が不可欠だ。

その連携できる前提とは今回の安全保障関連法案の法整備なのである。

「台湾の声」編集長 林 建良(りん けんりょう)

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東京国際大学教授・村井友秀

 現在、200年ぶりに東アジアに超大国が生まれつつある。中国共産党は「中華民族の偉大な復興」をスローガンに、100年間にわたって抑えられてきた「中国の夢」を実現しようとしている。中華人民共和国はモンゴル人が建国した元、満州人が建国した清に次ぐ中国史上3番目に巨大な帝国である。既に、中華人民共和国は漢民族が支配する国家としては中国史上最大の国家であるが、中国共産党の主張を見る限り、清帝国の影響圏の復活を目指しているように見える。

 ≪独裁政権を強化する軍事力≫

 19世紀の中国は、漢民族が住む本土、チベットのように異民族を直接支配している藩部、朝鮮半島のように異民族を間接支配している朝貢国で成り立っていた。しかし、19世紀後半に欧米列強の圧力によって清帝国は朝貢国を失った。さらに、本土の沿海州はロシア領になり、東方の小国日本との戦争にも負けた。20世紀は中国にとって屈辱の世紀であった。

 しかし、21世紀になって中国は再生しつつある。中露関係を見ても、中国人によれば、20世紀にはロシアが兄、中国が弟であったが、今はロシアが妹、中国が兄である。日中関係でも中国の経済力と軍事力は日本の数倍になった。今、19世紀以前の中国は中国人の目の前にある。中国の王毅外相は「世界は中国の台頭という現実に慣れなければならない」と主張している。国内の異民族支配は強化され、嘗(かつ)ての朝貢国に対する経済的政治的影響力も拡大している。

 現在の中国が影響圏を拡大する主力は世界第2位の経済力である。しかし、共産党にとって資本主義経済は、場合によっては共産党支配を脅かす危険物である。他方、中国は周辺諸国を威嚇するに足る十分な軍事力を持っている。

 しかも、軍事力は独裁政権が国民を支配する道具であり、その増強は独裁政権を強化する。従って軍事力の行使や威嚇は、中国共産党にとって国内を安定させる効果的な対外戦略である。軍事力を無人の海で展開すれば、人が住む陸上よりもリスクとコストは小さい。中国共産党が主張する「強軍の夢」は海で実現する。

 ≪輸送船の墓場だったバシー海峡≫

 中国軍は東シナ海と南シナ海を支配し、さらに西太平洋に進出しようとしている。南シナ海で活動する中国海軍の艦艇が太平洋へ進出しようとすれば、台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡を通らなければならない。太平洋戦争末期にバシー海峡は輸送船の墓場と呼ばれ、米軍潜水艦が多数の日本の輸送船を撃沈した。台湾は西太平洋で活動する中国海軍の死命を制することができる位置にある。

 中台間の軍事力を比較すれば、中国軍の戦力は台湾軍を圧倒しており、台湾軍の高官も、台湾軍の戦闘は2週間から1カ月で終わると述べている。台湾では軍事的手段による抵抗は不可能である、という雰囲気が一般の人々の間に広がっている。

 しかし抑々(そもそも)、戦争に負けるという意味は、戦争目的を達成する前に損害が耐えられる限度を超えるということであり、戦争に勝つという意味は、損害が耐えられる限度を超える前に戦争目的を達成するということである。また、戦争が継続している間は強者も弱者も戦争から利益を得ることはできない。戦争は双方に不利益をもたらすだけである。強者が戦争から利益を得るのは戦争が終わった後に行われる戦後処理の結果である。

 すなわち、戦争が終わらなければ戦争に勝者も敗者もない。弱者の軍事的能力が低くても、降伏せずに延々と戦争を続けることができれば、戦争に勝者はない。

 ≪国民の意志が対中抑止力になる≫

 仮に台湾が中国軍に占領されたとしても、台湾の住民に抵抗を続ける意志があり、耐えられる損害の限度が高ければ、中国が望む短期決戦が成功する可能性は低くなる。台湾を攻撃する中国軍のミサイルが1400基あり、1基のミサイルが500キロの爆弾を搭載しているとすると、台湾の都市や軍事基地に降り注ぐ爆弾は700トンということになる。ベトナム戦争では、12日間に8万トンの爆弾がハノイに投下されたが、北ベトナムは屈服しなかった。ベトナムの対中抑止力の源泉は、軍事力よりも戦争になれば最後の一人まで戦うという国民の意志である。

 中国は圧倒的な軍事力を見せつけることによって相手の戦う意志を挫(くじ)き、「不戦にして相手を屈服させる」ことを狙っている。従って、中国軍の軍事的圧力が台湾において政治的効果を発揮するかどうかは台湾人の意志次第である。

 2014年現在、台湾の対中輸出比率は40%、対中輸入比率は20%である。しかし、60%以上の人が自らを「台湾人」であると考え、「中国人」であると考える人は4%以下である。また、50%以上の人が独立を望み、中国との統一を望む人は10%以下である。経済的には中国の強い影響を受けているが、中国に併合されることを望まない台湾の存在は、「中華民族の偉大な復興」にとって大きな障害物になっている。(むらい ともひで)


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