【産経新聞「主張」:2021年10月20日】
第49回衆院選が公示された。
令和初の総選挙だ。半月前に就任した岸田文雄首相が率いる自民、公明の連立与党と、立憲民主党や共産党を軸とした野党共闘、それに日本維新の会などが絡む政権選択の政治決戦である。
有権者は、内外の荒波にもまれる日本丸の舵(かじ)取りを託するに足るリーダーと政党を、真剣に吟味して選ばなくてはならない。
新型コロナウイルス対策、経済・経済安全保障政策、外交安全保障政策、エネルギー・気候変動対策などは、どれも国の独立と繁栄、国民の命と暮らしに直結する。衆院選の論戦に関心を寄せ、貴重な一票を投じてほしい。
◆論戦から投票先選ぼう
そこで、まず問いたいのは防衛面からの安全保障政策である。国の安全保障を確かなものにしておかなければ、平和や経済・社会の繁栄はおぼつかないからだ。
北朝鮮は19日、日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。韓国軍は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定されると発表した。岸田首相は遊説日程を変更して帰京し、国家安全保障会議(NSC)を開いた。
北朝鮮は9月に、長距離巡航ミサイルや極超音速ミサイルなどを発射した。これらは迎撃が極めて難しい。前回衆院選のあった4年前は、北朝鮮が核実験や日本列島越えの弾道ミサイル発射を続け、国民は緊張の高まりを感じ取っていた。当時よりも北朝鮮の核・ミサイル戦力は増強されている。
安倍晋三元首相は在任中の昨年9月の談話で、「迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」と、敵基地攻撃能力保有の問題提起をした。ミサイル防衛網だけでは守り切れないのが現実である。
中国もミサイルの性能強化を図っている。英有力紙は中国が今年8月、極超音速ミサイルの試射に成功したと報じた。
岸田首相は19日、防衛力の抜本強化に向けて「(NSCで)敵基地攻撃能力保有も含め、あらゆる選択肢を検討するよう確認した」と述べた。自民党は公約で「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させる」と盛り込んだ。国内総生産(GDP)1%以内だった防衛費は「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」とした。
各党も、ミサイルの脅威から国民を守る有効な手立てや防衛費の水準を示してもらいたい。
危機感が急速に高まっているのが台湾情勢だ。中国共産党政権は、自由と民主主義を掲げる台湾をのみ込もうとしている。1日から5日間、中国軍機が延べ150機も台湾の防空識別圏に進入した。露骨な軍事的威嚇である。
台湾の国防部長(国防相に相当)は中台の軍事的緊張は過去40年で最も高まっており、2025年に中国軍の本格的な台湾侵攻が可能になるとの危機感を示した。今年3月には米上院公聴会で、米インド太平洋軍司令官が「6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と証言した。
◆野党4党合意は危うい
台湾は、沖縄の尖閣諸島や先島諸島の目と鼻の先にある。台湾有事が日本有事に直結するのは国際的常識だ。米軍が有事に台湾を守ったり、平時に抑止力を発揮したりするには、日本の全面的な協力が欠かせない。
日米やオーストラリア、英仏、インドなどの有志国が協力して対中抑止力を高めることが、台湾や尖閣を含む地域を守るのに有効だ。「台湾海峡の平和と安定」に向け、外交努力に加え防衛努力をどのように講じるか。具体策を論じない党に未来は託せない。
立民と共産、社民党、れいわ新選組の野党4党は市民団体と結んだ政策協定で、安倍内閣時に制定された安全保障関連法などの「違憲部分を廃止」すると合意している。集団的自衛権の限定行使の容認を廃止するつもりだろう。
集団的自衛権の限定行使で自衛隊と米軍が守り合う態勢が固まった。これは合憲である。それを廃止し、日本側が米側に「あなたたちを守るのをやめるが、われわれのことは守ってくれ」と伝えれば米国民や米軍将兵はどう思うだろう。日本と地域の平和を守る日米同盟は崩れかねない。立民、共産などの合意は「力の信奉者」の中国や北朝鮮を喜ばせ、日本国民を守らない危うい政策といえる。
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