米国大統領選挙と台湾の実例  傳田 晴久

◆はじめに

 全世界が注目した米国大統領選挙は11月3日に投票が行われましたが、その結果は混とんとしており、まだ正式決着がついておらず、バイデン候補の勝利宣言、トランプ候補の不正選挙告発が続いています。

 そんな折、(11月初旬だったと思いますが)BSフジLIVEプライムニュースという番組で、橋下徹氏が興味ある話をされました。それは彼が日本の選挙(国政、住民投票など の)結果を信じ、49対51で負けた場合、直ちに、潔く敗北宣言をする理由の説明でした。それは開票結果の精度に関わる問題で、いろいろなことを考えさせてくれましたので、それを題材にして台湾通信を書かせていただきます。

◆橋下徹氏の話

 ウィキペディアによれば、「大阪維新の会が構想した大阪都構想については、2015年と2020年の2度にわたって住民投票が行われたが、いずれも反対多数で否決されたため、事実上、廃案となった」と説明されています。

 第1回目の住民投票では、反対票(70万5,585票)が賛成票(69万4,844票)を上回り、わずか0.8ポイントの僅差で否決、第2回目の結果は、前回と同様に僅差での否決に終わった。

 橋下氏は僅差での敗北を潔く認めた理由を次のように説明しました。政治家にとって、一票の重さは極めて大きいが、選挙の公正さ、正しさが裏にあるから直ちに敗北を認められるのであると。どのくらい公正で、正しいかの例として、投票所に配布された投票用紙の数と開票された投票用紙の数が完全に一致しているからといいます。もし、不一致であった場合は、責任者は平身低頭して謝罪せねばならないそうです。

◆仄聞する米国の実情

 ケント・ギルバート氏の動画やアンディチャン氏の「AC通信」、月刊誌などで語られるこのたびの米国大統領選挙の実情は、うわさ話や訴訟話も含めて我々には信じられないような話が飛び交っているようです。

 2020年の選挙投票者を特定する投票者名簿を、2016年の時の名簿をそのまま使用して、投票用紙を送付したとか、州ごとにルールがばらばらで、ある州の郵便投票は消印がなくとも有効とか、ある州の集計所では共和党系の監視員が排除されたとか、集計システムのソフトウエアに疑義が呈されたとか、このような話は枚挙にいとまがないそうです。

 中には与太話もあるらしいとのことですが、火のないところに煙は立たぬではありませんが、米国の選挙制度並びにその運用はかなり杜撰なものと思われても仕方ありますまい。

◆台湾での事例

 僅差で決着がついた大きな選挙が台湾でもありました。2004年3月20日に行われた総統選挙で、このとき、民進党の陳水扁・総統候補と呂秀蓮・副総統候補の現職コンビに対し、野党国民党は連戦・総統候補と親民党の宋楚瑜・副総統候補の野党連合コンビが争いましたが、ウィキペディアは「前者民進党コンビは台湾の独立(一辺一国)を志向する民進党+李登輝(民進党のイメージカラーである緑色から汎緑勢力と呼ばれる)と中華人民共和国との協調を志向する国民党+親民党(国民党のイメージカラーである藍色から汎藍勢力と呼ばれる)とによる一騎討ちの体をなしている」と解説しています。

 結果、得票数は、陳水扁・呂秀蓮組が647万1,970票(50.11%)、連戦・宋楚瑜組が644万2,452票(49.89%)となり、陳水扁候補が総統に、呂秀蓮候補が副総統に当選しましたが、その差はわずか2万9,518票(0.22ポイント)で、この選挙の無効票の数33万7,297票(2.5%)よりもはるかに少ないという大接戦でした。

 落選が確実となった連戦候補は「この選挙は無効」「前日に発生した陳水扁銃撃事件は自作自演だ」と訴え、支持者を巻き込んだ抗議デモを数日間続けました。これら連戦陣営の抗議を受けて、再選した陳水扁総統は、高等法院(日本でいう最高裁判所)による票の数え直しに応じたが、集計結果が出る前の5月20日には陳水扁総統の就任式が行われました。

 3月20日の即日開票の結果も、5月18日の再集計結果も、11月4日の高等法院の判決のいずれも、汎緑勢力の得票率は50.1%、汎藍勢力は49.9%でありました。

◆日本・台湾の特殊性(?)

 米国のうわさレベルですが、杜撰な制度とその運用に驚かされましたが、そのとき、日本の銀行の例を思い出しました。子供のころ、母親が話してくれましたが、日本の銀行は当時午後3時に店を閉めましたが、その後帳簿と現金の照合を行い、一銭一厘合うまで追及し、合うまで家に帰れないのだとのことでした。誰かが1円でも自腹を切って帳尻を合わせるようなことは絶対しないとのことで、銀行の信頼性を表す逸話となっていました。

 先日、日本の銀行に勤める友人に真偽をお聞きしましたら、現在はシステムがコンピュータ化されているので、照合はそれほど困難ではないが、「基本は変わっていません」とのことでした。同じことを台湾の友人に質問、彼も台湾の銀行に勤務されていますが、「基本は同じです」との回答でした。

 金融機関の店舗の数、選挙の投票所・集計所の数を、日台米にどのくらいあるのか調べてみようと思い立ちましたが、あまりにも多くとても数え切れず、断念いたしました。

 一私企業の末端の店舗での管理レベルをもって、国政の、民主政治の根幹をなす選挙制度と運用精度を推し量るのは如何かと思いますが、私には関係があるように思えてなりません。

◆開票の流れ

 日本の厳密な開票作業の実態を知りたく、インターネットでいろいろ調べましたら、「開票の流れ」と称した宮城県東松島市選挙管理委員会の資料を見ることが出来ました。頁の都合で、すべてを紹介することはできませんが、開票の手続きが明確に示され、随所にチエックや記録が指示されており、それを読む限り、不正やインチキが入り込む余地は、私には見出せませんでした。

◆台湾でのささやかな体験

 選挙制度は民主政治の根幹であると思います。台湾のある小さな団体の役員を選出する選挙を体験しました。会員数は100名前後ですが、会長と運営委員を投票で選ぶ決まりになっていました。事務局が作成した候補者名が列記された投票用紙が配られ、会員は、会長、運営委員にふさわしいと思う候補者名の上にハンコを押すように仕組まれていましたが、ハンコを押すのは手間だから、丸印をつけることに急遽変更、段ボール製の投票箱が用意され、投票しました。

 開票は、会場の正面に置かれた白板に候補者名が列挙されており、その前で投票用紙が一票一票取り出され、事務局員が丸印の付いた候補者名を読み上げ、その票を投票者全員が確認できるように掲げます。白板前の事務局員が読み上げられた候補者名の下に「正」の字を書いていきます。開票が終わると、票数と正の字の数が一致することを確認して開票は終了しました。

 せっかちな日本人である私には、このプロセスはまことにまだるっこく感じるのですが、基本は基本です。恐らく小学校の学級委員を決めるような選挙は同じようにやるのではないかと思います。

◆おわりに

 1946年に小学校に入学した私は、日本は米国から民主主義を教えていただいたと教えられたように思います。後に「大正デモクラシー」という言葉を知った時、おやっと思ったものですが・・・。

 民主主義国のチャンピオンである米国の大統領選挙の様子を見ていますと、民主主義を教えていただいた日本では、選挙制度と運用の精度の正確さに裏打ちされているので、たとえ一票の差でも負けは負けと潔く宣言できると、政治家が確信していることの素晴らしさを感じました。

 人口とか、国土の広さ、連邦制などの差異等があろうとは思いますが、民主主義の根幹をなす選挙制度については、我が国は誇りに思ってよいのではないでしょうか。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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