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ブログ『南国・台湾の暮らしから』
作者:Naoko(台湾在住)
公開日:2018年 02月 22日
旧正月のお休みがあって、ちょっと日にちが開いてしまいましたが、前回の続きです。
台南に行ったら、ぜひまた訪れてみたいと思っていたからすみ屋さんがあり、今回また行くことができました。
このお店の店主であるおじいさんに、会いたかったのです。2014年の夏に初めて行ってから、もう3年以上経っています。お元気かどうか、、、。
林百貨店からは五分ほどの距離、少し歩くと、看板が見えました。
「明興商行 烏魚子(からすみ)専売店」
お店の外観は変わらず、開いてました。
[写真:店構え] https://pds.exblog.jp/pds/1/201802/16/02/f0367102_21371795.jpgお店の側まで近づいてみました。さて、おじいさん・・・・
いらっしゃいました!
[写真:店を守るおじいさん] https://pds.exblog.jp/pds/1/201802/16/02/f0367102_21371805.jpg・・・・よかった。お元気そうな様子。忙しそうに、伝票を書かれているところでした。
どうして、またこのおじいさんに会いたかったかという理由は・・・・・
これです。
[写真:会いたかった理由] https://pds.exblog.jp/pds/1/201802/16/02/f0367102_21372019.jpgこの写真は、3年前、このお店に初めて行ったときに撮ったもの。カラスミが入った冷蔵庫に貼ってあった、手書きの名言の数々です。
見えますか?どれも大変美しい文字。紙は色あせていて、もう長いことこの冷蔵庫に貼ったままであることがわかりました。
[写真:人の2倍] https://pds.exblog.jp/pds/1/201802/16/02/f0367102_21372038.jpg「人の2倍努力し奉仕しなさい。きっと人間的に成長するから」
「人生は偶然が支配するあみだくじ」
「人に支えられるよりも、人を支える人になりたい」
「人生幸福の三条件 1.健康であること 2.器量の好い人 3.正直に得た財産がある人 その上老いても生涯仕事を持つ人は、もっとも幸福なり」
「私たちの辿ってきた生涯の中で、自分が受けた恩恵と他人に与えた何れが重いか、秤はどう傾くかを、勇気をもってじっくり見極めてみよう。それは命の終盤を迎える私たちに問われることであろう」
[写真:苦難は] https://pds.exblog.jp/pds/1/201802/16/02/f0367102_21371601.jpg「苦難は人の成長と心の平和に欠かせない要素である」
「苦しい事、嫌な事の中にこそ、人生を支える基が隠されているのです」
「正直は最善の政策なり」
[写真:親の背は] https://pds.exblog.jp/pds/1/201802/16/02/f0367102_21371637.jpg「親の背は子供の道しるべ」
「いつまでも愛し愛される人間であること」
「道徳は人の人格を変える 人格は人の運命を変える」
「子ども嫌うな 自分も来た道じゃ 老人嫌うな 自分も行く道じゃ」・・・
どれもとてもいい言葉です。自分のノートに書き留めておきたいものばかり。
3年前、この冷蔵庫の張り紙に気が付いた時、おじいさんに何も尋ねることができませんでした。お友達と一緒にいたせいもあってか、聞きそびれてしまったのです。それが、一つの心残りだった私。どうして、こういう言葉を書き留めて冷蔵庫に貼っているのかとか、どこでこの言葉を見つけてきたのか、だとか、おじいさん自身が考えた言葉もあるのか、だとか・・。とっても些細な質問だけれど、聞いてみたかったな、という気持ち。おじいさんは、典型的な日本語世代のお年寄りに思えました。心を大事にするおじいさん。
今回も、この紙を見てみたい。新しい言葉が貼られているだろうか?
・・・でも、、、今回、お店に入ってみると・・・・その紙は冷蔵庫になかった、、、。
[写真:おじいさん] https://pds.exblog.jp/pds/1/201802/16/02/f0367102_21371962.jpgおじいさんに、思い切って聞いてみました。先ずは、カラスミを買いたい旨伝え、そのあとで
「おじいさん、以前あの冷蔵庫に、いろいろな言葉を貼っておられましたよね・・・あれは・・」
おじいさんはすぐにピンときて、
「あぁ、あの紙ね、、。新しい冷蔵庫を買ったのでね、もう貼っていないの。忙しくてね、また時間があったら、貼るかもしれないけどね」
おじいさんは、ちょっと驚いた表情で私を見て、そう答えました。
そうなんですね、新しい冷蔵庫・・・。残念・・。でも、仕方ない。
おじいさんは、以前より、少し背中が曲がっておられる気がしました。また貼ることは、きっとないような気がしました・・・。
おいくつなのか、知りたい。なんて聞こうか。お幾つですか?いや、年齢を直接聞くよりも、こう聞こう。
「あの、何年生まれでいらっしゃいますか?」
「昭和二年。92歳になるよ」
「昭和二年ですか・・ずっと毎日お店に立っているのですか?」
「そうよ。でも忙しくてね。多分もうね、あと1年でやめるよ。疲れるからね」
他にお客さんも入ってきて、お店は忙しい雰囲気になりました。おじいさんは、他のお客さんの相手をし始め、カラスミの重さを測ったり、値段を言ったり、俄かに又忙しくなり、私はからすみを買って失礼することにしました。
結局、今回も多くを聞かずじまい。
帰り際に、「今日、台中から来たんです。近いから、また来ますね」と私が言うと、おじいさんは、
「どうぞお元気でね」
と、うつむいてカラスミを箱詰めをしていた顔をあげて、私に言いました。
お元気でいてくださいね、というのは、私が先に言うべき言葉だったように思います。私は、ありがとうございます、と言って、お店を後にしました。
日本語世代の台湾の方は、もちろんこのおじいさんに限るわけでなく・・これまでも色々な方々にお会いしてきました。珍しい出会いというわけではないのに、最近こういう会話でさえも、とりわけ感慨深くなってしまう自分がいます。時代の流れを日々感じているせいかもしれません。年々少なくなっている、日本語でものを考え、日本語の言葉に感動し、日本語を書き留める習慣のある台湾の人々の存在の重さを、これまで以上にずっしりと感じてしまう瞬間。会った時に、話した時に、時間よ止まれ!と思ってしまう自分がいるのです。
「お元気でね」という優しい言葉が、ずっと耳に残ったまま、暖かな空気の台南の街をまた歩きました。「昭和二年」と即座に答えた言葉に、ふと切ない気持ちが込み合げて、日本語を話すお年寄りが存在していた、この日の空気を、これから先もずっと覚えていたいと思いました。
1年と言わず、お元気な限りお店に立っていて頂きたいです。
また、行きます。
<明興商行 台南市民権路2段198号 (06)2222783>
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