値)は前年同期比2.06%増となり、日本経済新聞が「台湾経済の復調鮮明」との見出しをつけて伝
えていることを紹介した。
現在の台湾にとって、経済の中国依存からの脱出が最大の目標だ。蔡英文総統は総統就任演説に
おいて「新政権が必ず取り組んでいかなければならない最大かつきわめて困難な使命」と位置づけ
たのが、高い中国依存度を是正する「経済構造の転換」だった。
そこで掲げたのが、ASEAN(東南アジア諸国連合)やインドとの多元的な関係を深めていく
ための「新南向政策」だ。それが少しずつ奏功し、蔡英文政権に「追い風」となる景気の復調傾向
が現れはじめた。
ところが、某テレビ局の配信するネット記事の「NEWS24」では、まったく逆に「台湾が『中国と
の関係が悪化していて、その影響は経済にも出ている』と指摘」したそうで、これに猛然と噛みつ
いたのが拓殖大学海外事情研究所教授で日本戦略研究フォーラム政策提言委員の澁谷司(しぶや・
つかさ)氏だ。
澁谷氏は、台湾行政院が10月28日に発表した「国情統計通報」(第202号)をつぶさに紹介して
その誤りを正し、「NEWS24」が台湾経済が悪化していると放送したのは「多分台湾の一部旅行業界
(中国から台湾へ観光客がやって来ないので不景気)だけしか見ていなかったからに違いない」と
も指摘。そこで「観光が日本経済の基幹産業とは言えない」ように「台湾もあまり変わらない」と
して「2014年でGDPの4.65%」という数字をあげて畳みかけている。
ちなみに、某テレビ局とは日本テレビ放送網(日テレ)のことで、「NEWS24」の正式名称は「日
テレNEWS24(にっテレニュースにじゅうよん)」というニュース専門チャンネル。
メディアの影響力は小さくない。「日テレNEWS24」は澁谷氏の指摘と苦言を受け入れ、事実報道
を心がけてもらいたいものだ。澁谷氏の略歴とともに「某テレビ局の台湾経済記事の誤り」全文を
下記にご紹介したい。
◇ ◇ ◇
澁谷 司(しぶや・つかさ)
昭和28年(1953年)、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修
了。関東学院大学や亜細亜大学などで非常勤講師を歴任。2004〜05年、台湾の明道管理学院(現、
明道大学)で教鞭をとる。2011〜2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現
在、同大学海外事情研究所教授。日本戦略研究フォーラム政策提言委員。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』
『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』など。
某テレビ局の台湾経済記事の誤り 澁谷 司
【日本戦略研究フォーラム「澁谷司のチャイナ・ウォッチ」:2016年10月31日】
http://www.jfss.gr.jp/index.php/home/index/article/id/228
我が国の某テレビ局は、NEWS24として、ネットで記事を配信している。
最近、気になる記事があったので紹介したい。それは、2016年10月28日(15:39)の「“中国関
係悪化”経済にも影響 台湾のいま」である。
その中で、台湾が「中国との関係が悪化していて、その影響は経済にも出ている」と指摘してい
る。
しかし、実態は、全く逆である。台湾行政院が今年(2016年)10月28日に発表した「国情統計通
報」(第202号)を見れば一目瞭然だろう(中国のGDP等の数字と違って、台湾のそれらは信頼に足
る)。
我々がたびたび主張しているように、「中台統一派」の馬英九前政権が「中国一辺倒」政策を
採ったため、中国経済の低迷に伴い、台湾経済が悪化した。
台湾の対中輸出依存度は、総額にして輸出全体の26%(世界第2位)、GDPに占める割合が16%
(世界第1位)と非常に高い(米『Forbs』誌<2015年11月26日>)。
だから、中国の景気が停滞する中、台湾が中国から離れれば離れるほど、その経済は良くなるは
ずである。
「国情統計通報」(以下、「統計」)によれば、台湾のGDPは、昨2015年第1四半期、4.04%成長
だったが、第2四半期は0.57%へと急落した。更に、同年第3四半期は‐0.80%、翌第4四半期は‐
0.89%とマイナス成長となった。今年第1四半期も‐0.29%だったので、3季連続のマイナスであ
る。
ところが、今年1月16日、民進党がW選挙(総統選と立法委員選)を制し、ようやく台湾経済に
明るさが戻ってきた。
そして、今年の第2四半期のGDPは0.70%と久々にプラスに転じた。5月20日、蔡英文政権が誕生
後、第3四半期は2.06%へと上昇している。
おそらく、蔡総統が馬政権の「中国一辺倒政策」を捨て、リスク分散型の「新南向政策」(日米
はもとより、東南アジア・南アジアとも経済関係強化を目指す)を採用したためではないか。
実は、「統計」には、(物価変動を除く)輸出成長率も記されている。
それを見ると、昨(2015)年第1四半期は3.4%の伸びだった。だが、同年第2四半期は‐2.7%、
第3四半期は‐3.6%、同第4四半期は‐4.2%、今年第1四半期は‐4.4%と4季連続のマイナスと落
ち込んだ。
けれども、蔡総統が登場して以来、第2四半期は0.7%、第3四半期は3.3%と再び成長を始めてい
る。
同様に、「統計」には、工業生産指数の成長率も記載されている。昨(2015)年第1四半期は
5.4%の伸びだった。しかし、同年第2四半期は、‐1.2%、第3四半期は‐4.7%、第4四半期は‐
5.7%と右肩下がりとなっている。
今年に入っても、第1四半期は‐4.4%、第2四半期も‐0.2%と振るわなかった。しかし、第3四
半期は4.1%となり、明らかに景気の回復兆候が見られる。
つまり、GDP・輸出成長率・工業生産指数という主要な指標は、全て台湾の景気が良くなってい
るという実態を示している。
さて、なぜ某テレビ局NEWS24は、現実と反対の記事を配信したのか。多分台湾の一部旅行業界
(中国から台湾へ観光客がやって来ないので不景気)だけしか見ていなかったからに違いない。
例えば、我が国に中国人観光客が来ないからと言って、果たして日本経済全体が落ち込むだろう
か。一部の観光業と中国人の「爆買い」を期待していた業界以外、中国人旅行客が来なくても、殆
ど影響はない。
現時点で、我が国では、まだ観光が日本経済の基幹産業とは言えないだろう(GDPの2.3%)。ま
た、日本の観光産業が必ずしも中国人観光客だけに依存しているわけでもない。
その点は、台湾もあまり変わらない(2014年でGDPの4.65%)。中国以外の国の観光客が台湾を
旅行すれば、その埋め合せが可能ではないか。
ついでに、もう一つ指摘しておきたい。某テレビ局NEWS24は「最新の調査では(蔡総統の―引用
者)支持率が下がり始めている」と言う。某局が、どの世論調査を見たのか不明だが、ここでは、
以下の世論調査結果を示しておこう。
今年10月23日、シンクタンクの「台湾世代智庫」が蔡英文政権などに対する世論調査の結果を発
表した(『フォーカス台湾』「蔡英文総統への満足度50.6% 前回調査よりも上昇/台湾」【政
治】2016/10/24 17:31)。
「それによると蔡総統への満足度(広義の支持率―引用者)は50.6%となり、先月行われた前回
調査よりも1.6ポイント上昇している」という。
某テレビ局NEWS24が、台湾の事情をよく知らずにこのような記事を配信したならば仕方ない(で
きれば、もっと正確を期して欲しい)。だが、“故意に”誤った記事を流しているとすれば、大問
題である。