背筋が寒くなるような中国の台湾問題へのこだわり

【12月30日 産経新聞「産経抄」】

 「誤報」が政治をねじ曲げた例として昭和57年の教科書検定報道がある。「日本軍が
華北に侵略」という記述を「進出」に書き改めさせたと各マスコミが報じた。完全な誤
報だったが、これが独り歩きし日本の教科書への外国の介入を許すきっかけとなった。

▼中国を訪問している福田首相と温家宝首相の共同記者会見では「誤報」ならぬ「誤訳」
が危うく独り歩きするところだった。台湾が来年3月に「台湾名義での国連加盟」の是
非を問う住民投票を計画している。そのことへの対応をめぐってだった。

▼台湾の「独立宣言」につながることだから、中国は当然猛反対だ。首脳会談でも福田
首相に「反対」の表明を求めた。これに対し首相は「一方的な現状変更の試みは支持で
きない」という表現にとどめた。親中派といわれる首相にしては精いっぱいの抵抗だっ
たのだろう。

▼ところが記者会見で、温首相のこのくだりの発言を通訳は「福田首相は台湾独立に反
対する立場を順守、厳守していくことを表明した」と日本語に訳した。「反対」と「不
支持」は大きな違いだ。このまま「反対」が独り歩きすると良好な日台関係を損ねかね
ない。

▼あわてた首相が自らの発言の中で「訂正」し、ことなきを得たが、日本側としては「
油断もスキもない」といったところだろう。「誤訳」が意図的なものだったかどうかわ
からない。しかし、背筋が寒くなるような中国の台湾問題へのこだわりを見せつけられ
る気がした。

▼中国は今一見ニコヤカな顔で日本に対している。首相への歓待ぶりもそうだった。だ
が台湾問題やガス田で強硬な姿勢を崩そうとしない。この国とはまだまだ、神経をすり
減らすような付き合いが続くことを覚悟しなければならない。

*ご存じのように「産経抄」には見出しがありませんので、この見出しは編集部で付け
 たものです。



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