王育徳紀念館が9月9日に台南市内に開館 李登輝元総統からのメッセージも掲示

台湾の独立運動は日本が発祥の地で、創始者は台湾の言語学者で明治大学教授などを歴任した故王育徳博士(1924年1月30日〜1985年9月9日)だった。

 台南一中時代の教え子だった故黄昭堂氏たちと1960年に「台湾青年社」を設立、独立運動のバイブルとされた「台湾青年」を発行し、許世楷(元台北駐日経済文化代表処代表)、故周英明(東京理科大教授)、金美齢(評論家)、宗像隆幸(アジア安保フォーラム代表幹事)、黄文雄(文明史家)、連根藤(「台生報」編集・発行人)など多くの有為の人材が育っている。1964年に命を賭して著した『台湾─その苦悶する歴史』は、半世紀もの間、台湾の歴史を学ぶ者のバイブルとして読み継がれている。

 現在、行政院院長をつとめる頼清徳氏が台南市長時代、同じく台南出身の王育徳博士の記念館を建てることを発意し、来る9月9日、歿後33年目のご命日に開館するという。

 王育徳博士令夫人の王雪梅さんと、次女の王明理・台湾独立建国聯盟日本本部委員長はこの記念館設立のため、ご自宅にあった愛用の机や当時の写真など遺品のほとんどを提供しているという。

 下記に、台湾独立建国聯盟日本本部のホームページに掲載された「『王育徳紀念館』開館の御案内」をご紹介したい。

 なお、台湾が戒厳令下の真っただ中、共産党員や独立運動家と疑われただけで投獄の憂き目にあった白色テロ時代の1961年6月、なんと来日した李登輝元総統(台湾大学助教授)は台北高等学校で1年先輩の王育徳博士を密かに訪ねて懇談していた。王博士はすでに「台湾青年社」を始めていて、李元総統はまさに独立運動の本拠地に運動の創始者を秘密裡に訪ねたのだった。

 王博士はその日記に「実に気持ちのいい人で、こんな素晴らしい台湾人に会ったのは日本に来て以来初めてだ。将来の独立に希望がもてる」「彼のような快男児が台湾に百人おれば理想郷の建設は夢物語じゃない」と記している(王育徳著、近藤明理編集『昭和を生きた「台湾青年」』)。まさに肝胆相照らす仲となって、台湾の将来について腹を割って話されたようだ。

 数年前、王雪梅令夫人と王明理さん親子が李元総統を表敬訪問したおり、日本で王博士に会ったことをよく覚えていると話されたそうだ。

 このようなご縁で、李元総統は「王育徳紀念館」の開館を祝して懇篤なメッセージを寄せられ、それは紀念館の玄関を入ったところに掲示されるそうだ。

 メッセージは、王博士の実兄で、台湾人として初めて検察官となるも、2・28事件で犠牲となった王育霖氏のことにも触れ、台湾人の幸せを願い、その為に最善を尽くすことが自分たちの共通の理念だった旨が記されているという。李元総統の面目躍如たるメッセージのようだ。紀念館を訪れた方は、ぜひこのメッセージもご覧いただきたい。

————————————————————————————-「王育徳紀念館」開館の御案内【台湾独立建国聯盟日本本部ホームページ:2018年8月11日】

 2年前に着工された「王育徳紀念館」が2018年9月9日開館の運びとなる。

 場所は市内の台南公会堂のある呉園という名園の中である。台南市文化局の英断で、池の畔の建造物がこれにあてられた。

 この場所は王育徳の生家から歩いて数分の位置にある。開館式は10時50分から、呉園の中の野外劇場で行われ、市長時代に王育徳紀念館の設立を決めた頼清徳行政院長が来賓として出席する予定である。開館式に先立って、10時半より生家のあった場所で「故居」のプレートの除幕式が行われる。

 紀念館の内部は、5部屋に分けられていて、生い立ちや人生、業績などを展示する第一室に続き、第二室・台湾語研究、第三室・台湾独立運動、第四室・台湾人元日本兵士の補償請求運動、第五室・東京の書斎の復元という設計である。

 展示説明は全て、中国語と日本語が併記されているが、第二室だけは王育徳の遺志を尊重して台湾語表記を併用している。紀念館の内容は、単なる個人の記録にとどまらず、戦前・戦後を通しての日本と台湾の関係性も表わすものとなっている。

◆王育徳の紹介

 王育徳が生まれたのは1924年、日本統治下の台湾であった。少年時代から、兄王育霖と「将来は台湾の為に役に立つ人間になろう」と誓い合い、共に東京帝国大学に進学したが、終戦後、中国国民党の占領により、多くの台湾人同様に思いがけない悲運に見舞われた。

 検事であった育霖は228事件の犠牲者となり、命の危険の迫った育徳は1949年、25歳で日本へ亡命。日本で自由を得た育徳は、愛する故郷の為に、でき得る限りのことをするという責任を自らに課し、一生を台湾の為に捧げたのである。それは台湾語の研究、台湾独立運動、台湾文学の研究、台湾人元日本兵士の補償請求運動など、多岐にわたるものであった。

 1960年に黄昭堂氏らと立ち上げた「台湾青年社」は日本における台湾独立運動の拠点となり、やがて、世界的な組織となる台湾独立建国聯盟へと発展し、今日に至る。

 王育徳は台湾の人々が幸せに民主的に暮らせる社会の実現を願っていたが、それ故に、国民党政府のブラックリストに名を連ねることになり、一度も帰国できぬまま1985年、亡命先の日本で亡くなった。享年61であった。そして、この度、亡くなって33年目の命日に、晴れて故郷への帰国を果たすこととなったのである。

◆王育徳紀念館

 開館日:毎週 水・木・金・土・日 休館日:毎週月曜と火曜 及び 年末 時 間:9:00 am〜5:00 pm 入場料:無料


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