台湾の声編集部 多田恵 2018年2月7日
1月9日の本誌記事で、劉黎児氏が1月2日に自由時報に寄稿した記事が、東日本大震災時の原発事故で放射能汚染を受けたとして、日本産の食品について、台湾の人々を不安にさせていると指摘した。
その後、1月30日の本誌記事では、中央通訊社が29日にネット配信した“日本産食品の輸入規制 衛生相「見直しの必要あり」/台湾”との記事を紹介している。台湾政府も、福島、茨城、栃木、群馬、千葉産の食品輸入への規制を解除することに前向きである。
ところが、劉黎児氏は2月1日、アップルデイリーのコラムに「嘘が多すぎ、放射能食品は蔡英文政権を倒す最後の藁たりうる」と題する記事を寄稿した。
劉氏はコラムで、総統府の黄重諺・広報官、農業委員会の陳吉仲・副主任委員、行政院食品安全弁公室の許輔・主任、衛生福利部の陳時中・部長と何啓功・次長を名指しし、「嘘が非常に多い」と論評した。また、衛生福利部の報告書がハーバード大学公衆衛生学大学院で博士号を取得し、陽明大学教授等の経歴のある張武修医師が出したもので、疑問が多々あると論じた。
劉氏は嘘の例として6点、挙げたが、たとえば第4点では次のように論じている。
“役人は、口を開けば「政府は放射能食品を輸入することはない」と言うが、これはそもそも不可能だ。放射能災害被災地の食品は必ず放射能を含んでいるのに、役人は、キログラムあたり100ベクレルという法定基準によって認定している。99ベクレルであれば放射能食品のうちに入らないというのか。これが現政権の言う科学なのか。仮に、検査によるコントロールが理想的に行えたとしても、政府は台湾人に99ベクレルの食品を食べさせることになる。しかし、日本の一般的なスーパーでは「無検出」あるいは「10ベクレル以下」を基準とし、食品流通団体の「ホワイトフード」〔札幌市にある株式会社〕では「0.5ベクレル以下」を基準にしてさえいる。日本はスーパーなどが検査していて、日本人は10ベクレル以上を口にすることはないのに、どうして台湾人が99ベクレルの放射能食品を食べなければならないのか。”
また、スーパーで撮影されたと見られる、「半額」のシールが貼られた、魚の切り身のパックの写真に、「福島第一原子力発電所は今でも毎日、高濃度の放射能汚染を太平洋に大量に排出している。福島の魚類は今でも基準値を超えるものがあり、周辺の魚類は値下げをしても買い手がつかない。劉黎児撮影」というキャプションをつけて掲載した。
このコラムで、報告書に「疑問が多々ある」とされた張武修氏(1月22日より政府の監察委員に就任)が、3日、当のアップルデイリーに、「劉黎児に答える─科学と明確なコミュニケーションによって台湾の食品安全を築いてください」と題する反論を寄せた。
報告書作成の経緯や、リスク評価の方法について説明し、最後に「全世界のほとんど全ての国家が食品リスクの高低によって市場開放をするかどうかの原則としているなか、台湾も、科学的な証拠、理性的かつ公開の方式で、日本およびその他の国の安全な食品輸出入の規範を策定すべきである。これは台湾の民衆が身近な安全に関わる情報を学ぶ助けとなり、台湾国民が国際社会の理知的で責任を持つ、外に開かれたメンバーであることを示すことになる」と結んだ。
劉氏のコラムについて、2月4日、公益財団法人日本台湾交流協会本部総務部長である柿澤未知氏が自身のフェースブックに、6件に分けて、「個人として」劉氏に対する中国語での公開質問を行った(関連の発言も含めると7件)。その際、「劉氏の論点」11点について、「事実と疑問」を対照させた表も作成・掲載した(添付)。
たとえば、上で紹介した劉氏の第4点の後半に関し、柿澤氏は「日本の小売業者の大部分は食品の放射能検査を行っているわけではなく、国の基準と検査結果によって安全性を判断している。イオンや生協などのスーパーあるいはホワイトフード社がこの数年放射能検査を行った結果が示すところでは、ほぼ“ゼロ検出”である」と指摘した。
このことは、当のアップルデイリーのみならず、中国時報、聨合報などで報じられるなど大きな反響を呼んだ。
劉氏は5日、同じくアップルデイリーのコラム(ネット版)に「放射能食品の真相はここにあり─日本台湾交流協会東京本部総務部長・杮澤未知に答える」と題した記事を執筆した。その一部を紹介すると次のような論調である:
「柿澤部長は彼の立場から質疑をされたのではあるが、たとえば私に対し、全国第一の生産量を持つ茨城の白菜、千葉の枝豆、栃木のイチゴが放射性物質を含むことの証明を求めるという態度こそ、まさに私の反原発の原動力の在り処である。なぜなら、原子力発電を推進、あるいは、原発事故を起こさせた当事者が、傷害をもたらさないという信頼できる根拠を提出せずに、証明責任を被害を受けた側に押し付け、もし目の前で被曝死するのを見なければ責任を認めないからだ。放射能食品に問題がないと考えることも放射能傷害を過小評価する典型の一つである。」
「実際は、福島および周辺の土地は今でも放射能に重く汚染されていて…、福島、茨城、栃木といった放射能災害被災地の野菜等は、各自治体の検査結果によれば、まだかなりの放射能汚染がある。食品流通組織“ホワイトフード”がまとめた各自治体の調査結果を見ればすぐに分かることだ。」
「台湾政府は、言うまでもなく、日本の公式なデータを書き写すだけではいけない。とくに、日本の行政が、2013年以降、一般食品の検査を大幅に縮小していることについて、日本の各界も強く抗議しているのである。放射能廃棄物処理の専門家・卓鴻年氏が訴えているように、台湾は放射能食品の防御線を日本にまで拡大すべきである。なぜなら日本産食品は台湾の輸入食品の4分の1を占めているのだから。したがって、台湾は米国同様に自ら調査体制を整えるべきであり、台湾人は自己防衛のために、“〔市民放射能測定データサイト〕みんなのデータサイト”もしくはホワイトフード等の測定報告等に目を向けるべきだ。」
アップルデイリーは、柿澤氏の問題提起を受け、台湾のNGOである、主婦連盟の見方も報じた。主婦連盟は「劉氏には引用が不完全な箇所がいくつかあるが、台湾の民間に存在する疑問やパニックの要因を明らかにしているので、日本政府はこれを重視して、情報公開をさらに進め疑問について明らかにすべきである」としたという。
同連盟の湯琳翔・研究員によると、「劉氏の論点は現状を完全に表現してはいない。米韓が日本の汚染食品輸入にあたり、11県もしくは7県について管理を行っていることが、(5県である)台湾よりも厳格だというのは正しくない。なぜならば、米韓の管理は特定の品目についてのものであり、台湾の場合はすべての食品に対してなので、より厳しいものである」という。
また「水産品に関しては、日本政府は米国や韓国が調査官を現地に派遣することに同意しているので、台日交渉においても、この方向で進めて欲しい。そうして情報が透明化することで、やっと台湾の民間の不安を解消することが出来る」と語ったと伝えている。
6日、自由時報(ネット版)に、食品安全の専門家である、ブログ名「韋恩的食農生活」氏の評論が掲載された。劉氏と柿澤氏のやりとりについて、「放射能食品」という名称が曖昧で、情緒的であり、不要なパニックを引き起こすものだと指摘した。また、100ベクレルという基準に対して、「99ベクレルも放射能食品」と言うのであれば、10ベクレルという基準も同じことになるという指摘などがあり、どちらかといえば劉氏の主張について、専門家の立場から検討を加えたものである。
アップルデイリーは同日、先の張武修氏の寄稿に対する、卓鴻年氏の反論を掲載した。この「張武修へ─放射能食品の第一の防御線は日本にまで拡大すべき」と題する寄稿は、台湾は自ら現地調査を行うべきであるなどとしている。
柿澤未知氏は、全日本台湾連合会設立の際に台湾語でスピーチをしたことが印象的であった。日本の外交官に台湾を良く知る人物がいて、かつ、台湾の人たちに直接アピールできる言語能力と情報発信のスキルを持っていることは、日本と台湾の相互理解のために喜ばしいことである。
劉氏の執筆記事が炎上を巻き起こし、柿澤氏の反論によって日本の実際の状況が台湾社会に知れ渡ることとなった。その結果、蔡英文政権がどうして規制を解除できないのかという事情も明らかになり、それに対して日本側にどのような対処が可能なのかも見えてきたのではないか。
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