【産経正論】李登輝氏の葬儀を前に考える

【産経正論】李登輝氏の葬儀を前に考える
【産経正論】李登輝氏の葬儀を前に考える 

20200918 産経新聞より

     拓殖大学学事顧問・渡辺利夫

 台湾、「小国寡民」のこの島が自由と民主主義を擁し、高所得と高度技術をもつ存在として立国しているのはまことに稀有(けう)なことなのであろう。

 大陸での国共内戦に敗れた国民党が台湾に敗走してここを占領、台湾は中華民国の一部として国民党の支配下におかれ、そうしてこの中華民国が大陸を含む中国全土の正統的国家であるという虚構がつくりあげられた。

 ≪李登輝元総統と民主化≫

 台湾は大陸との内戦状態におかれ、自由や民主主義などとは無縁の専制政治が敷かれた。蒋介石の後継総統・蒋経国の急死により、台湾人(本省人)初の総統の座に就いたのが李登輝である。しかし、大陸出身者(外省人)の力はなお強く、李登輝の民主化への意思は容易に顕現しなかった。

 李登輝は1990年、初の総統選に臨み、噴きあがる若者を中心とする民意を背に受けて勝利、暫定的な総統から真の総統へと変じた。ただちに「国是会議」を開き民主化への最大の障壁「動員戡乱(かんらん)時期臨時条款」(反乱平定時期臨時条款)を廃止した。台湾に逃亡して以来、40年以上も改選されずにいた「万年議員」を辞職に追い込んで、これも民選へと転換させた。

 李登輝の心中にあったものは「脱中華民国」であり、「中華民国体制」という虚構からの脱却である。共産党を反乱団体とする規定を廃し、かつ自らの主権の及ぶところを台湾本島、金門、馬祖などの離島に限定した。共産党による大陸支配の容認でもあった。

 大陸中国との関係をどうするか。李登輝は直属の対中政策諮問機関「国家統一委員会」を立ちあげ、「国家統一綱領」を制定した。中台の統一には「人間の尊厳の擁護、民主主義的な法治の実践」が不可欠だとの認識が表明され、統一はその条件が整うまで段階をわけて逐次的になされるべきことが提起された。

 ≪台湾の位置づけをより高める≫

 つづく画期が中台関係の「新定義」であった。1999年、海外メディアの取材に答えて、李登輝は次のように語った。「両岸関係の位置づけは国家と国家、少なくとも特殊な国と国の関係になっており、合法政府と反乱団体、中央政府と地方政府という“一つの中国”における内部関係では決してない」

 この新定義の提起に深く関わったのが現総統の蔡英文である。中台外交を担当する行政院大陸委員会の主任委員に就任、「二国論」「特殊な国と国の関係論」を定着させることに尽力した。

 蔡英文は中華民国を否定して台湾独立を主張するラディカルな独立派ではない。そうではなく、中華民国はすでに独立国家であり、改めて独立を宣言する必要はないと考える「天然独」である。事実、今年1月の総統選直後の記者会見でそう明言した。この明言につづいて蔡英文はわれわれは「中華民国」ではなく「中華民国台湾」だと語った。蔡英文の真意の在(あ)り処(か)を伝える貴重なメッセージであろう。

 李登輝の用語法が「中華民国在台湾」である。しかし、蔡英文のいう「中華民国台湾」においては、中華民国と台湾は同格であり、李登輝の用語法よりも台湾の位置づけをより高め、中華民国のそれをより低いものとしている。蔡英文は本当は中華民国台湾ではなく「台湾」とだけいいたかったのかもしれないが、これでは中国はもとより国民党内強硬派からの猛烈な反発が避けられない。総統としての最大限の表現が中華民国台湾だったのであろう。

 中華民国体制からの脱却をめざして政治的人生を紡いできた李登輝自身は、後年、いよいよ強く台湾の政治的ポジションについての思いを深め、「台湾共和国」として新憲法を制定すべしと主張するようにさえなった。

 ≪日本にとっての大いなる人物≫

 冒頭、私は台湾という「小国寡民」の島が確たる存在として立国しているのはまことに稀有なことだと述べた。国民党による専制政治は台湾住民には実に苛酷なものであった。しかし、その時点、第二次大戦での敗北により日本の台湾統治はすでに終了していた。日本統治終焉(しゅうえん)後の空隙をつくかのようにやってきた外来政権・国民党が台湾を支配下においたのだが、仮にこの事実がなかったとしたら、その後の台湾はどうなっていたのだろうか。

 おそらくはかなり高い確率で、新疆ウイグル、チベット、内モンゴルと同じく中国の圧政に苦しめられる国内の一省となっていた蓋然性が高い。中華民国体制は現在の自由、民主の台湾にとって、ある種の「必要悪」だったのかもしれない。

 中国の外交的、軍事的攻勢を前に日本にとっての台湾の重要性はいよいよ高い。李登輝という日本人にとっても大いなる人物の逝去の報に接して、日本政府よ、わが国人よ、台湾にもう少しの深い思い入れをもってほしい。9月19日に告別式、10月7日に本葬が執り行われる。(わたなべ としお)


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