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【阿彰の台湾写真紀行】No. 16
トリ肉、アヒル肉、ガチョウ肉
台北で肉を安く、たくさん食べたいと思ったら、多くの選択肢があるが、今回はその中でトリ肉、アヒル肉、ガチョウ肉を使った食堂料理を紹介したい。今回写真でお見せしたい料理は 鴨肉飯(スモークしたアヒル肉)、鵝肉飯(ボイルしたガチョウ肉)、油雞燒鴨飯(醤油で煮たトリ肉とローストしたアヒル肉)、燒鴨河粉(ローストしたアヒル肉とライスヌードゥル)、蔥油雞飯(ボイルしたトリを冷やした後、ネギとショウガ入りののタレに浸けたもの)、雞腿飯(醤油で煮たトリもも肉を油で揚げたもの)、白煠雞(ボイルしたトリ肉)、正月料理の白煠雞(ボイルしたトリ肉)、海南雞飯(東南アジア華人料理)である。
トリ肉を使った料理は日本でもいろいろあるが、アヒルやガチョウの肉を食べる機会はなかなかないと思う。まず日本人にあまり馴染みのないアヒル肉=鴨肉(ah-bah:アーバッ)とガチョウ肉=鵝肉(gô-bah
:ゴーバッ/
giâ-bah:ギアバッ/方言の差)、そして日本の料理で割と使われるカモ肉との違いを説明してみよう。
日本の料理で使われるカモはカモ目カモ科マガモ属に属する鳥類の総称で、単にカモと言った場合マガモ(真鴨)を指すことが多く、オスは黄色のくちばしに、頭部が濃緑色、首に首輪のような白色のラインがある体毛を持ち、メスは黒とオレンジ色のくちばしに、黒褐色の斑がある褐色の体毛を持った個体が一般的だ。日本では鴨鍋や鴨南蛮蕎麦などに用いられている。
アヒルはマガモを原種に、食肉用、採卵、羽毛採集、愛玩用などを目的として家禽化したもの。黄色いくちばしで足に白い体毛を持っている。北京ダックやローストダックなど世界中で様々な肉料理に用いられている。脂が多いアヒル肉は日本ではあまり好まれないらしい。
ガチョウは雁(がん)を原種に食肉用、採卵、羽毛採集、愛玩用などを目的として家禽化したもので、白い体毛に円錐状の黄色いくちばしで、アヒルと比較すると首が長い。ガチョウは比較的人によくなつき、鳴き声が大きく、番犬代わりに飼育されることもあるそうだ。
台湾本土料理系のレストラン、食堂ではアヒルとガチョウをスモークしたものやボイルしたものを使った料理が多く、アヒル肉、ガチョウ肉料理の専門店もかなり多い。肉だけではなく内臓や脂、血なども料理の食材として使う。また戦後、台湾に定着した広東、香港系の大衆食堂、燒臘店(スモークやローストした肉を使った料理を提供する店)の燒鴨(ローストダック)を使った料理もよく知られている。燒臘店の特徴は店の入り口脇の窓際にローストしたアヒルやボイルしたトリなどが1羽づつ吊るしてあり、外の離れたところからでもよく見えることだ。これは燒臘店の目印と言ってもいいだろう。この燒臘店では客が要望に合わせ、トリ、アヒル、焼き豚、腸詰など数種類の惣菜をライスの上にのせてもらうこともできるし、ライスを河粉(米から作られる平たいヌードゥル)や麵に変えてもらうこともできる。また提供される料理のバリエーションも豊富で、割と手頃な値段である。そして台北市内のあちこち、どこにでも一軒は必ずあるというほど定着している。
台湾でトリ肉をふんだんに使った食堂料理として有名なのは広東料理系の油雞や白斬雞(白切雞)、などだが、台湾本土料理系の食堂でも類似した料理がある。油雞は豉油雞(醬油雞)の略称だが、この略称で呼ばれることが一般的だ。醤油にショウガ、ネギ、酒、氷砂糖、麦芽糖を混ぜ、そして油に花椒や八角などの香料を混ぜたものを加えた汁で煮たトリ料理のこと。食べる時にショウガをおろしたものと細かく刻んだネギを油で混ぜたタレ「薑蓉」が使われることが多い。台湾本土料理系の食堂ではトリもも肉を油雞にした後、油で揚げたりもする。
広東、香港系の燒臘店でよく見かける「玫瑰油雞」という料理名は、トリ肉を煮る時に使う煮汁(十数種類の漢方薬材が入れられている)に「玫瑰花粉」と呼ばれる香りのよい天然色素を使った着色料を加えていたことから来ている。1970年代に中国で生産されなくなり、その後は「玫瑰露酒」というお酒と砂糖漬けにしたバラの花が代わりに使われていたらしいが、この「玫瑰露酒」も今では手に入れにくい。現在、多くの燒臘店で売られている「玫瑰油雞」は昔ながらの名称を使っているだけで、「玫瑰花粉」や「玫瑰露酒」とは全く関係がないようだ。また、醤油や香料はトリ肉の臭みを隠す効果があるため、以前はあまり新鮮ではないトリが使われ、新鮮なトリは醤油を使わないで茹でる白斬雞(白切雞)などの料理にされたらしいが、今ではそういう区別はないようだ。
白斬雞(白切雞)と呼ばれるトリ料理は醤油などの調味料を加えない水を使って茹でて、トリ本来の味を引き出す料理だ。調理人によっていろいろな手順や方法があり、それぞれ微妙に違うが、そのうちの一つを簡単に説明すると、トリ1羽を全体が完全に浸かる量の熱水で表面を軽く茹でて取り出しては、全体を冷水に浸すという動作を3回繰り返した後、土鍋でショウガ、ネギを入れた水を沸かし、沸き上がったらトリ肉を入れ、強火で茹でる。沸騰したら土鍋に蓋をして、さらに強火で5分続けて茹でる。その後、一番小さな弱火にしてから5分煮る。火を消した後も蓋を開けずに20分ぐらいそのまま蒸らす。土鍋から取り出し、表面に浮いた油を含んだトリの茹で汁大さじ二杯分に紹興酒や塩胡椒などをよく混ぜ合わせたものをトリの体全体に塗ってから冷蔵庫に入れて冷やす。食べる前に食べやすい大きさに切り分けるといったトリ料理だ。
台湾本土料理系の食堂やレストランでは白煠雞(pe̍h-sa̍h-ke:ペェサァケェ=白斬雞のホーロー語の言い方)を提供しているところが多いし、旧正月の大晦日の夜、家族団欒で食べる正月料理にも白煠雞(白斬雞)を用意する家庭が多い。そして、自分で作るのが面倒なら、伝統的な朝市などで買えるし、レストランや食堂に注文して作ってもらう場合もある。客家系台湾人の中には台湾客家四縣語で桔醬(kit-chiong:キッチォン)、台湾ホーロー語で桔仔醬(kiat-á-chiùⁿ:ケッラチウ)と呼ばれるキンカンから作られた甘酸っぱい味のソース(オレンジ色のとろみのあるソースで、チリソースと混ぜて少し辛くしてある場合もある)を白煠雞(白斬雞)につけて食べるのが好きな人が多い。
シンガポール華人料理として有名な海南雞も白斬雞の一種である。海南雞はトリの茹で汁とトリの油に浸けて炊いた香りの高いご飯と一緒に提供される。そのルーツは中国海南島の文昌県の家庭料理「文昌雞飯(文昌県産の文昌雞で作る白斬雞)」にある。シンガポールやマレーシアなどに移民した海南人によって伝えられた。20世紀初頭、中国南方からの移民が盛んだった頃に東南アジア各地に広まり、現在では台湾でもポピュラーなトリ料理である。
これらのトリ肉料理は茹でたり、煮汁で煮たりするものだが、家庭料理として簡単に作る場合はトリもも肉の切り身に塩などの調味料を均等に擦り込み、冷蔵庫で30分ほど冷やし、冷蔵庫から取り出した後、ネギのぶつ切りやショウガをスライスしたもの、ニンニクなどをのせて、電鍋(電気炊飯器)で蒸すという方法もある。
最後に話題が料理からはそれるが、台湾はもともと農業社会だった関係で、トリやアヒルに関する諺が多く(特にトリに関するものが多い)、非常に興味深い。下に幾つか日常よく聞く諺を取り上げてみたい。
鴨仔聽雷。Ah-á thiaⁿ
lûi.(アヒルが雷を聞く=相手の言葉が全く理解できない、話が通じない)
大格雞慢啼。Tōa-keh ke bān
thî.(体つきの大きな雄鶏は遅れて鳴く=晩期大成)
歪喙雞食好米。Oai-chhùi-ke chia̍h
hó-bí.(嘴の曲がった鶏が美味しい米を食べる=自分の身分や能力以上のことを望む)
生雞卵無,放雞屎有。Seⁿ ke-nn̄g bô, pàng ke-sái
ū.(卵は産まず、糞をする=人の役に立つことは何もできず、いつも人の邪魔になる)
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編集部より:「阿彰の台湾写真紀行」では、台湾在住のデザイナー、『台北美味しい物語』著者である内海彰氏が撮影した写真とエッセイをお届けします。写真は末尾のリンクから取得することができます。またウェブで閲覧できるバックナンバーでは、記事とともに表示されます。
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1鴨肉飯(スモークしたアヒル肉)
2鵝肉飯(ボイルしたガチョウ肉)
2鵝肉飯(ボイルしたガチョウ肉)
3油雞燒鴨飯(醤油で煮たトリ肉とローストしたアヒル肉)
4燒鴨河粉(ローストしたアヒル肉とライスヌードゥル)
5蔥油雞飯(ボイルしたトリを冷やした後、ネギとショウガ入りののタレに浸けたもの)
6雞腿飯(醤油で煮たトリもも肉を油で揚げたもの)
7白煠雞(ボイルしたトリ肉)
8正月料理の白煠雞(ボイルしたトリ肉)
9海南雞飯(東南アジア華人料理)
10燒臘店(スモークやローストした肉を使った料理を提供する店)
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