台湾と国交を持つ国々は19日からジュネーブで開かれるWHOの年次総会WHAに台湾
をオブザーバーとして招くよう提案、この案をWHAの議題とするよう求めている。
だが、四川大地震が起きて台湾の支援を受け入れた中国であっても、「陳水扁らは少
数の国家をたきつけて台湾に関わる提案をさせ、衛生問題を利用して台湾独立、(祖国)
分裂活動を進めようとしている。その狙いは成功しない」と述べ、健康という人の生命
に関わることに対しても「台湾は中国の一部」との政治的姿勢を崩そうとしない。
日本は平成14(2002)年5月14日、当時の福田康夫官房長官が台湾のWHOへのオブ
ザーバー参加支持を表明して以来、支持し続けている。だが、中国は頑なに拒み続ける。
昨日の産経新聞が台湾医界連盟基金会会長の呉樹民氏にインタビュー、その苦衷を伝え
ている。今年のWHO総会は明日19日に開幕する。 (編集部)
WHOと連携、台湾の切なる願い 医療改善に“中国の壁”
【5月17日 産経新聞】
何とか世界保健機関(WHO)に加盟したい。正式加盟が無理なら、せめて総会にオ
ブザーバーとして参加したい−。2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)で多数の
死者を出した台湾の医療・衛生関係者は、近隣地域での鳥インフルエンザの発生状況を
注視しながら、WHOとの連携を切実に願っている。台湾当局の招きで台湾を訪問、関
係者から話を聞いた。(台北 辻田堅次郎)
「台湾のWHO加盟を訴えるため(総会が開かれる)ジュネーブには11回行った。目
的を達成するためジュネーブには何度でも行く」。台湾医界連盟基金会の呉樹民会長=
写真=は台北市内の事務所で、加盟へ向けての熱い思いを語った。
しかし、そもそも、なぜ台湾はWHOに加盟できないのか。台湾は2300万の人口を抱
え、生活水準は先進国並み。医療分野では開発途上国に医療チームを派遣し、医療環境
の改善を進めるなど国際貢献も行っている。台湾の医療関係者は、台湾がWHOに加盟
すれば、もっと国際貢献ができると自信をもっている。
台湾がWHOに加盟できないのは、中国が反対しているためだ。なぜか。台湾が国連、
あるいは国連の専門機関であるWHOに加盟すれば、台湾が国際的に「国家」と認めら
れることになるからだ。中国は台湾を「中国の一部」と考え、台湾の独立を警戒してい
るだけに、台湾が「国家」と認められることは我慢できないのだろう。
しかし、だからといって台湾として、WHOに未加入のままでいることもできない。
WHOに加盟していないと、感染症などに関するさまざまな情報を素早く入手できない
からだ。これが対応の遅れにつながる。台湾がそれを痛感したのは2003年にSARSが
流行したときだ。
衛生問題の所轄官庁である行政院衛生署の陳再晋副署長(次官に相当)は「20人が死
んでからようやく、低いレベルの専門家が2人来た。しかし、台湾を助けたわけではな
く、視察しただけだった」と、WHOの姿勢を非難した。
1998年にエンテロウイルスが流行したときも台湾の医療・保健関係者は苦い思いを余
儀なくされた。呉樹民氏は「対応の遅れで、幼児80人が死亡した」と振り返った。
何とか加盟したいのだが、中国の反対でままならない。そこで台湾は李登輝総統時代
の1997年からWHOの年次総会へのオブザーバー参加を求めてきた。名義は「中華民国」
などを使い、中国を刺激する「台湾」は使わなかった。これを日本や米国は支持したが、
しかし中国はどうしても許容しようとしなかった。
台湾をWHOから締め出す代わりに、中国がWHOの情報を台湾に連絡することにな
っているが、台湾の関係者は一様に不信感をあらわにする。
感染症の研究などを進めている国家衛生研究院の幹部は中国の対応について「効率が
悪く、連絡にいつも時間がかかる。全く伝わってこない場合もある」と述べた。
こうした状況の下、台湾は昨年、ついに「台湾」名義で正式加盟を申請した。陳水扁
総統が今年3月の総統選をにらみ、台湾独立問題を総統選の争点とするための措置とみ
られた。中国がいっそう反発したのは言うまでもない。
20日に台湾総統に就任する馬英九氏は従来のオブザーバー参加方式に戻す意向を示し
ているが、今年のWHO総会はその前日の19日に開幕する。そのため、台湾当局は正式
加盟とオブザーバー参加の2方式を推進することになるが、中国の姿勢からみて、いず
れも“門前払い”されそうだ。