1. はじめに
先ずお詫びから、台湾通信No.154のP.3の写真の説明で、台湾の文化相のお名前を鄧麗君としてしまいました。テレサテンと同姓同名かと思ったのですが、正しくは鄭麗君とのご指摘をいただきました。お詫びして訂正させていただきます。台湾人で「鄧」という姓は極めて少ないそうです。
さて、前号で、ユネスコが台湾語を消滅危機言語レベル3「危険」に位置付けたと紹介しましたが、色々調べる過程で多くのことを学びましたので、今回の台湾通信ではそれらについて報告させていただきます。
2. 世界の言語と消滅危機言語
物の本(ウィキペディアなど)によりますと、世界には数千の言語があるそうです。Bigmac
Inc.のコラム(2017.11.4)は「世界の言語の百科事典といわれているEthnologueによると、世界中では現在7,099の言語が話されています」と記しています。どのようにして数えるのか、方言の違いをどのように扱っているのかよく分かりませんが大変な数です。また、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
によりますと、「ユネスコは、『世界消滅危機言語地図Atlas
of the World’s Languages in
Danger』を発行しており、その2009年版において、世界の約6000言語を調査した結果、そのうちの2500あまりの言語が消滅の危機にさらされていると指摘した」そうです。
現存する言語数も多いですが、消滅危機に瀕する言語も多いのが驚きです。
3. 台湾の消滅危機言語(原住民語)
台湾で使用されている言語には、いわゆる台湾語以外に原住民語があります。ウィキペディアの「消滅危機言語一覧」によりますと、台湾の原住民語は24あり、その内訳は、
レベル6(すでに消滅した言語)が9種
ケタガラン語、クーロン語、シラヤ語、タオカス語、パポラ語、パゼッヘ語、バブサ語、バサイ語、ホアンヤ語
レベル5(極めて深刻)が5種
サキザヤ語、サオ語、カナカナブ語、クバラン語、サアロア語
レベル4(重大な危険)が1種
サイシャット語
レベル3(危険)は0、
レベル2(脆弱)が9種
アミ語、ブヌン語、ツォウ語、タオ語、セデック語、タイヤル語、プユマ語、ルカイ語、パイワン語
と記されています。
原住民の人口は2016年6月の統計で、549,679人(2.3%)と言われ、現在16 の部族が正式認定されていますが、レベル5(極めて深刻)に該当する言語を使用していると考えられる部族の人口を見ると、その深刻さが分かります。カナカナブ語を話すと思われるカナカナブ族の人口は何と284人、サアロア語を話すと思われるサアロア族は341人、サオ語を話すと思われるサオ族は773人、サキザヤ語を話すと思われるサキザヤ族は863人といずれも3桁の人口数です。クバラン語を話すと思われるクバラン族の人口は4桁とは言え1426人に過ぎない(いずれも2016年の統計)のです。
いわゆる台湾語の消滅危機もさることながら、消滅危機言語としては、台湾の原住民の言葉の方がより危機的ということのようです。
4. 日本における消滅危機言語
因みに、日本にも消滅危機の言語があることをご存じでしょうか?前出の「消滅危機言語一覧」に依りますと、我が国のそれは、
レベル5(極めて深刻)にアイヌ語、
レベル4(重大な危険)に八重山語、
与那国語、
レベル3(危険)に奄美語、八丈語、
国頭(くにがみ)語、宮古語、沖縄語
と記されています。
私は、アイヌ語、沖縄語の名称は聞いたことがありますが、八重山語、与那国語、奄美語、八丈語、国頭語、宮古語については名称すら知りませんでした。
このような言語を保存する意義はどこにあるのでしょうか?
言語は、「コミュニケーションの手段であるとともに思考の手段である」と「最新
心理学事典」にかかれています。コミュニケーション手段としての言語は標準語化、共通語化が求められ、思考の手段としては多様性が求められます。前者について、日本統治時代の台湾において、日本語教育を推進した結果、それまで全台湾に居住していた諸民族がそれぞれ独自の言語を使用していたために部族間のコミュニケーションが不能であったが、日本語を介してコミュニケーションが可能になったというのはよく知られていることです。半面標準語化、共通語化が進んだことにより、その言語が持つ特有な概念、語彙が失われる恐れが生じます。
5. 消滅危機言語に対する施策
言語の多様性を必要と認める立場からすれば、消滅の危機にある言語を救済する必要があるが、その方法は如何にあるべきか。台湾政府は母語教育に工夫を凝らし、台湾語専用のテレビ局を開局し、子供たちがテレビを見ながら台湾語を学べる環境を整備しているとの話ですが、この消滅危機言語についていろいろ調べるうちに、インターネット上に国立国語研究所・教授/副所長である木部暢子氏の記事(2019年11月01日「『大阪弁は消滅危機言語』という意外な現実」)を読むことが出来ました。
木部氏は、その言語の消滅によってその言語だけが持つ固有な表現(例えば「わびさび」)が消滅してしまうことを憂い、先ず「言語の消滅」ということに関心を持ってほしいと述べています。
「ネットの普及で一気に言語の一元化が進むと思いきや、それに反してネットでは、いろいろな言語や方言が飛び交っている。方言に対する関心度が高まったのがネットのいちばんの功績である」とも述べておられます。
6. 方言札
前号(No.154)で、「首に札(私は台湾語を話しました)」を掛ける罰則を紹介しました。日本にも「消滅危機言語」があることに驚きましたが、参考にさせていただいた木部暢子氏の記事(Webナショジオ)に、日本にも「方言札(ほうげんふだ)」があったと知らされ、更に驚かされました。「鹿児島や沖縄は、標準語教育、共通語教育が非常に激しかったところなんです。方言札というのがありまして、学校で方言をしゃべると罰で札を下げさせられるんですよ。そういう教育を学校でやったのが、鹿児島県と沖縄県の2県なんですね」とありました。
「人を呪わば穴二つ」でしょうか、別に台湾の国民党政府や中国共産党の国を呪ったつもりはなかったのですが、自分の国にも方言をしゃべったら罰として札を掛けるなんて言うことがあったとは・・・・・。これもいわゆるブーメラン現象の一つでしょうか。
7. おわりに
言語が消滅するということは、木場先生のご説明によれば、「最後の話者が亡くなり、この世界に誰一人その言語を母語として理解する人がいなくなった」ということだけでなく、「標準語教育、共通語教育の過程で、方言を汚い言葉、恥ずかしい言葉として扱った結果、人口が減らなくても言葉はなくなっていく」そうです。
言語に関心を持っていましたら、雑誌などを見ているとき、言語に関する記述が目に入ってまいります。
ある雑誌に、「(中国)国内でも上海語、広東語が消されつつあります。北京語を標準語にしようと躍起になっている。」「統治を楽にするため、一元化したいのでしょう。」という記述でした。言語(言葉)を消し去ろうとする意図的な試みもあるのですね。稿を改めます。
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