【台湾ダイジェスト】匪諜(スパイ)が傍に─習近平時代の台湾の行方は…

【台湾ダイジェスト】 匪諜(スパイ)が傍に─習近平時代の台湾の行方は…  

             迫田 勝敏(ジャーナリスト)

【台湾ダイジェスト:4月号】

 「両岸の平和と統一促進が指導者の責任だ」─中国の新リーダー、習近平が国民党名誉
主席の連戦に統一への強い姿勢を示した。対する連は習に同調したかのような発言。もち
ろん野党などから強い批判が出て、総統、馬英九は「聞いてない。個人の意見だ」と逃げ
るだけ。その間も中国は着実に統一への道を歩んでいる。

◆「統一促進」に同調した連戦

 昨秋、中国共産党総書記に就任した習が3月の全国人民代表大会(全人代)で国家主席に
選出され、名実ともに中国のトップになった。連習会談はその主席選出直前に行われ、習
近平は「台湾同胞は血で繋がれた同胞」と統一前夜のような言葉も発していた。

 対する連戦は「一個中国、両岸和平、互利融合、振興中華」と16文字の箴言で習に応じ
た。一つの中国はこれまで国民党も言ってきたこと。但し、国民党は「中国」の意味はそ
れぞれが解釈するという「各自表述」の言葉を付けていた。中華民国による統一というわ
けだ。現実離れした話だが、そういわなければ統一志向の台湾人でさえ納得はしないからだ。

 ところが習の「統一促進」発言を受けて。連はその「各自表術」を言わなかった。これ
では中華人民共和国による統一を認めたことになりはしないか。連は訪中前、馬英九と会
談している。だから連側は話の内容は事前に伝えたとし、馬は十六文字は聞いていない、
だいたい個人の身分での訪中だと逃げている。

◆2005年開始の傾中路線

 だが、連戦が習近平にも言ったように台湾と中国との関係は「国と国の関係ではな
い」。だから両岸協議も「窓口機関」という民間形式の機関を通じて行い、経済協力枠組
み協定(ECFA)まで締結している。表は民間人だが、裏は政府代表。新体制スタート
直前に中国側が連を招いたのも裏の身分を招いた。だからこそ連は馬に会ってから訪中した。

 そもそも馬英九政権の傾中とまでいわれる中国接近は2005年4月に当時の国民党主席だっ
た連戦と当時の中国共産党総書記だった胡錦濤との会談が発端。胡は国家主席ではなく総
書記として会った。だから60年ぶりの国共会談といわれ、「国共合作」ムードに乗って
2008年、馬は総統に当選し、「中国経済に頼って台湾経済を」よくすると対中傾斜を進め
てきた。

 連の媚中とも思える対中積極姿勢には別の思惑があるのかもしれない。連は総統選で惨
敗、今は子息、連勝文を次代のリーダーにしたいと考えているのか。連勝文自身、最近、
党中央批判し、その気かとも思わせている。その実現に中国のお墨付きは必須。従来の国
民党の考えを一歩踏み越え、中国に近づいたような発言をした連の脳裏には「お墨付き」
がちらついていたのかもしれない。

◆「スパイだらけ」と国安局長

 だが、統一という国の命運に関る問題を党内の権力闘争の具にするのは、国民無視も甚
だしい。そんな折も折、情報工作の最高責任者である国安(国家安全)局長が立法院で爆
弾発言をした。

 国共対立の戒厳令時代、台湾には「小心!匪諜就在?身辺(注意!中国共産党のスパイ
はあなたの傍にいる)」という標語が貼られていた。ところが局長は「今はそこらじゅう
に来るべきでない人がいる」と、中国のスパイだらけだと明言したのだ。

 中国人の台湾観光が事実上自由化され、いまや1日平均1万人近い中国人が台湾を訪れて
いる。ビジネス、学術交流、さらに留学などで長期滞在も増えた。大陸花嫁も多い。確か
に台湾は中国人だらけ。これがみんなスパイ?

 以前、中国工作の専門家に聞いたことがある。今のスパイはそこに住んで「この道路の
右手に派出所があり、次の交差点を左折すると、台湾銀行の支店があり、その隣が消防署
─といったそこの住人なら誰でも知っている情報を知っていればいいのだという。なぜ
か? 本物のスパイや攻撃部隊の侵入を容易くするからだ。

 数年前、台北に来た中国人女性がトラブルに巻き込まれ、中国東北の故郷に電話し、助
けを求めたところ、その故郷の公安当局から台北警察局中山支局に電話があり、女性は無
事救出されたという話があった。中国は台湾の警察の電話番号も把握している。台湾在住
ならもちろん、観光客でも知ることはできる。今の台湾は「あちこちに来るべきでない
人」がいて、スパイ活動をしているのかもしれない。

 しかも局長はこうも言う。

「国安局には昨年、中国によるハッカー攻撃が334万件、1日平均1万件近くもあった。以前
は資料を盗むのが主だったが、最近はインフラ建設の破壊が目的だ。一朝ことあればイン
フラを破壊し、台湾の交通運輸、金融秩序は危ない」

 指導者たちは闘争の相手を間違えていないか。

『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html


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