「中国ガン・台湾人医師の処方箋」より(林 建良著、並木書房出版)
●「三峡ダムは絶対造ってはならない」と叫んだ黄万里氏
多くの水利専門家は、ダムの決壊もありうると指摘している。その代表的人物は「中国水利界の良心」と称される清華大学水利学部教授だった故黄万里氏だ。彼が亡くなる直前に叫んだ言葉とは「三峡ダムは絶対造ってはならない」だったという。それは、建設に反対する意見書を何度も出してきた黄氏の遺言となったが、三峡ダムは造る途中から決壊を予想できる危険なダムだった。
実際、三峡ダムは二〇〇六年に貯水する段階から早くも亀裂の問題が多発した。中国政府もそれを認め、予算を組んで補修の工事を実施することにした。
三峡ダムが着工するまで、中国政府が反対意見を無視し反対者を投獄したが、二〇一二年四月、中国国土資源部三峡ダム地区地質災害防止弁公室の劉源主任は、三峡ダムの貯水により災害が増える傾向があり、地滑りや山崩れなどの危険箇所は五三八六ヵ所にものぼることを明らかにした。
非を絶対認めない中国政府であるのに、なぜ完成してわずか三年後に素直に三峡ダムの問題を認めたのだろうか。世界の中国ウォッチャーの多くは問題が多すぎて隠し切れないから認めるしかないとコメントしているが、その指摘は正しいものの、主要な理由ではない。
中国問題を考えるときは、人間の思考方式ではなく、ガン細胞の思考方式で考えるべきだ。中国ガンにとって、ダムに問題があった方がよいのだ。問題があれば、放置するわけにはいかない。当然、補修が必要になるし、予算も組まなければいけない。その分ワイロが入る。着工前は問題のあることを無視して反対者を投獄までしたが、できてしまえば、問題があった方が都合がよいのだ。
●中国ガンの「金になる木」
水質汚染の問題にしても、山崩れの問題にしても、ダムそのものと同じように「金になる木」なのだ。問題を処理しなければ、ダムが決壊するかもしれないという下流に住む数億の住民の恐怖感を利用して、金をむしりとるのが中国ガンならではの発想なのだ。
ダムの問題はそれだけではない。一四〇万人にのぼる「三峡移民」もまた新たな「金になる木」となっている。彼らの住居の建設と経済活動に伴う工場の建設もまた新たな「収入源」になるからだ。しかし「三峡移民」の移住先を長江沿岸としたため、山の斜面を崩して開発した。その結果、それに伴う多量の土砂が三峡ダムに流入し、ダムの決壊を加速させている。
次から次へ発生する問題は、膨大な予算を組む格好の「口実」となっている。問題だらけの三峡ダムは、中国ガンにとっては実は最高の「楽園」なのだ。
●三峡ダムは決壊する
その三峡ダムは本当に決壊するのか。
論より証拠、今まで中国で造られたダムがどうなったか、その実績を見ればよい。中国水源機関の報告によれば、一九五四年から二〇〇三年の間に造られた中国のダムは実に三四八四基も決壊している。平均すれば年間に七一基、五日に一基の割合でダムが決壊する恐ろしい現実なのだ。
新華社通信は中国国務院(内閣に相当)直属の通信社で、政府や中国共産党のいわば代弁メディアだ。その新華社通信がすでに二〇〇七年四月時点で、中国水源機関報告を裏づけるように、矯勇・副水利相の「欠陥を抱えたダムは『時限爆弾』のようなものだ。ダム下流地域の住民の生活や資産は深刻な脅威にさらされている」という空恐ろしいコメントとともに、堂々と「中国全土には八万五千基以上のダムがあるが、そのうち三万基(大規模ダム二〇〇基、中規模ダム一六〇〇基を含む)に深刻な構造欠陥があるとみられている」と報じていたのだ。
この新華社通信の記事を受け、AFP通信は中国政府の隠蔽体質を指摘しつつ、三峡ダムの建設現状について、次のように伝えていた。
〈一九七五年八月に河南省中部を襲った豪雨では、ダム六二基が決壊、破壊されるなどした。
公式統計によると、この災害で、少なくとも二万六千人が死亡、一千万人が深刻な被害を受けたが、この数字は、数年間、隠蔽されたままだった。専門家は、決壊事故のいくつかは技術的な欠陥が原因だとしている。
一方、中国政府が治水対策を目的に、「世界最大の発電プロジェクト」として揚子江中流に建設した三峡ダムでは、ひび割れが見つかり、中国のダム建設技術への懸念が持ち上がっている。しかし、中国政府は懸念を否定。ひび割れに問題はないとし、補修工事を行っていると説明した。〉(二〇〇七年四月二十日付)
建設前から、三峡ダム近辺の地質のもろさからして、ダム建設に適さないという指摘が多くあった。欠陥を抱えた三峡ダムこそまさに「時限爆弾」であり、龍脈を絶つ「不吉な塊」なのだ。三峡ダムの決壊はないと言い切れる根拠はどこにもない。
それでは、決壊したらどうなるのか?数億単位の住民の生命と財産はどうなるのか?想像もつかない巨大土石流が工場などなぎ倒して、天文学的な有害物質が海に流れ込んだら、東シナ海は死海と化してしまうだろう。
だが、中国当局にしてみれば、そんなことは神のみぞ知る。ガン細胞にはどうでもよいのだ。