竹のカーテンを閉じ始めた中国、続々と逃げ出す外国企業  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年11月3日】  https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは編集部が付けたことをお断りします。

◆データ規制管理を強化する中国から撤退を決定したヤフー

 アメリカのヤフーが中国本土からの撤退を決定し、利用者へのコンテンツ提供を11月1日付けで停止したと発表しました。その理由として、中国におけるIT規制が厳しくなっていること挙げました。

 中国政府はこれまで、インターネット企業に対して、さまざまな規制をかけてきました。2017年には、インターネット安全法(サイバーセキュリティ法)を施行し、企業にデータの国内保管や、中国当局によるセキュリティー調査への同意を義務付けました。 これにより、中国国内で収集・作成したデータは中国国内に保存し、その内容について中国政府が求めれば提供しなくてはならなくなったわけです。

 さらに今年の9月には、データセキュリティ法(データ安全法)が施行され、中国の全企業に対し、扱うデータを複数のカテゴリーに分類し、保存や移転の方法について規定しました。とくに、国家の中核データや重要データにカテゴライズされたデータについて、違反があれば最大1000万元の罰金や刑事責任を問われることになるとされています。

 しかも、その定義があいまいで、恣意的な運用がなされる危険性が危惧されていました。中国当局がデータ収集行為を「中国の国家安全を損ねる」と判断した場合には、国外での行為についても法的責任を追求するとしており、中国に進出していない企業でも、その制裁対象になる可能性があります。

 そして11月1日には「個人情報保護法」が施行されました。中国で収集した個人情報について、中国国内での保存を義務付けるとともに、国外に持ち出す際には当局による審査を必要とするものです。

 こうした規制が相次いで施行されたことから、ヤフーは撤退を決めたわけです。10月にはマイクロソフトのビジネス向けSNSのリンクトインも、中国でのサービスを打ち切っています。

 こうした中国で知り得た情報を国外に持ち出さないという規定は、報道機関についても適応されていくでしょう。中国で知り得たウイグル人弾圧の情報、中国共産党幹部のスキャンダルなどの記事をメールで配信すれば、これらの法律で罰せられる可能性もあるわけです。

 先日のメルマガでも書きましたが、現在の中国では「文化大革命2.0」とも言うべき、言論や教育、経済活動への統制強化が行われています。習近平政権への批判封殺、反対分子の弾圧により権力集中を進め、独裁体制をさらに強めようとしているわけです。 もちろん、データの規制管理の強化も、その一環です。

◆再び竹のカーテンをつくろうとしている中国

 かつて毛沢東の文化大革命の時代にも、徹底的な社会の統制がおこなわれました。言論や情報統制は言うまでもなく、それに違反した者たちは吊るし上げられ、処刑されました。もちろん海外への情報流出は死刑に値する大罪でした。当時の中国は「竹のカーテン」と呼ばれる、情報鎖国状態だったのです。

 この頃、1968年に日中記者交換協定が修正され、中国敵視政策を取らない、「2つの中国」をつくるインオブに参加しない、日中関係回復を妨げないという3つの項目厳守が決められたのです。これに反したと目されたメディアは、中国に支局を置くことを禁じられ、追放されました。

 そのため、朝日新聞などの左派メディアは文化大革命を礼賛し、日本国内での学生運動や新左翼の運動に影響を及ぼしたわけです。

 現在の習近平政権もすでに海外メディアに対する報道規制を強めています。中国外国人記者クラブは11月2日、北京冬季五輪に関する外国人記者の取材活動が中国の組織委員会によって妨げられているという批判声明を公表しました。

 声明では、五輪関連の記者会見は国内メディアのみに認められ、外国メディアには認められていないとし、中国側のこうした行動はIOC憲章の規定違反であり、北京五輪関連において報道の自由を確保するという中国自身の公約に反していると非難しました。

 中国が再び竹のカーテンをつくろうとしていることは明らかです。さすがに毛沢東の文革時代のように、あからさまに現在の中国を礼賛するメディアはほとんどいないと思います。しかし、政界や経済界、そしてマスコミにもまだまだ媚中派は多く存在します。

 中国側が情報を統制し遮断しようとしているのに、なぜまだ「中国市場は大事」「中国との関係改善を急げ」などと言えるのか不思議です。

◆竹のカーテンを強化する中国の民事訴訟法231条の役割

 中国から外国企業が撤退し始めている背景には、儲からなくなっているという事情もあるでしょう。アメリカの大手スーパーのウォルマートは、2016年に中国のネット通販事業から撤退しました。2019年9月には、アマゾンが中国向けネット通販事業を撤退しました。

 いずれも、中国のネット通販最大手であるアリババ集団や京東集団などに対抗できなかったことが理由だとされています。

 中国は改革開放以後、外資を招き入れる一方で、外国の独資を認めず、中国企業との合弁を義務化してきました。その結果、外資の技術が盗まれ、現在では中国企業が国内で伸長し、外国企業の出る幕がなくなりつつあるわけです。

 これは、早くから中国に進出した台湾企業の二の舞でもあります。台湾企業も中国で技術や資金を根こそぎ奪われ、ほうほうの体で台湾に戻る経営者が少なくありません。

 そして習近平政権は、そうやって肥えた中国の民間企業を国有企業化しようとしています。アリババやテンセントへの介入はその証です。

 今後、中国はますます竹のカーテンを強化してきます。一方で、中国には悪名高い中国民事訴訟法231条という、外国企業を簡単には撤退させないための法律があります。これは賃金問題などで民事訴訟を抱えた外国企業の経営者などが出国することを禁じる法律です。

 こうした法律により、中国から逃げ遅れれば、竹のカーテンの中で外国企業は孤立し、あとは中国にすべてを奪われるだけとなります。しかも、そんな実態も、日本や世界では報じられなくなる可能性があるのです。中国で知り得たデータや情報は、海外に持ち出せなくなるのですから。

◆日本やオーストラリアが1月1日発効のRCEPに参加した理由

 中国経済の停滞が現実味を帯びている今、中国としては中国にいる外資を生け捕りにして、その資産を食いつぶそうとしてくる可能性が高いといえます。それは戦後、満州に日本が残してきた資産を食いつぶしたことと似ています。そうならないためにも、中国からの撤退・逃避は、外国企業にとって喫緊の課題なのです。

 そんななか、来年1月1日からRCEP(地域的な包括的経済連携)が発効することが発表されました。日本や中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国など15カ国が参加する巨大貿易圏です。

 RCEPはもともと中国が主導して進めてきたものです。中国が、一方で国内の統制や外国企業にとって不利な、鎖国的な政策を行いながら、一方で、自由貿易を維持しようという姿勢を見せているのは、現在の中国が史上最大の通商国化しているからです。

 エネルギーや食料も対外依存になっているため、RCEPを自分たちに都合よく利用して、いいとこ取りしようと狙っているのです。極めて自分勝手なやり口です。

 自分のルールを押し付けて、他国から富を吸い上げようとしているわけですが、日本やオーストラリアが参加したのは、中国の思い通りにさせない意味もあるでしょう。

しかも、日本やオーストラリアはTPPにも参加しています。

 中国が自分勝手なやり方で他国を脅したり、不透明で横暴なやり方を押し付けてきた場合には、中国以外のRCEPのメンバーを引き連れてTPPに軸足を移す、といったこともありうるのではないかと思います。日豪がRCEPに入ったのは、独裁化、覇権主義化する中国を牽制し、距離を取るための布石でもあるのだと思います。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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