*原題「台湾社会に混乱を引き起こす中国の工作活動、日本は大丈夫か」を「蔡政権が進める年金 改革を妨害する中台統一派」と改めたことをお断りします。
*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆中台統一派の政治団体「中華統一促進党」が攪乱・妨害工作
蔡政権が進めている年金改革案に反対する元軍人、元公務員、元教員たちは、蔡英文総統のあらゆる公務先に出没しては公務を妨害しているようです。
以前のメルマガでも紹介しましたが、2017年8月に台北で開催された国際的競技大会であるユニバーシアードの開幕式でも、年金改革反対派が騒ぎを起こし、台湾は「国際的な笑いもの」になったと行政院報道官は怒りを込めてコメントしていました。
今回も、立法院の前に反対派が押し寄せ、警官と衝突しただけでなく、取材中の記者たちの機材を奪い逃走しました。これはもうデモではありません。明らかな暴力行為です。年金改革案反対派の行為が、なぜここまで執拗にして暴力的なのでしょうか。もちろん、統一派の中国勢力が加担しているからです。以下、産経新聞の記事を一部引用しましょう。
<蔡政権が3月末、中国国民党政権下で手厚い待遇を受けてきた「軍公教(軍人、公務員、教員)」退職者の年金受給額削減法案を決定して以降、蔡氏の訪問先での抗議活動が激化。6月末には蔡氏の車列がデモ隊に取り囲まれ、靴やペットボトルが投げつけられた。総統府が毎夕発表する報道機関向けの翌日の総統日程が空白になる日も続いたが、抗議団体は先回りして妨害。警備の警察から抗議団体の退職警察官に情報が漏れている可能性が指摘されている。
一方、台湾紙、自由時報は「情報当局が抗議団体の背後に中国当局の介入があるとみている」と報じた。同紙は、年金制度改革に関する流言飛語が中国の無料通信アプリ「微信(WeChat)」や中国人が海外に設置したウェブサイトを通じて発信されており、抗議活動に中国当局との関係が疑われている中台統一派の政治団体「中華統一促進党」の所属員が動員されて人数不足を補っていると報道。総統府の林鶴明報道官は「論評しない」と否定しなかった。>
ここでも先週のメルマガでも出てきた「中華統一促進党」の登場です。この政党についても本メルマガで何度か紹介しましたが、総裁である張安楽は「白狼」という異名で知られ、台湾のマフィア「竹聯幇」の元幹部でした。
1985年、ヘロイン密売でアメリカで逮捕、10年間の服役後に台湾に戻ったものの、恐喝や有価証券偽造容疑で逮捕されそうになったことで1996年に中国へ逃亡。その間に中国共産党やチャイナマフィアとの深い繋がりをもったとされています。
そして2005年に中華統一促進党を結成し、同年、台湾に戻り、逮捕されたものの後に保釈されました。その後、「ひまわり学生運動」の阻止行動や民進党批判を展開し、過激な反日行動を繰り返してきました。八田與一の銅像の首を切り取ったのも、この党の一員が犯人でした。言うまでもなく、バリバリの統一派です。
蔡政権側も当然、背後に中華統一促進党がいることは承知していながらも、公には言及できないという事情もあるでしょう。しかし、『自由時報』は、中国勢力の介入の証拠を示して報道しています。
潤沢な資金を使って人員を動員し、社会秩序を乱して混乱させるのが目的です。今回の年金改革案についても、年金改革反対派を利用して台湾社会を混乱させ、蔡政権を揺さぶるのが彼らの最終的な目的ですから、彼らにとって年金改革案がどうなろうと全く関係ないわけです。しかし、本気で反対している人々は必死です。立法院の壁によじ登って転落し、重体となった人もいます。
◆年金改革は避けて通れない喫緊の課題
そもそもこの年金制度がいつまでも通用していること自体がおかしいのです。台湾も超高齢化社会に突入しており、日本同様に高齢化社会に向けたインフラ対策や制度整備が喫緊の課題です。それらを実現するには財源が必要です。台湾政府には、ムダにしていい財源など一円もないのです。
国民党から民進党へと政権が移行し、台湾社会が新しい時代へと踏み出している今、年金改革は避けては通れない問題です。蔡政権に課された大きな課題のひとつです。政府も真剣なら、反対派も真剣です。それまで必要以上に優遇されてきたとはいえ、それで生計をたててきた人々は、そのお金がもらえなくなったら生活に困る人もいるでしょう。だからこそ本気で反対するのです。政府も、それに対しては真摯に対応しています。
しかし、この真剣勝負の影で糸を引いている統一派勢力にとっては、年金制度の行方などどうでもいいことです。彼らの目的は台湾社会を混乱させることだけです。年金制度案の攻防を利用して台湾社会を混乱に陥れるためデモを誘い、暴力行為を誘導することだけが目的なのです。
彼らがいるせいで、問題の本質が見えにくくなってしまい、不必要な犠牲が出ます。こうした中国政府の息のかかった統一派の存在は、本当に目障りです。彼らが存在するのは台湾だけではありません。もちろん日本にも、世界各地に潜んでいます。彼らこそが反社会勢力であり、壊滅させられるべき存在なのです。
◆年金制度は国民党政権の負の遺産
政治改革、制度改革が難しいことは世界の歴史が証明しています。中国でも、秦の始皇帝が天下統一してから二千余年の間に成功した制度改革は、易姓革命ただひとつでした。逆を言えば、易姓革命以外はひとつも制度改革は成功しなかったということです。
また、王安石の改革も、清の戊戌維新の変法も失敗に終わった改革例です。それほど制度改革というのは難しいものなのです。ましてや台湾は、戦後70年ものあいだ、国民党政権が牛耳ってきており、その恩恵を受けてきた人々がたくさんいます。それを今になって改革し、それら恩恵をなしにしようとするのは本当に難しいことだと思います。
ではなぜ、台湾は今制度改革を行わなければならないのか。なぜなら、戦後の国民党政権は台湾の財産を食い尽くすのみで、生産的なことはなにもしなかったからです。自分たちさえよければいい。台湾人の財産を国民党の名のもとに接収し、私利私欲を肥やしてきた。それが戦後の国民党政治です。
李登輝時代にそれらの多くは改革されましたが、今でも残る戦後の国民党政権の負の遺産が年金制度なのです。
戦後、中国大陸から大挙して台湾に渡ってきた中国人たちは「シロアリ」と呼ばれていました。台湾人の財産を食い尽くすからです。そして、国民党政権の恩恵を受けてきた人々も「シロアリ」であり、今はそのシロアリの駆除をしなければ、台湾という家屋は倒壊してしまう可能性もあります。
現在の台湾では、大手企業の初任給が2万元前後だと言われているのに対して、軍公教の定年退職者は、月に5〜10万台湾元前後の年金をもらっているのです。
◆いかなる困難があっても実現しなければならない年金改革
台湾には中国政府の息のかかったヤクザがたくさんいます。そうしたヤクザはマスメディアや政権内などあらゆるところに点在しています。だからこそ、台湾政府も彼らの存在を無視できないのです。
こうした中国と裏でつながっているゴロツキたちが、国政や社会を混乱させる。台湾ではそうしたことが実際に起きているのです。この様子を見て、日本で中国による社会分断・混乱のための工作活動が行われていないとは、どうして言えるでしょうか。
中国の台湾に対する嫌がらせがなくなることはありません。台湾人はこうした運命を背負いながら、改革を進めなければならないのです。いかなる困難があっても年金改革案は通さなければなりません。