【台湾ダイジェスト】政府解体─傾中勢力の国防部攻撃

【台湾ダイジェスト】政府解体─傾中勢力の国防部攻撃
【台湾ダイジェスト】政府解体─傾中勢力の国防部攻撃  

               迫田 勝敏(ジャーナリスト)

【台湾ダイジェスト:9月号】

 この夏、総統府前の凱達格蘭(ケタガラン)大道は政府批判の声が渦巻いた。下士官の
虐待死に抗議する25万人の白衫軍(白シャツ軍団)のデモ、反核デモ、中国とのサービス
貿易協議反対デモ、苗栗県の強制立ち退き反対デモ…。政府解体を訴える声も上がり、遂
に先ず馬総統に近い立法委員の罷免を求め、馬英九政権を打倒しようという政党色のない
文化人や学生たちのグループによる署名運動も始まった。

◆「国民党の忘八蛋!」と牛糞

 8月18日夕、総統府前では「818拆政府(政府解体)」と書いた黄色いプラカードを掲げ
た2万人近い人たちの集会が行われていた。苗栗県大埔の強制立ち退きに反対するデモで、
「昨天拆大埔、今天拆政府」(昨日大埔を壊し、今日は政府解体)と書いた小さなビラを
「はい、護身符(お守り)。護身符よ!」と次々に配っているおばさんがいた。

 道路脇のテントの中には祭壇が設えられ馬英九の似顔。その似顔絵に向かって叔父さん
が「国民党の忘八蛋(馬鹿野郎)!」と牛の糞を投げつけ、それに続いて若者も簡易手袋
をはめて思いっきり牛糞を掴んで投げていた。集会の舞台裏手の鉄条網にも「どうしても
っと早く言わないの」と耳に手をかざした馬英九の似顔絵が貼られ、これにも水をかけた
りする若者が絶えなかった。この有様をみれば馬英九の支持率10%台低迷も頷ける。

 この若者たちは集会終了後、行政院に向けてデモ行進し、突然、方針を変更、塀を乗り
越えて内政部の建物に侵入した。警備員、警察官は対応できず、1000人余が建物を占拠、
あちこちの壁にスプレーで「拆政府」と書いた。最近のデモでここまで「無法」状態にな
ったのは珍しい。

◆軍事法廷廃止で国防部一部解体?

 デモ隊をここまで「無法」にさせたのは、政府が民意を聞かないからだろう。「どうし
てもっと早く言わないの」という似顔絵は民意を聞かない馬英九に対する皮肉だ。その典
型が虐待死事件。死因を不審に思う遺族に対し「軍事審判法で厳正に対処する」と一切を
軍・国防部任せ。その軍に対して不信感を持っている遺族の心情など全く理解していない。

 結局、死因はその後2回も書き換えられ、最後は「他殺」になった。トップが事態の深刻
さをもっと早く察知し、対応していれば、その後の25万人デモにはならなかったはずだ。
悲しみを表す白い服を着たデモは、反核デモを上回る今年最大規模。慌てた指導部は軍事
審判法を急遽、改正し、軍事法廷を廃止し、虐待死の軍の関係者たちを一般の司法で裁く
ことにした。

 軍事法廷の判決は一般の司法の判決より厳しいのが常識。軍の規律を守るためだ。しか
し虐待死事件は逆。被疑者たちがかばわれていた。だからこそ死因が二転三転した。白シ
ャツ軍団の圧力で軍の判決より厳しい措置を迫られ、軍事法廷を廃止し、一般の司法の裁
判を受けさせることにした。政府自ら国防部の一部解体をしたのである。これで民意を聞
いたというつもりなのか。

 ところが法改正で喜んだのは軍専用の台南監獄で服役中の軍人たちだろう。法改正で軍
事法廷も台南監獄も廃止になり、一般の刑務所に移管され、いずれは司法の裁きを改めて
受ける。その時、軍事法廷の判決よりは軽く、つまり減刑になる公算が大きいともいう。
14日、全台湾11の監獄に分散移送された243人の受刑者の顔には笑みが浮かんでいたか?

◆対岸からも政府解体の手

 虐待死事件では国防部は袋叩きに遭い、身を削った。自ら撒いた種ではあるが、国防大
臣は2人更迭、軍事法廷は廃止になり、軍人は今後、軍の管理を離れ、民間人と同じく司法
の裁きを受ける。事件とは無関係だろうが、来年度の国防予算は過去4年間で最低に縮減さ
れた。

 そこへ飛び込んできたのが、中国が米国に対し台湾への武器売却を止めるよう求め、見
返りに台湾向けのミサイル配備などを縮減するというニュースだ。米国も台湾国防部も否
定しているが、中国国家主席の習近平が米国大統領、オバマと会談したときに提起したこ
とは確実だ。中国は台湾国防部のスキャンダルを衝いて台湾の国防を弱体化させようとし
ているのではないかとの観測も出てくる。事実、米国の台湾関係者が台湾国防部を攻撃し
ているのは台湾の傾中勢力だとの発言も伝えられた。

 そういえば25万人白シャツ軍団のデモは、2006年の陳水扁打倒の赤シャツ軍団(紅衫
軍)のデモに似た側面もある。赤シャツ軍団のデモは元民進党主席の施明徳がリーダーだ
ったが、背後には中国の支援があるともいわれた。まさか白シャツ軍団も同じではないと
思うが、政府解体の手は対岸からも伸びているのかもしれない。

                      (敬称略、ジャーナリスト・迫田勝敏)

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