若者たちよ(2) 李登輝・台湾前総統

「第5回日台文化交流青少年スカラシップ」講演から

【4月16日 フジサンケイ ビジネスアイ】
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200804160040a.nwc

■日台で農業技術交流を 休閑地でサトウキビ量産

 日本の指導者、政治のリーダーたちはあまり将来を見通しておらず、肝っ玉が小さい。
経済は伸びたが指導力が弱い。日本でも社会の一部はカネや権力に左右されているが、
そんな問題から脱出するのは政治家の役割ではないか。小泉(純一郎)さんにもっと
(首相職を)やらせたらよかったんだ。根回しで決めるのではなく公選(直接投票)で
首相を選んだらどうか。

 日中関係ももっとはっきりさせればいい。(中国の胡錦濤国家主席が来月訪日する予
定だが)中国の指導者が日本に来たら、「何か中国がお困りのことはありませんか。何
か欲しいものはありませんか。助けて差し上げます」と、そういえばいいんだ。ただし、
「その代わり中国は見返りとして日本に何をしてくれますか。『反日』活動をすぐにや
めてくれますか」と付け加えなければいけない。

                  ◇

 最近、日本で「中国製ギョーザ中毒事件」が問題になった。だが台湾製ギョーザなら
「毒」はない。台湾はもっと日本に食品を供給すべきで、日本と農業(や食品)でもっ
と助け合ったらいい。台湾なら残留農薬の問題は起こらないよ。

 台湾で1個数百円のマンゴーが日本では1万円もするものがあると聞いた。台湾はマ
グロの水揚げ量も多く、日本より安くトロが食べられる。台湾のみかんも大量にできる
が、みかけの悪いものはジュースにして日本に輸出したらいい。

 日本人は「うまさ」が分かる。日本も台湾も世界貿易機関(WTO)の正式メンバー
どうし。(農水産品や食品を)交換しあえるよう(努力すべき)。日本の若い人が台湾
で大規模農業をするのもいい。ガソリンが高いのなら、台湾の休閑地で(バイオ燃料の
原料となる)サトウキビを量産したらどうか。ジャガイモやニンジンを作ってもいい。

 土地は動かないようにみえて生産プロセスを工夫すれば“動く”んだ。日本と台湾は
農業技術を交流する(余地がまだある)。

                  ◇

 経済政策ではこんなことも考える。(中国はなかなか人民元の大幅切り上げに応じな
いが)日本は1985年の「プラザ合意」でおとなしく円高をのんで、1ドル=240円前後か
ら1年で約120円になった。

 86年に台湾元も1ドル=60元前後から25元前後に上昇したことがあった。当時私は副
総統として、このままでは台湾は激しいインフレに襲われると考え、中央銀行に外貨集
中させないため市中銀行にも外貨口座を開けるよう制度を改めた。

 その結果、外貨を台湾元に両替せず、外貨のまま銀行に預けること可能になって、
(台湾元の大量流出を食い止めることで)インフレを防ぐことができた。

 一方、日本では円高の結果、(円建てでみれば安くなった)米国の資産をたくさん買
った。国内ではインフレになり地価も高騰して結局、バブル経済が崩壊してしまった。
その後の十数年にわたり日本経済が伸びなかった。米国でサブプライム(高金利型)住
宅ローン問題からドル安になっており注意が必要だろう。

                  ◇

■「権力を『私用』しない」 農業経済学者の姿

 国家や国民の経済基盤として農業の重要性を強く意識していた李登輝氏。自ら京都帝
国大に農業経済学の門を叩(たた)き、米コーネル大で農業経済博士号を取得。

 台湾に戻って農業経済の専門家として頭角を現したことが、当時の国民党政権から注
目されるきっかけになった。蒋経国元総統時代に副総統に就任、蒋氏死去で1988年1月
に総統昇格し、2000年5月まで12年間、総統を務めた。

 だが、李氏自身にそもそも政界への進出意欲や権力志向はなく、求められて政界に入
った後には、農業経済学者としてのベースを応用し、国家経営や民主化推進に誠心誠意
あたった。

 李氏はかねて、「権力は国のため人民のため必要なときだけ取り出して使えばよく、
使い終わったらしまえばいい」と発言。権力を決して「私用」しなかった希有(けう)
の政治家となった。

 京都学派の哲学を基本にして自己を確立した農業経済学者が、偶然にも“後天的に”
政治の仕事を任されたと解釈すれば、その発言は理解しやすいかもしれない。国家と国
民、農業と経済の行方がいまも気がかりなのは、政治家である前に、実践躬行(じっせ
んきゅうこう)をモットーとする農業経済学者が李登輝氏の真の姿だからだ。
                                 (河崎真澄)

写真:中国とはきっぱりと交渉するよう日本に求める李登輝・台湾前総統(長谷川周人
   撮影)



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