最近の米国では、行政府、議会、軍、研究者等、あらゆるレベルにおいて、中国政策は、従来の関与を軸とするものから、抑止を重視する強硬論へと潮流が向かっているように見える。昨年末の『国家安全保障戦略』、今年1月の『国防戦略』は、中国を修正主義勢力と呼び、戦略的競争相手と明言している。米軍は、南シナ海での航行の自由作戦の頻度を上げ、最近、インド太平洋を見据え、つまり中国への対応を強化することを明確にすべく、太平洋軍の名称をインド太平軍に改称した。
今回は議会の動きとして、米国のインド太平洋地域へのコミットメントを強化・拡大することを求める「アジア再保証イニシアチヴ法案(ARIA:Asia Reassurance Initiative Act)」を紹介する。同法案は、現在のところ上院で審議中である。
ARIAは、序論的な部分と、次の3編からなる。
(1)インド太平洋における米国の安全保障上の利益促進(2)インド太平洋における米国の経済的利益の促進(3)インド太平洋における米国の価値の促進
各部分はさらに全体で20項目に細分化されており分量が多いが、その中で繰り返し、南シナ海の係争地形への人工島建設とその軍事化をはじめとする、ルールに基づかない中国の行動への懸念が表明されている。執拗ともいえる取り上げ方は、歓迎とともにいささかの驚きすら覚える。米議会の対中強硬の雰囲気をよく表していると言える。
ARIAの第1編は、日本、韓国、豪州をはじめとする条約上の同盟国との防衛協力強化を求めるとともに、インドとの戦略的パートナーシップの強化、台湾へのコミットメントを求めている。台湾については、台湾関係法と「6つの保証」に基づく米政府のコミットメント、武器売却を求めるとともに、この3月に成立した「台湾旅行法」に沿って米高官の訪台を大統領が許可すべきである、と言っている。米議会は伝統的に一貫して親台湾であるが、ARIAもその伝統に沿った内容になっている。
第2編では、2国間・多国間の新たな貿易協定の交渉をやりやすくする権限を大統領に付与するとしている。さらに、インド太平洋地域へのLNGの輸出を呼びかけたり、米通商代表部(USTR)に対しASEANと交渉を行う権限を付与するなどしている。こうしたコミットメントは、トランプのTPP離脱という愚行の損失を、いささかなりとも補うものとなり得るかもしれない。
第3編では、人権の促進、民主的価値の尊重、法の支配や市民的自由への対応が謳われている。そのために、2019年から2023年の5年間で、1億5千万ドルを拠出するとしている。トランプ政権は、米国が支持してきた価値観を無視したり軽視したりしているきらいがあるが、ARIAの内容を見ると、議会は必ずしもそうではない。これは心強い点である。
そして、最も重要なことは、この法案の提出者が、共和党のコリー・ガードナー、マルコ・ルビオ、民主党のベン・カーディン、エド・マーキーと、超党派である点である。つまりARIAの内容は、米国のコンセンサスと言ってよい。米国のインド太平洋重視、対中強硬姿勢は揺るがないであろう。米中は対決の要素が多い関係になると思われる。
なお、米国の政策決定においては、議会が大きな役割を果たしている。この点に鑑み、日本としては米議会の動向をよく観察し、積極的に働きかけていく必要がある。それは、ここで取り上げたような安全保障政策だけに限ったことではない。