【台湾ダイジェスト】五花八門―ばらばらで台湾の前途に不透明感

【台湾ダイジェスト】五花八門―ばらばらで台湾の前途に不透明感  

                迫田 勝敏(ジャーナリスト)

 馬王の争い、食用油問題、ガンビアの断交─次々と問題が起き、政府の対応に対して、
毎週のようにデモ攻勢が続く。デモは五花八門(多種多様)。それだけ政府批判の広がり
を示すが、その主張もよく言えば多種多様、裏返せばばらばら。一方の政府側は閣内不統
一で、与党国民党も馬王の争いの火種が残ったまま。これが民主化といえばそれまでだ
が、台湾の前途に不透明感が増すばかりだ。

◆蒋経国時代がよかった

 世の中の不満はタクシーの運転手に聞くのが一番だ。仕事柄、世の中の動きを肌で感じ
ていて、時になるほどと思うこともある。その日乗ったタクシーの運転手は話しかける
と、総統・馬英九批判をまくし立てた。

「1日14時間運転して売り上げは平均2300元。ガソリン代を引くと1300元だけだ。これじゃ
政府が決めた基本時給(109元)にもならない。コンビニのバイト学生以下だよ」

 運転手は今年63歳。「蒋経国時代が一番よかった。1日7000元稼いだこともあった。今は
ダメだ」と嘆く。「馬英九は中国との交流拡大で経済をよくすると言っているじゃない
か」というと怒りが増した。

「ウソだよ。ECFA(中国との経済協力枠組み協議)で台湾はよくなったか? 悪くな
ってるよ。ウソばっかりだ。サービス貿易協定やればもっと悪くなる。あいつはバカだ
よ。どうしようもない」

◆「十大悪人」を火あぶりに

 運転手の話は特別というわけではない。多くの人が不満を持っている。その不満の爆発
は「秋闘」を見れば分かる。社会団体が例年、政府に物申す集会を開く。今年は少し過激
になった。政治ゴロと悪徳資本家が結託して人民の基本的生存権を売り渡そうとしている
として、「十大悪人」をリストアップし、それぞれに綽名(あだな)をつけた。

 筆頭は馬英九。綽名は英誌がつけた「Bumbler(バカ、失敗者)」を流用、行政院長・江
宜樺は「首切り総理」、今年中に成長率が失業率を上回ると“予言”した経済建設委員会
主任委員の管中閔は「右翼殺し屋」。経済界では食用油問題の頂新集団の魏應州が「恥し
らずのボス」、そして不正が暴露された健康食品会社の大株主で、元副総統・連戦の娘、
連恵心は「悪徳皇女」という具合だ。

 デモ隊は台湾の億ション、帝寶の前に集合、十大悪人の写真を火あぶりにして、約千人
がデモ行進に移った。参加者は少ないが、参加団体は多い。台湾農村陳戦、台北市産業総
工会、全国教師工会総連合会など60近い。なかにはホモの台湾同志諮詢熱線協会、性解放
を訴える日々春関懐互助協会といった団体もあり、台湾大学、政治大学など20近い大学の
グループもあり、多種多様。それだけ馬英九批判は広がっているということだろう。

◆主要閣僚の支持率一ケタ

 最大の責任はもちろん総統にあるが、閣僚にもそれぞれの責任がある。民間の調査会
社、台湾指標が主要閣僚15人の満足度(支持率)を世論調査したところ5・8%の経済部長
はじめ経済建設委員会主任委員、農業委員會主任委員(農水相)、労工委員会主任委員、
外交部長、衛生福利部長、国防部長など9人までが10%未満だった。重量級の閣僚の満足度
が総統同様一ケタとはなんとも情けない。

 満足度が最も高かったのは内政部長だが、それでも27・0%。次いで文化部長の26・7%。
この2人は満足度が不満度を上回った。気をよくしたのか、文化部長の龍應台は「閣僚が交
代で失火(失態)をやらかしている間は、他の閣僚はホッとひと息」と失言し、関係者か
ら批判を浴びた。「あれはオフレコ」と取り消したが、綸言汗の如し、すでに報道された
後だった。

 実際、今年になってから外交部と農業委員会が関係するフィリピンとの漁業問題に始ま
り、国軍内の虐殺事件、馬王の争い、そして食用油…など問題が相次いで起きた。最大の
問題は当事者の対応のまずさが問題をさらに大きくしていることだ。フィリピンの問題は
外交部が強気一辺倒で対応、フィリピンを硬化させた。軍の虐殺死は総統の対応も批判さ
れている。馬王問題は総統自身が引き金を引いた。油の問題は積年の悪弊を放置してきた
政府の怠慢が根底にある。

◆リーダーシップ待望の声

 民進党政権が誕生した後、国民党の幹部からこう聞いたことがある。「民進党は、選挙
はできるが、政治(行政)はできない。国民党は、選挙は下手だが、政治はできる」と。
実際、民進党政権の行政は問題も多かった。国民党時代のほうがしっかりしていたと言う
人は多かった。だが、いまや国民党は民進党と同じ、いや、それ以下か。選挙には勝つ
が、政治(行政)はできない。

 民主主義の利点の一つは選挙で政権を換えることができること。だが、攻める側がばら
ばらでは、結局は「金権政党」が勝つことになる。多種多様の主張をまとめるリーダーシ
ップを求める声は多い。