「中国ガン・台湾人医師の処方箋」(林 建良著)より転載
中国ガンを退治しなければ、真っ先に飲み込まれるのは日本と台湾である。中国人の深い怨念を考えると、台湾よりも日本の方が深刻になりそうだ。日本が本気に中国ガンを退治しようとするなら、台湾と連携しなければならない。中国は台湾を「核心的利益」としている限り、台湾は中国ガンの核心に挿し込む鋭い刃物となるからだ。
●「核心的利益」発言は「色レイ而内ジン」の現し
論語陽貨篇に「色レイ而内ジン」とう言葉がある。本当は軟弱なのに、強い態度に出るとの意味だ。「強がり」に近い意味だが、その論語の続きの言葉は「譬諸小人、其猶穿兪之盗也與」のだから、「強がり」以上の軽蔑の意味が含まれている。肝玉もないのに人を恐喝したりする盗賊のような人間を指している。これは中国の態度そのものだ。
中国の恐喝の常套手段は「核心的利益」と勝手に決めつけながら、戦争を仄めかすことである。これはチンピラと同じ、「手を出したら刺すぞ」と虚勢を張る態度なのだ。しかしその強硬な態度とは裏腹に、中国には内心では「核心的利益」に絡む争いを恐れていると理解すべきだ。台湾に絡む事態を恐れていなければ、その「色レイ而内ジン」の言葉を使う必要もない。「北京は中国の核心的利益だ」と言う必要もないように。
「核心的利益」という言葉は対外的には「手を出すな」という恐喝の効果と、対内的には「強い態度で臨んでいる」というアリバイ作りの狙いがあると同時に台湾に対して「独立するな」との警告も含めている。
●台湾の法理的独立は中国分裂の起爆剤になる。
実際、中国が一番恐れているのは台湾の「事実上独立」(de facto)
から「法理上独立」(de jure)に移行するのであろう。なぜなら、台湾の法理的独立が中国の分裂を促す最大の起爆剤になるからだ。
台湾の法理的独立に対して、中国は必ず武力を使って阻止すると宣言してきた。だから台湾の法理的独立は戦争を意味する。当然その瞬間、中国の経済は崩壊してしまう。ところが中国が台湾に武力侵攻をしなければ、張子の虎であることを宣言することに等しく、中国内部の分離勢力は必ず刃向ってくる。その時、政権内部の批判も噴出しやがて分裂につながる熾烈な権力闘争に発展するのであろう。
分り易く言えば、台湾の法理的独立宣言について、中国は恫喝以外に有効な手立てを持っていないのだ。台湾が捨て身になる覚悟さえあれば、中国を崩壊させる力を持っている。重要なのは、中国もそのことをよく知っていることだ。その中国と台湾とのチキンレースは今でも展開している。
●現実味のある中国民主化運動支援
しかし、中国がもっと恐れなければいけないのは台湾の独立宣言ではなく、台湾が中国の民主化運動を積極的に支援することだろう。
台湾が民主主義をもって中国に圧力をかければ、独立宣言と同様な破壊力を持つ。なぜなら、中国人も現在の共産党独裁体制に不満を抱き、言論の自由、民主化と人権尊重を求めているからである。
中国人のほとんどが台湾は中国の一部と信じ込んでいる。台湾が独立宣言をすれば、中国人のほとんどが中国政府を支持して台湾を叩くのであろう。つまり、台湾が法理的独立する際、中国人民とも戦わなければならない。
しかし、台湾が中国の民主化運動を積極的に支援して中国の変化を促す場合は、共産党政権を敵に回すが、中国人民を敵に回すことはない。結果として中国人民と共同戦線を張り、共産党政権と戦うことになるのだ。これが恐らく中国政府にとって一番嫌なシナリオではなかろうか。
●民主化運動を支援する実績のある国民党
台湾は蒋介石の時代から、国民党と共産党の内戦の延長として、中国の民主化運動を支援してきた実績がある。台湾に逃げ込んだ蒋介石政権が「自由中国」を名乗っているが、共産党と同様な独裁政権だった。民主化運動支援とは共産党政権を転覆させる手段だけであり、中国を本気に民主化させるつもりなどなかった。蒋介石の捕らぬ狸の皮算用は当然中国人に信用されず、何の効果もなかった。
2000年、国民党政権に代わって民進党政権になると、独立派であるはずの陳水扁が早々と独立色を封印し、中国に媚びるようになった。その後の8年間の政権の下、中国への善意の印として民主化運動支援をもトーンダウンさせ、李登輝政権以来、アメリカに拠点を置く中国民主化運動団体「北京の春」への資金援助も打ち切った。情けないとしか言いようがないのだ。
その後の馬英九政権が中国一辺倒の政策をとり、中国に迎合しているため、民主化運動への支援もついに完全に有名無実化となった。
こうして台湾政府も日本政府も中国の嫌がることをせず、中国に媚びる姿勢を徹しているからこそ、中国ガンを助長しているのであろう。
●中国人が傾倒する台湾の民主と自由
しかし、それでも台湾は中国に絶大な影響力を発揮している。2008年5月に就任した馬英九は、すぐさま中国人観光客の台湾旅行を開放した。それから、台湾の至るところに中国人を目にしない日がない。
中国人観光客が興味を持っているのは台湾の景色よりは、台湾の民主自由の社会なのである。台湾の名勝地に行った中国人たちがよく口にするのは、中国の風景はもっと良かったなど偏狭な言葉である。これも中国人の嫌らしいところだが、一つだけ、狭量な中国人も認めざるを得ないところがある。それは台湾社会の自由な雰囲気と台湾人の善良さである。彼らの大半が台湾の民主主義に傾倒し、台湾の自由の空気を魅力的に感じているようだ。
台湾に旅行した中国の有名作家韓寒は自分のブログで台湾人の善良さと民主自由の雰囲気を伝えた。彼は台湾の民度の高さを賞賛している一方、こうした暖かい社会の形成は民主的制度の下である故だとも強調している。
●中国人は台湾を知れば知るほど、共産党独裁政権に疑問を持つ
台湾人は中国人と接触する機会が増えれば増えるほど、自分は中国人ではなく、台湾人なのである台湾人意識が強まるが、中国人は台湾人と接触すればするほど、「同じ中国人」なのに、何故台湾人にできて、自分にはできないのかと疑問が深まる。その疑問は何れ、中国共産党にぶつける奔流になり、独裁体制をなぎ倒す力になろう。
●中国人観光客の目を引く反中国的部分
もう一つ中国人観光客が興味を示すのは、台湾の反中国的部分である。様々な中国批判や共産党批判の書物、毛沢東の宿敵である蒋介石の記念堂、あちこちに出会う法輪功の反共産党宣伝ビラなど、中国で見ることのできない政治思想や歴史記述が彼らの目を引いている。
このような発見は、単に一外国での新鮮な見聞だけではなく、そこにあるのは自分に関係する歴史の真実である。共産党も国民党も嘘つきな中国人体質だが、相手の悪口の部分なら信じられる。台湾旅行がこのようなところで中国人たちにインパクトを与えていることは恐らく中国の当局も予想しなかったのであろう。
似たようなインパクトは私も経験している。戒厳令が敷かれていた1987年に日本に留学してきた私が絶大の関心を持っていたのは、台湾で触れることのできない台湾の真実であった。台湾で禁止されていたいろんな書物を読み進むにつれ、長年自分を騙してきた国民党政権への憎悪もさらに深まり、それが私の台湾独立建国運動への参加につながった。台湾で中国共産党に関する文献や書物に触れる中国人も恐らく同様な気持ちではなかろうか。
こうして台湾は、中国政府の思わぬところで中国の変化を促している。中国にとって台湾は美味しい獲物から扱いにくい厄介者に変身しつつあるのだ。