【三峡ダム】ガン細胞が造った不吉な塊

【三峡ダム】ガン細胞が造った不吉な塊

中国ガン・台湾人医師の処方箋」より(林 建良著、並木書房出版)

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●龍脈を絶つ「不吉な化け物」

一九九三年に着工して二〇〇九年に完成した世界一の巨大ダム「三峡ダム」が早くも不吉な塊に化けた。

多くの中国人が三峡ダムによって「龍脈」が断たれたと信じている。龍とは母なる大河長江(揚子江)のことである。

中国人には風水を信じる人が多い。風水によって人に栄光をもたらすこともあれば、不幸に陥ることもあると信じている。風水が破壊されたら子々孫々が不幸になると、中国人のほとんどが信じている。

西の辺境に聳え立つ山の小さな川から大河となって東の海へ奔流する長江は民族の命脈であり、風水の龍脈にあたる。しかし、その龍脈がいまや巨大コンクリートの塊よって断たれてしまった。長江はもはや母なる偉大な大河ではなくなり、先に述べたように、悪臭が漂う巨大な「排水溝」に変わってしまったのだ。
なぜ中国はこのような「不吉な化け物」を造ってしまったのか。

 三峡といえば、頭に浮かぶイメージとはまず李白の有名な唐詩「早発白帝城(早(つと)に白帝城(はくていじょう)を発す」だろう。

朝辞白帝彩雲間 朝(あした)に辞す白帝彩雲の間
千里江陵一日還 千里の江陵(こうりょう)一日(いちじつ)にして還(かえ)る
両岸猿声啼不住 両岸の猿声(えんせい)啼(な)いて住(や)まざるに
軽舟已過万重山 軽舟(けいしゅう)已に過ぐ万重(ばんちょう)の山を

この詩がなぜたくさんの人に愛されているのかといえば、三峡を具象的に描写するのではなく、動的情景で三峡の美しさを間接的に表現しているからであろう。そこに三峡の美が実在しており、多くの人間もそれを知っているから実景を描写する必要もなく、動的表現でその絶景を読者に想像させることができたからだ。

こうした文化遺産を残す三峡が人々を魅了させ、数多くの文学、芸術を生み出す土壌にもなった。しかし、こうした美的意識は中国のガン細胞にとっては無縁なものなのだ。

●欲望と本能で生まれた三峡ダム

三峡にダムを造ろうという発想は極めて中国的である。そこに中国ガン細胞の本能が働いている。その本能とは、金銭欲と功名心だ。李白の詩にあるかの白帝城を水没させ、美しい三峡を破壊し、一四〇万人もの住民を追い出して巨大コンクリートの塊を造る神経は、中国人しか持ち得ない。

中国には「好大喜功」という言葉があり、それは大風呂敷を広げ、功名を追求するという意味である。三峡ダムの建設はまさにこの言葉の通りなのだ。

日本では公共建設の費用は民間のそれより三割も高いという批判をよく耳にするが、手抜き工事はほとんどないと言っていい。しかし、中国の公共建設では二割から三割くらいの予算が役人の懐に入るので、公共建設の手抜き工事は常態となっている。

二〇〇八年に起こった四川大地震で倒壊した役所や学校の映像を思い出していただきたい。崩壊した学校などの柱には針金のような鉄筋しか入っていなかった。
中国人の間では公共建設は「豆腐滓工程(オカラ工事)」と呼ばれている。オカラ工事はあらゆる段階でワイロが発生した結果である。一番下っ端の小役人から国の指導者まで、それぞれ二割ぐらいのワイロを要求していくのだから、予算が膨らむ一方、資材を減らさなければとてもワイロに間に合わない。結果としてオカラ工事しかできないのだ。

三峡ダムも例外ではない。その巨大なコンクリートの塊が中国ガンの本能と欲望の象徴となった。三峡ダムの事業効果について中国の指導者たちはまったく興味がない、と中国の研究者たちも指摘している。中国ガンの目的は事業の効果ではなく、事業を実施することにあるからだ。

●環境破壊のシンボル

しかし、指導者たちの欲望を満たすための代価はあまりにも大きい。三峡ダムがあらゆる災難をもたらしている。
ダムが二〇〇九年に完成してから、絶えず発生しているのは、水質汚染の問題と山崩れだ。

水質汚染に関しては、その大きな原因に、先に述べた長江流域における汚水排出量の激増が挙げられる。流域には巨大都市である重慶の三千万人を含め、一億六千万人もが居住しており、その工業・生活排水量が長江に流れ込み、三峡ダムは汚染された貯水池になりつつある。

三峡ダムの完成後はダム付近で水流が停止し、自浄機能が失われたため、窒素やリンなどによる汚染が悪化するなど、水質汚染がさらに進んでいる。そのため、長江の支流の水質が悪化して、大量の有毒藻類が広範囲に発生し、飲用水の汚染という深刻な問題も引き起こしている。

●頻発する山崩れや地滑り

ダムを建設するため広範囲にわたって森林を破壊したことで地質が弱まり、山崩れを引き起こしている。また、ダムに貯まった水は河岸を浸食して地滑りを引き起こし、住民の生命を脅かしている。すでに地滑りによって壊滅した村すらある。

さらに、ダムの貯水がしばしば地震を誘発するという。三峡ダムの水位が一三五メートルに達した二〇〇三年六月以降、付近では大小千回以上の地震が発生している。このダムが築かれた渓谷は、もともと地質が不安定で、水位が一〇〇メートルを超えると、地震が発生しやすい状況になる。

 大規模な地滑りや洪水は、建設当初から頻発しており、環境問題の専門家の間では、三峡ダムの建設は長江の沿岸地域の自然環境を破壊すると早くから予測されていたのだが、当局はそうした指摘や警告を封殺してきた。

ドイツ在住で、ダムの建設企画に参加していた水利専門家の王維洛氏(国土計画学博士)は「当局はこの大型建設プロジェクトを支持する意見しか取り上げなかった」と指摘し、「中国の知識人は、政府の顔色を窺い、自分の見識よりも当局の言いなりになることを最重要視している」「科学者らは中国当局の政治宣伝に同調するだけで、真の客観的な科学論証を示せない」と批判している。

また、米国在住で環境問題に詳しい著名作家の鄭義氏は、ダム建設をめぐっては背後に膨大な利益集団が存在し、「権力者と民間業者が結託して自己利益を貪っている状況」だと指摘している。

これぞ中国ガンの本領発揮で、環境問題が無視されるのは当然であろう。経済的効果以上に政治的動機が強い当局の権力者にとっては、巨大ダムを造ることで得られる「役得」という利益が目当てなのだ。

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