12月の「民主主義サミット」で加速する北京五輪ボイコット論  黄 文雄(文明史家)

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◆米国が台湾を民主主義サミットに招待

 アメリカは12月9日、10日、中国やロシアを牽制するために、民主主義国を集めたオンライン会議「民主主義サミット」を開催、日本やイギリス、EU諸国など110カ国が参加しますが、そこへ台湾も招待されることとなりました。

 民主主義サミットの開催は、今年8月にアメリカのホワイトハウスが発表したもので、それによれば、各国の国家元首に加え、慈善団体や民間部門の代表も招待することが予定され、主に、(1)権威主義に対する備え(2)汚職との闘い(3)人権尊重の促進といったテーマを討議することになっています。

 専制国家である中国やロシアと対抗し、民主主義国間の連携を強めることを目的にした会議ですが、ここに、中国に脅かされている台湾と、ロシアに脅かされているウクライナが招待されていることの意味は非常に大きいといえます。

 台湾とウクライナが受けている脅威に対して、価値を共有する民主主義国が一致団結して対抗するという意味合いがあるからです。

 それと同時に、経済安全保障の観点からも民主主義国が連携し、中国偏重のサプライチェーンのリスクを共有し、これを組み替えていくための足がかりになっていくと思われます。

 招待国のリストはネットでも確認できます。 https://www.state.gov/participant-list-the-summit-for-democracy/

◆政治や外交問題を経済問題に転化して脅すのは中国の常套手段

 独立志向の強い蔡英文政権になってから、中国が台湾に対する圧力を強めていることは周知のとおりです。台湾と外交関係にある国に金銭と脅しで断交を迫るということにくわえて、台湾企業に対する嫌がらせも増加してきています。

 11月22日には、中国で製造業や不動産開発事業を展開している台湾の「遠東集団」に対して、中国当局は環境保護や土地利用、品質管理などに違法行為があったとして、16億円弱の罰金を課しました。その一方で、同日、中国国務院台湾事務弁公室の報道官は、「台湾独立を支持し、両岸関係を損なうものが大陸で金儲けすることは絶対に許さない」と、中国進出の台湾企業に脅しをかけています。

 このように、政治や外交問題を経済問題に転化して脅してくるのは中国の常套手段で、だからこそ経済安全保障の重要性が謳われるようになったわけです。

 中国に逆らえば、中国の人権弾圧を問題視すれば、中国が経済報復を行ってくる恐れがあるため、経済的に中国への依存は国家の生死を左右することにつながりかねません。民主主義サミットは、民主主義国間でのサプライチェーン構築も視野に入れていることは間違いありません。

◆民主主義サミットで最重要視される人権問題

 加えて、民主主義サミットでは、人権尊重の促進がテーマということもあって、ウイグルや香港問題に加え、テニスプレーヤーの彭帥氏による共産党幹部の性的関係強要問題、その後の失踪問題も議題として登る可能性もあります。

 中国側がさかんに彭帥氏について「元気で問題ない」とアピールしているのは、来年の北京冬季五輪もさることながら、この民主主義サミットを意識してのことでしょう。

 言うまでもなく、民主主義において最重要視されるのが人権であり、その価値を共有している国々が集まることで、北京冬季五輪への「政治ボイコット」への流れが加速する可能性もあります。中国としては、それはどうしても避けたいことでしょう。

 彭帥氏はIOCのバッハ会長とテレビ電話会談をして自身の身の安全を証言したとのことですが、もちろん、それをお膳立てしたのは中国当局です。なぜバッハ会長と会談させたかといえば、北京五輪のこともありますが、五輪憲章には最重要の項目として人権尊重が謳われていますから、バッハ会長にお墨付きを与えてもらうことで人権問題もクリアしたということで、民主主義サミットを牽制しようとしたのでしょう。

 とはいえ、中国とバッハ会長は五輪開催で利害共有関係にあるため、かなり露骨な結託でした。バッハ会長が中国の人権問題に疑念を抱いて、五輪を中止にすることなどありえないからです。

 とはいえ、国際的に評判が良くないバッハ会長をアリバイ作りの共犯にしたのは、逆効果だったようです。WHOのテドロス事務局長と同様、中国の金に丸め込まれたという評判がもっぱらだからです。

 共和党米議会下院の外交委員会で共和党の筆頭委員であるマイケル・マコール議員は、IOCとバッハ会長について「中国共産党による虐待に積極的に参加している」と強く批判しています。

 国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルも、ヒューマン・ライツ・ウオッチも、IOCに対して「中国政府のプロパガンダの役割を果たしている」と批判しています。誰もが彭帥氏とバッハ会長のテレビ電話会談は「茶番」であり、まったく信用していないということです。

 もしも彭帥氏の身の上が本当に安全だったとしても、中国は情報を隠蔽しすぎました。彭帥氏の微博を閉鎖し、外国メディアの報道を人民に伝われないようにシャットアウトし、本人には自由に語らせない。だから誰も信じないのです。そしてその不信感はウイグルや香港での人権弾圧にも及びます。

◆北京冬季オリンピックへ大きく影響する中国とIOCへの不信感

 中国とIOCへの不信感は、いずれ北京五輪の選手のボイコットまで発展する可能性もあります。あれだけ「多様性」が謳われた東京五輪の次が「人権弾圧」の北京五輪では、何のための五輪なのか、その意義すら失いかねません。参加するアスリートにとってもかえってイメージダウンでしょう。

 すでにカナダ紙「グローブ・アンド・メール」は、11月23日、米英が検討している外交ボイコットは派遣選手を人質に取られる危険があるとして、全面ボイコットすべきだという、カナダの元外交官の論評を伝えました。

 カナダはファーウェイの孟晩舟副会長を逮捕した際、中国にいるカナダ人が逮捕されるという「人質外交」を経験しているだけに、何をされるかわからないという危惧を抱いているのでしょう。

 北京冬季五輪およびパラリンピックの公式モットーは、「Together for a Shared Future(未来に向かって一緒に)」だそうです。中国語では「一起向未来」と書きます。

 しかし、人権弾圧と独裁政治が行われ、世界から警戒され嫌われている中国が「一緒に未来へ」などというスローガンを掲げるのは、まるで喜劇です。滑稽であると同時に哀れでもあります。金目当て以外で、現在の中国と未来を共にしたいという国は、同じ専制国家を除いて一つもないでしょう。

 一方、日本は「親中派」とされる林芳正外務大臣が、中国から訪中を打診されているとのこと。これは米英を中心とした外交ボイコットの動きや、民主主義サミットの輪を壊そうとするものであり、中国の求めに応じることは、海外に誤ったメッセージを送ることになりかねません。

 天安門事件による欧米の対中制裁を崩すことになったのも、1992年の天皇訪中でした。これにより欧米の制裁の輪が緩み、その後の中国の驚異的な成長と増長につながったのです。現在の中国の増長慢を招いた責任の一端は、日本にあるのです。同じ過ちを繰り返すべきではありません。過去の戦争を反省するより、こちらのほうがよほど世界に対して罪深いことなのです。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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