馬英九総統の抗日戦争勝利70年記念イベントは「レガシー(遺産)作り」

7月4日、台湾の馬英九政権は「抗日戦争勝利」70年を記念するとして異例というべき大規模な軍
事パレードを北部・新竹県の陸軍基地で行った。日本は窓口機関の沼田幹夫・交流協会台北事務所
代表の参加を見送り、同交流協会台北事務所主任で元航空自衛隊空将補の尾形誠氏が参加したとい
う。アメリカも窓口機関の代表参加を見送った。

 毎日新聞(7月4日付)はその模様を次のように伝える。

<パレードは約4年ぶり。良好な日台関係に一定の配慮を示し、総統府前での実施は見送られた。
国防部は現役の戦闘機に、大戦中に国民党軍などが撃墜した日本の航空機の数を日の丸で塗装し、
パレードで飛行させる予定だったが、「誤解を生むのを避けるため」などとして削除した。日本側
が日台関係への影響を懸念し、削除を求めていた。

 一方、台湾の一部立法委員(国会議員)から「抗日色が弱すぎる」との反発を招いたため、パ
レードの名称が当初の「国防戦力展示」から直前になって、抗日戦を意味する「抗戦勝利70周年記
念戦力展示」に変更されるなど、「抗日」を巡って対応が揺れた。>

 そもそも台湾で「抗日戦勝利70年」を記念して軍事パレードを行うべきだとの議論が浮上したの
は今年2月2日、立法院の外交・国防委員会に所属する林郁方立法委員が盧溝橋事件が起きた7月7日
に台北市内の総統府前でパレードを行うよう求めたのが発端だった。

 国防部は検討に入ったものの、予算編成時に費用を計上していないことや準備期間が短いことか
ら、実施については消極的だった。

 しかし、ここで次期総統選まで約半年となってレームダック化している馬英九総統が動いたよう
だ。これについて、読売新聞は「レガシー(遺産)作りに動いている」(日本外務省関係者)と示
唆している。その全文を下記に紹介したい。

 すでに本誌でも、台湾では抗日戦争勝利70周年に「勝利を祝う必要はあるのか」と異論を呈した
著名な政治評論家の鄭弘儀氏の発言や、馬総統の言動に「首をかしげる」と不快感を示す交流協会
幹部の見解などを紹介してきた。

 対日強硬派議員に引きずられる馬英九総統の迷走ぶりに、日台の心ある人々は鄭弘儀氏の見解に
賛同し、不快感を覚えているというのが実情ではないだろうか。


台湾総統、対日姿勢を硬化…中国は「共闘」演出
【読売新聞:2015年7月5日】

 【台北=向井ゆう子】台湾の国防部(国防省に相当)は4日、台湾北部の軍基地で「抗日戦争勝
利70年」を記念した軍事パレードを開催し、馬英九マーインジウ総統が「血と涙の歴史を忘れるこ
とはできない」と述べた。

 日中戦争の「戦勝国」の立場を強調する中国に対抗するのが狙いとみられるが、対日姿勢の硬化
を示すような動きは、台湾と歴史問題での「共闘」を演出したい中国を増長させることになりかね
ない。

 台湾での軍事パレードは4年ぶり。パレードには戦車や軍用車両294両、軍用機64機が参加。国民
党元兵士らも参列し、日中戦争で使用された戦闘機の復刻版も披露された。

 台湾は今年に入り、16項目に上る「抗日戦争勝利」関連のシンポジウムや展示会なども開催し、
対日姿勢を強めている。日中戦争の発端となった1937年の盧溝橋事件が起きた7日にもシンポジウ
ムが開かれ、馬氏があいさつする予定だ。日本関係者は、馬氏の最近の言動について、「歴史問題
で完全にカジを切った」と分析する。

 台湾は終戦まで日本統治下にあったが、国共内戦で敗れた国民党が1949年に台湾に移り実権を
握った。馬氏は戦後、中国から台湾に移った家庭の出身だ。次期総統選まで約半年となり、「レガ
シー(遺産)作りに動いている」(日本外務省関係者)とも見られている。

 馬氏は、かつて中国を支配した国民党の立場から日中戦争での国民党軍の役割を鮮明にするのが
目的で、中国とは一線を画す姿勢を強調する。だが、中国は馬氏の姿勢を利用し、国民党との「共
闘」演出に余念がない。9月3日に中国が行う軍事パレードには、国民党の元兵士らを招待。盧溝橋
の抗日戦争記念館展示では、国民党の実績にも焦点をあてようとしている。


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