なお、産経新聞も共同記事を掲載しているが、下記に紹介する記事の次に、同行した台北市のニューメディアでディレクターをつとめる鄭安如さんの発言として「台湾では福島の状況はひどいと報じられていたので意外だった。放射性物質は泥にたまり、魚はあまり関係ないと初めて知った」という感想を紹介している。
台湾ではいまだに「福島の状況はひどい」と報じられ、日本がこのように厳格な放射性物質の汚染検査を実施していることが報じられていないようだ。
実は、台湾でも2018年10月から12月までの間に放射性物質検査を行っている。これは福島県産の魚に限らず、輸入を禁止している福島県、群馬県、栃木県、茨城県、千葉県の5県で採取した食品(乾燥きのこ類、いわし、ドライフルーツ、米、牛乳、小麦粉等、茶、貝類、野菜、アイスクリーム)合計301サンプルについての放射性物質検査だ。
この検査は、衛生福利部食品薬物管理署が国立台湾大学に委託して実施したもので、本年8月1日に公表され、なんと「全てのサンプルが台湾の放射性物質基準値をクリアしている」という結果だったという。
また、この検査結果の報告書では「台湾住民が毎日摂取する食品の10%が上記5県産食品と仮定しても、1年間の追加線量は0.009〜0.015mSvにすぎず、国際放射線防護委員会(ICPR)が勧告する年間追加被ばく線量1mSv以下という基準値よりはるかに低い」と指摘しているそうだ。
さらに、衛生福利部食品薬物管理署は慈済大学、台湾大学病院及び台湾大学公共衛生学院に委託し、2015年1月から2017年6月までに放射性物質検査を受けた日本産食品約55万件のデータを検証する調査も実施したという。
では、本年8月1日に公表されたその結果はというと「台湾が全ての日本食品に対する輸入規制を撤廃したとしても、台湾住民(97.5%)が1年間日本産食品を摂取することによって受ける追加線量は0.001〜0.0001mSvにすぎず、これによって生じうる健康リスクは10,000,000分の1以下との評価」を得たという。
◆衛生福利部食品薬物管理署:107年度「日本食品取樣檢驗與調査研究」【2019年8月1日】 https://www.fda.gov.tw/tc/includes/GetFile.ashx?id=f637002676716357955
◆衛生福利部食品薬物管理署:106年度「受核事故影響食品之人體健康風險評估」【2019年8月1日】 https://www.fda.gov.tw/tc/includes/GetFile.ashx?id=f637002676197832888
日本台湾交流協会台北事務所は、この衛生福利部食品薬物管理署による2つの調査結果とともに、これまでの日本食品を巡る資料をホームページで公開している。(8月29日「日本産食品」https://www.koryu.or.jp/publications/foodsafety/)
1)「官房長官の定例記者会見について(台湾の日本産食品に対する輸入規制強化について)」2)「日本産食品の安全性に関する説明資料の公表について」3)「日本産食品の通関に当たっての台湾側の対応について」4)「衛生福利部による日本産食品に関する規制強化案に対する意見提出について」5)「食品中の放射性物質の最近の検出状況」
つまり、台湾政府が東日本大震災直後の2011年3月26日から、福島県、群馬県、栃木県、茨城県、千葉県の5県産品のすべてを輸入禁止し、今も続けている措置はまったく意味がないことを、台湾政府自身が証明したことになる。
確かに、昨年11月24日の公民投票では、中国国民党から提案の「日本の福島県をはじめとする東日本大震災の放射能汚染地域、つまり福島県及びその周辺4県(茨城県、栃木県、群馬県、千葉県)からの農産品や食品の輸入禁止を続けることに同意するか否か」案は、賛成:779万1856票、反対:223万1425票と圧倒的な賛成をもって成立した。
しかし、住民の意向と科学的根拠は必ずしも一致するとは限らず、住民の意向がどうあれ、台湾政府は衛生福利部食品薬物管理署の調査結果、および台湾原子力学会長の李敏・清華大特別招聘教授ら調査関係者や謝長廷・台北駐日経済文化代表処代表らの見解を汲み上げ、改めて道理に基づく判断をすべきであろう。
国内法に優先する事態を、蔡英文政権自らが証明したのだ。政権発足後、行政判断が及ばなかった責めは受けなければなるまい。悔い改めるに遅すぎることはない。
—————————————————————————————–福島産魚類の汚染検査を視察 台湾の原子力学会長ら【共同通信:2019年9月3日】
https://this.kiji.is/541505124847813729?c=427849843378390113写真:福島県沖で取れた魚の放射性物質の汚染検査を視察する台湾原子力学会の李敏会長(右端) ら=3日午前、福島県いわき市
台湾原子力学会長の李敏・清華大特別招聘教授(64)らは3日、福島県いわき市を訪れ、同県沖で取れた魚の放射性物質による汚染の有無を調べる検査を視察した。台湾は2011年の東京電力福島第1原発事故後、福島など5県の日本産食品の輸入規制を続けており、李会長は「検査のデータを見る限り、魚の放射性物質は検出限界値未満で、輸入規制は正しくない」と述べた。
李会長と日本の大学で学ぶ台湾出身の学生らは、いわき市の水族館アクアマリンふくしまで、スタッフが8月30日に第1原発沖約10キロで取った魚の検査を見学。体長82センチのヒラメは、放射性セシウムは検出限界値未満だった。