「明日への選択」5月号より転載
台湾独立建国聯盟 日本本部中央委員 林 建良
●法的根拠を与えるアメリカの台湾関係法
同じく台湾と外交関係を持たないアメリカはどのように台湾に対処しているのだろうか。アメリカは1979年に台湾の中華民国政権と断交後、時間をおかずに国内法である台湾関係法制定した。
なぜ国際法ではなく国内法なのか。
筆者は1999年にハワイで開催した世界台湾同郷会の会議において、アメリカが台湾に関する法律を設定することは台湾に対する内政干渉にならないかという質問をリチャード・ブッシュ米国台湾関係協会理事長にぶつけてみた。
彼は、台湾と断交したからといって、台湾は中国の一部になったわけでもなければ、消えたわけでもなく、アメリカにとって台湾は重要な存在であることには変わりがない。だから国交のない台湾にどう対処していくのかの法的根拠が必要だ。これはアメリカの国益の観点から制定した法律であり、アメリカ国民に対する義務を持つ国内法になるのだと答えた。これは日本にも通じる道理であろう。
アメリカの台湾関係法は全十八条で構成されており、主な目的は台湾との接触に法的根拠を与えることだ。
その主な柱は四つある。台湾の平和と安定がアメリカの国益に合致することの明文化(第二条B項)。台湾との関係を中断することなく1979年以前に締結した条約にそのまま効力を持たせる(第四条)。台湾への防衛性武器供与と台湾の安全を守ることの義務付け(第三条)。台湾に関する事務を議会の監督下で行うこと(第十四条)。
このようにアメリカの対台湾政策は、国益に基づいて立法されており、議会の監督の下で行われている。
●日本の安全に直結する日本版台湾関係法
日本には台湾との外交を遂行するために法的根拠が不可欠で、日本版台湾関係法の制定が急務であるとの識者の声もある。実際に2005年、平成国際大学の浅野和生教授が「日台関係基本法」の試案を発表した。法的根拠のない外交の難しさを体感していた当時の許世楷駐日台湾代表はこの試みを高く評価している。浅野氏の試案はあくまでも現在行っている日台間の外交業務の法案化に過ぎないが、現存の民間ベースの取り決めを法案化することこそ重大な意義があるのだ。
日本版台湾関係法の制定が必ず中国の強い抗議にあうことは簡単に予想が出来る。日本に有益なことであれば、いつでも中国は必ず反対するのだ。靖国問題であろうと憲法改正問題であろうと中国は常に異議を唱え、その都度日本は萎縮して国益に反する方向に引っ張られる。
だが、中国が強大になったからこそ、日本版台湾関係法の必要性が更に高まる。中国の台湾併合の野心が日に日に高まっており、台湾が中国のブラックホールから抜け出すことも以前より困難になっている。このままでは台湾が中国の一部になるのはもはや時間の問題だ。そうなると中国の潜水艦が自由に台湾の東海岸から太平洋を通って日本の裏庭に進出し、日本国の命運も完全に中国に扼される。
こうした事態を防ぐ第一歩が、台湾と国レベルで連携出来るようにする法的整備であることは言うまでもない。日本の台湾関係法制定は台湾人にとっても絶大な励ましにもなり、台湾は歓迎している。勿論それが出来るかどうかはひとえに日本人の覚悟にかかっているのだ。