永山英樹
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■中国が注目する丹羽駐中大使と蓮舫行政刷新相
親中派として中国では期待が高まっている菅直人新首相。彼の政権がいかなる中
国政策を進めるかに注目が集まる中、CCTVが六月七日に放送した報道番組「
環球視線」がまず関心を寄せたのが、伊藤忠商事の丹羽宇一郎相談役の駐中国大
使への任用と、蓮舫参議院議員を行政刷新相としての初入閣させたことだった。
出演したのは中國社科院日本研究所の高洪副所長。 中国では著名な日本専門の御
用学者だ。まず丹羽氏の大使就任についてこう述べた。
―――内閣がスタートする前の段階で、早くも民間人を起用したのは明敏な創新
さだ。外務省では特に大使の人選は閉鎖的。プロ意識が強く、外部一般は口を挟
めない。しかし今回の破天荒な人選は実に創新だ。
―――明敏と言うのはなぜか。それは菅直人氏はこの人選を通じ、中日関係の一
つの核心部分を掌握したからだ。つまり戦略互恵関係の枠組みの下で、特に中国
との経済貿易、科学技術面での協力を重視し、丹羽氏を選んだ。丹羽氏は長期間
中国との経済活動に従事し、また中国の二つの省、そして北京市で顧問や諮詢委
員などを務めてきた。中日経済関係に極めて精通しているはずだし、また普通の
経済人と異なり、政治的な背景もあるはずだ。
ちなみに番組は丹羽氏に関し、「八〇年代に中国へ来てビジネスに着手するとと
もに、かつては江蘇省の経済科学技術顧問を務め、現在は北京市市長顧問、吉林
省経済顧問に就任している」と強調している。
■丹羽大使の中国との「太いパイプ」が曲者だ
このように中国政府との太いパイプが日中双方から評価される丹羽氏だが、民主
党政権の「政治主導」(「官から民へ」)の政策方針に基くこの起用について、
外務省内では衝撃、戸惑いが広がっていると言う。
毎日新聞(七日)によれば、「尋常ならざる事態だ」「敏感な問題が起きた時、
民間人で対処できるのか」「経済は得意かもしれないが、安全保障問題をうまく
調整できるか疑問だ」などと言った指摘が出ている。(毎日、七日)
日本経団連の米倉弘昌会長は七日の定例会見で、「異例中の異例で驚いた。大使
となると利権が絡む可能性もあると思うので、中立・公正の原則を貫いていただ
きたい」と丹羽氏に要望している。だがそもそも、中国政府との「太いパイプ」
など、利権抜きで構築できるのだろうか。
真に「中立・公正」な人間など、たまたま自国の利益に合致する場合を除き、中
国側は取り入れないはずだ。コントロールできない人間と「パイプ」を構築しな
いとの姿勢で徹底している。
そこで問題となるのが丹羽氏が、どれほど中国政府の影響力を受けているかであ
る。「敏感な問題で対処できるのか」との不安は、ますます高まる一方だ。
■蓮舫氏を「中国系」と強調する中国の戦略とは
さて次に高洪氏次が触れるのが蓮舫氏についてだ。番組が同氏の入閣に注目する
のは、「史上初の華裔(中国系)の大臣」だとの理由である(番組は台湾を「中
国台湾」と呼んでいた)。
こう話す。
―――私は彼女と会ったことがある。政界に入って以来、中国、そして台湾との
交流カードを切ってきた。だから何度も我が大陸に来ている。
―――彼女の父親は台湾人の商人で日本で仕事をし、日本人と結婚した。彼女は
日本で生まれ育ったが、家庭で漢語を学んでいる。さらに重要なのは政治家にな
る前に北京大学で二年間留学したことだ。
―――彼女は外交領域で仕事をしたことがない。だからこれも一種の創新と言え
る。日本と言う国は保守的で、大臣は素より国会議員でも、一〇〇%の純正な血
統でなければ選出されることは困難だ。民主党はこれを打ち破り、半分が日本以
外の血統である人間を大臣にした。
―――もし彼女が力を発揮できるなら、日中関係の改善にも、民主党と我が中国
の政府、各界の関係の向上にも有利である。
閉鎖的、排他的な自国の状況を棚に上げ、日本社会の外国人に保守的な伝統を打
ち破る動きを評価する中国人の論法は、日本政府に在日中国人に地方参政権付与
を要求する際にも見られるものである。
つまり日本の政治、社会に中国人の影響力浸透を期待してのものなのだ。
■中国は蓮舫氏に晴れの舞台を用意している
要するにここで高洪氏は、蓮舫氏に対して「あなたは中国人の血統である以上、
中国の対日外交に協力しなければならない。外交経験など必要はない。我が方が
あなたに活躍の舞台を用意しておく」とアピールしているようなものなのだ。
ただここで問題となるのが、当の蓮舫氏に中国人意識があるかどうかだ。
台湾でも同氏の入閣はトップニュースとなっている。ただし「華裔」ではなく「
台裔」(台湾系)の初入閣としてだ。
中国側は「台裔」は「華裔」の一部だと看做しているが、一般の台湾人には受け
入れ難い政治的主張である。蓮舫も自身を「華裔」などとは自覚していないので
はないか。
入閣が決まった蓮舫氏に記者団が群がる映像を見た。「『中国系大臣誕生』と中
国メディアは伝えていますけど」との聞かれた同氏は、それには何も答えず、た
だ「ありがとうございます」と言って立ち去って行ったが。
願わくば、中国の戦略的ラブコールに惑わされ、あの国との「太いパイプ」など
持たされないことを。せっかく晴れの舞台に踊り出たのだから、国益を重視する
意義ある政治家人生を。
英雄視してくれる台湾の人々の、暖かい声援を裏切らないためにも。