高い志と情熱注いだ姿─喜多由浩が読む『台湾を築いた明治の日本人』

 本会会長でもある渡辺利夫・拓殖大学学事顧問の新著『台湾を築いた明治の日本人』がよく読まれているようだ。それも、台湾をよく知っている人々からの評価が高い。

 産経新聞に「李登輝秘録」を連載していた論説委員で元台北支局長の河崎真澄(かわさき・ますみ)氏は、本書の最終章「英米は台湾統治をどうみたか」で取り上げた、日本の台湾統治が10年そこそこで驚くべき成果を挙げていることをレポートした1904年9月の英紙「タイムズ」と米紙「ニューヨーク・タイムズ」の記事に着目し、「日本の国家近代化の過程における歴史の断面として、記憶されるべき見解ではなかろうか」と指摘した(4月14日付産経新聞「一筆多論」)。

 また、4月1日から産経新聞に「台湾日本人物語 統治時代の真実」を連載(隔週水曜掲載)しはじめた文化部編集委員の喜多由浩(きた・よしひろ)氏が、台湾の教育という観点から日本統治の優れた一面を端的に示し、磯永吉や八田與一、児玉源太郎、後藤新平の事績を短いながら的確に紹介している。

 喜多氏は『韓国でも日本人は立派だった』や『「イムジン河」物語』などで知られるが、台湾関係者の中には、2011年4月から7月まで産経新聞に連載した「歴史に消えた唱歌」を思い出す人も少なくないのではないだろうか。

 この連載では、台湾、朝鮮、満洲で歌われていた唱歌を通じ、教育に真摯に取り組んだ日本人の姿を丁寧に紹介し、読むたびに、日本人として生まれたことを誇りに思う気持ちが湧き起こったことを思い出す。

 台湾編では、まだお元気だった台湾歌壇代表の蔡焜燦先生や東京台湾の会会長だった喜久四郎氏が登場し、当時、台湾協会理事長だった斎藤毅氏や嘉義の玉川公学校で教鞭を執った佐藤玉枝さんなどの湾生も数多く取り上げられ、台湾関係者の間ではかなりの評判だった。

 台湾で歌われていた唱歌を紹介するには、台湾の歴史を深く知らないと書けない。その点でも湾生からの評判は上々だったようだ。なぜ単行本化されなかったのか、今でも不思議に思うが、その喜多氏による書評だ。

 なお、本誌でもいずれ「台湾日本人物語 統治時代の真実」を紹介したい。

◆渡辺利夫著『台湾を築いた明治の日本人』お申し込み https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/uzypfmwvv2px

—————————————————————————————–文化部編集委員・喜多由浩が読む『台湾を築いた明治の日本人』渡辺利夫著高い志と情熱注いだ姿【産経新聞「書評」:2020年4月12日】

 大学進学率が5割を超え、大衆化が進んだ現在とは違い、帝国大学は9校しかなかった。東京、京都など内地に7校。京城(現韓国ソウル)、台北と外地に2校である。その帝国大学への“パスポート”を持ち、同世代の1%以下という超エリートが通う旧制高校は全部で35校(帝大予科は除く)。外地は、台北、旅順(日本の租借地・関東州)の2校のみだ。

 つまり、日本統治下にあった外地のうち、帝国大学と旧制高校の両方があったのは「台湾」しかない。しかも、台北帝大の創設(昭和3年)は内地の大阪、名古屋よりも早い。清国から「化外(けがい)の地」として事実上、放置されてきた台湾に、近代教育制度を整備し、台湾人にも高等教育が受けられる機会をつくったのは日本である。

 日清戦争の勝利(明治28年)によって日本が領有権を得た台湾は、近代日本が初めて経験する外地経営であった。明治維新から30年弱。その成否は、“遅れてきた”日本が、欧米列強と肩を並べてゆく上での「試金石」とみられた。本書には、高い志とほとばしる熱い情熱を注いで、台湾の近代化に尽くした日本人の姿が描かれている。

 約20年の時間を費やして高収量の「蓬莱(ほうらい)米」を開発した磯永吉(いそえいきち)は、台湾総督府農事試験場、中央研究所などを経て、台北帝大教授に就任。戦後も、中華民国政府に留用され、帰国を果たしたのは昭和32年、71歳になっていた。蓬莱米は後にさらに改良されてアジア全域に導入され、深刻な食糧不足に悩む地域に「緑の革命」を起こす。

 東洋一のダムを建設し、大規模灌漑(かんがい)施設によって、不毛の地を大穀倉地帯に変えた土木技師の八田與一(はったよ)いち)、軍政から民政への変革で、近代化の礎を築いた第4代総督の児玉源太郎と、実質的にその指揮を執った民政局長(後に長官)後藤新平…。彼らサムライたちの尽力によって、インフラが整備され、農業や商工業の振興が図られ、住民の暮らしを豊かに変えてゆく。

 最終章の「英米は台湾統治をどうみたか」が興味深い。英米の一流紙は、多くの困難を抱えていた台湾の統治を成功させた日本を絶賛した。台湾が原点となり、後の満州経営や朝鮮統治にも引き継がれてゆく。(産経新聞出版・1700円+税)

評・喜多由浩(文化部編集委員)

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