【台湾レポート】敲山震虎・台独に習近平があらためて警告した

【台湾レポート】敲山震虎・台独に習近平があらためて警告した 

【エコノタイワン:9月号】
             迫田 勝敏(ジャーナリスト)

 中国共産党総書記の習近平が台湾に対して改めて「平和統一、一国二制度」を呼びかけた。なん
でいまさらという感じもするが、山を敲いて虎を驚かす「敲山震虎」だともいう。その「虎」とは
「台独」(台湾独立)。太陽花学生運動などもあって広がりつつある台湾人の独立意識に対する警
告だというのだ。だが、この時機での警告にいったいどんな意味があるのか。

◆一国二制度の統一を再確認

 習近平の「警告」は、中国との統一を目指す台湾の統一派団体との会談の中で行われた。習近平
は、平和的方式で統一を実現することは台湾同胞を含む中華民族の全体の利益に最も適っていると
したうえで、「一国二制度」は台湾同胞の利益に十分、配慮したものだとの趣旨の発言をした。

 一国二制度は、社会主義・中国の中で資本主義など異なる政治、経済制度を認めるというもの
で、1983年6月、当時の共産党中央顧問委員会主任の?小平が米国の学者と会見した際に初めて公
言した。軍事と外交は中央政府、つまり北京が握るが、その他は現状のまま。実は台湾解放、つま
り中国への統一のために提唱されたが、台湾より先に香港、さらには澳門(マカオ)で実施され
た。

 その意味では習近平発言はなんの新鮮味もないものだが、習近平が2年前、中国のトップの座に
就いてからは、初めての発言。つまり習近平政権になっても、一国二制度で台湾を統一するという
政策に変わりはないことを再確認したということになる。それがなんで警告になるのか。

◆反中感情の広がりに苦慮

 一つには今の中台関係がある。国民党の馬英九は2008年に政権を握ると、対中交流を急激に拡大
してきた。観光の自由化、直航便の往来、投資制限の緩和、そして中台窓口機関のトップ会談の再
開…。その成果として四年前、関税撤廃を目指し、自由貿易協定(FTA)に相当する経済協力枠
組み協定(ECFA)を締結した。

 さらに馬英九は、2012年、総統選再選を果たすと、サービス業の市場開放となる服務貿易協議も
調印し(立法院で審査中)、今は貨品貿易協議の締結を急ぐ。元総統・李登輝は8月の講演で「こ
の3つの協議が通過すれば、中国は軍隊を出動させなくても台湾を掌握できる」と指摘。武力を使
わず、台湾統一だ。中国にとってこんないいことはない。

 だが、台湾はどうか。急速な対中接近に多くの台湾人は不安を抱き、李登輝が指摘したようにい
ずれは中国に呑み込まれると懸念する。そんな懸念が今春の太陽花学生運動の議場占拠を成功させ
た。太陽花を手にした多くの学生は台湾独立を明言している。そこへ中国政策を管轄する大陸委員
会のナンバー2の中国スパイ疑惑。台湾人が中国嫌いになるのも当然だろう。中国は台湾人の反中
感情の広がりに苦慮、これ以上の台独ムードの拡大を食い止めるため「敲山震虎」の警告になっ
た…。

◆馬英九も受け入れを拒否

 もっともこの時機に台独に警告というのは、適切ではないのではないか。台湾は前述のように反
中感情が広がっている。そこへあくまでも統一するぞという脅しのような警告では火に油を注ぐよ
うなもの。しかも時は「九合一」の統一地方選挙間近。強面警告に、国民党、民進党のどちらに投
票しようか迷っている有権者はどう反応するか。親中国民党への投票が減りはしないか。

 とくに一国二制度を持ち出したのには首を傾げる。対岸、香港では行政長官の選挙制度を巡って
大騒ぎだ。現在の事実上の間接選挙を市民が直接選ぶ民主選挙にせよと香港島のセントラル(中
環)占拠運動が続いている。香港は一国二制度が初めて適用されてはいるが、中国化が進み、とく
に「香港の民主化が危うい」、「一国二制度はうそだ」と多くの市民が占拠運動に立ち上がってい
る。その一国二制度を持ち出して台湾に警告というのでは、台湾人の反感を買うだけだろう。だか
ら、中国が頼みとする馬英九でさえ「一国二制度は受け入れられない」との談話を発表せざるを得
なかった。

◆習近平、台独阻止手詰まり

 といって中国は台湾人の中国離れ、独立意識が進展するのを指をくわえて見ているわけにはいか
ない。九合一で野党が勝てば、2016年の総統選での政権交代の可能性が強まる。そこで中国に絶対
に逆らわず、過剰反応しない統一派の団体を通じて警告したのだろう。

 ただ、中国が言い古された一国二制度を持ち出して警告したのは、台湾の独立意識の拡大を止め
る打つ手がないことを示している。一方、台湾の馬政権も市民の批判を浴びながら傾中路線を推進
してきたが、結局は統一すれば、中台対等の立場ではなく、台湾はあくまでも香港と同じ特別行政
区の地位でしかないことを思い知らされたのではないか。

                          (敬称略、ジャーナリスト・迫田勝敏)

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