【トニータナカ】一人の日本人として、親として

【トニータナカ】 一人の日本人として、親として

【編集部】

10月6日、東京都内にて「日台文化芸術交流協会」が設立され、
「海角七号」主演女優田中千絵氏の父親であるトニータナカ氏が会長に就任されました。

 http://www.libertytimes.com.tw/2010/new/oct/7/today-show17.htm

(自由時報記事)

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        トニータナカ (日台文化芸術交流協会会長)

日台文化芸術交流協会の構想は今から5年前、一人の日本人女性が台湾へ渡ったことに端を発します。

留学生として単身台湾へ渡った彼女は、自分の小さい頃からの夢である映画女優への道をこの地で歩み出します。親元を離れたことない彼女にとっては、まさに一大決心の末のことでした。日本に留まれば、なに不自由なく過ごせたかもしれないのに、夢への強い思いが彼女を駆り立てました。

しかし、その人生を賭けた彼女の決心に、現実は鉄槌を下すように容赦なく襲いかかります。異国の地、見知らぬ人、聞き慣れない言語、習慣も文化も違う生活環境。経験した者しか味わうことのない心細さと孤独感。思い描いた通りに進まない夢への道のり。現実に対する知識不足の自分。なかなか好転しないもどかしさ……。海外生活のストレスは、本人の想像をはるかに超えるものでした。

何度も何度も帰国しようと思った彼女。普通なら早々に挫折していたかもしれません。そこを踏みとどめたもの。それが「台湾ママ」の存在でした。もちろん血の繋がった母ではありません。現地の台湾人女性が、文字通り母親のように接し、彼女の身の回りの世話をやいてくれたのです。「台湾ママ」は、彼女の生活を我が子のようにサポートしてくれました。風邪を引いたと聞きつけてはアパートまで来て食事を作ったり、言葉がままならないことを知って病院にまで連れていってくれたりしました。他にも、多くの台湾人のみなさんが彼女を応援してくれたのです。まるで身内を世話するように。子を持つ親ならば、どんなに感謝してもし尽くせないほどです。

その後、彼女はたった1つの映画をきっかけに、多くの台湾国民から愛される女優へと成長していきました。彼女が夢を掴んだ映画は、台湾国内はもとより日本などでも話題になった「海角七号」です。この映画に出演したのが、私の娘、田中千絵です。
結果だけを見れば幸運だったと、人は言うかもしれません。ただ、その背景には「台湾ママ」との出会いや多くの人たちの支えがあったのです。

「台湾へ渡って、一からはじめたい」、そう言われたときには反対もしました。その彼女が、見ず知らずの異国の人々に支えられ成長していく。多くの人に愛される。親としては感無量の思いでいっぱいです。いつしか、この感謝の気持ちを何か形にしたいという思いが強くなりました。

映画『海角七号』は、奇しくも台湾と日本の男女が織りなす物語です。時代を超え、国境を超え、世代をも超える内容は、様々なものを現代へ投げかけました。この映画を通じ、また千絵の成長を通じて得たもの、それこそが国境や世代を超えた「交流」に他なりません。「両国の若者に互いの国のことを、文化や芸術の交流を通じて正しく伝えたい」─これが今回の日台文化芸術交流協会設立の動機です。

日本には、古来より「恩送り」という言葉があります。 受けた恩を直接その人に返す「恩返し」ではなく、別の人に送る「恩送り」。その恩を送られた人はさらに別の人へ送る。そうして恩が世の中をぐるぐる回るという意味です。娘の千絵も、私も、台湾という国に多くの恩をいただきました。

日台両国が培って来た伝統や芸術、文化、教養などを、両国の次代を担う人々の交流により、お互いをより深く理解しあえる国へと発展が望める、その一翼を担えればと願っています。

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【参考】

日台文化芸術交流協会 設立趣意書

<設立趣旨>

日本と台湾は国交のない現状においても、両国国民の心理的距離は極めて近い。その背景には、両国がかつては同じ国として歴史や文化などを共有した経緯や、国交断絶後も継続されてきた地下水のごとき深い交流があるのだろう。たとえば映画「海角七号」の台湾における大ヒットは、そのことを証明するに足る現象であった。両国間の貴重な財産と言える豊かな交流が、今後も維持、拡大、深化されることが求められている所以だ。

そうした中において、政治や経済もさることながら、重要な基盤となるのが文化・芸術面における交流の促進だ。それも、両国の次代を担う世代の交流により、日本と台湾において伝承されてきた伝統や文化、あるいは新しい時代を創造する演劇や映像、ファッションやモードなどを互いに紹介し、理解し合うことは、両国国民の心の絆をさらに一層深めることに役立つに違いない。

ところが、このような交流活動を望む人々は少なくないにもかかわらず、残念ながら受け皿となる正式な組織がこれまでなかった。そこで、微力ながらその任を担いたいとの思いから、本協会を設立する次第である。

<活動内容>

日本と台湾において伝えられてきた文化芸術の交流を通して、両国の若者に夢や希望、生きる活力をもたらし、輝ける未来を考える基盤づくりに寄与する活動を推進する。なお、積極的な参加意志があれば参加制限は設けない。

1. 台湾における日本の文化芸術活動の開催。
2. ファッション、モード、アニメ、放送等に関する最新情報交流会の開催。
3、台湾の文化、芸術、放送等を広く日本に紹介する場の提供。


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