第1回は「『蓬莱米』への道─磯永吉の粒粒辛苦」と題し、今でも台湾では「蓬莱米の父」として尊敬されている農学者の磯永吉(いそ・えいきち)を取り上げ、台湾で「蓬莱米の母」と慕われている末永仁(すえなが・めぐむ)とともに気の遠くなるような品種改良の末に蓬莱米を作り上げるまでを16ページにわたって描き、読み応え十分の作品です。
通常の連載には珍しく「なぜ私が『小説・台湾』を書くのか」と題し、この小説の意図を自ら解説しています。この小説では、台湾に生きた明治日本人の精神史を発掘し、台湾とは近代日本にとっていかなる存在であったのかをも描くそうで、なんとも気宇壮大な物語の登場です。
10年ほど前、NHKは台湾を通じて日本近代を描くドキュメンタリー番組を放映したことがありました。しかし、日本が一方的に台湾人を弾圧したとするような史観で番組を制作したことからごうごうたる非難を浴び、最高裁まで闘うほどの裁判沙汰になったことを思い出しますが、ここにきてようやくまともな観点から台湾を通じた日本近代史に接することができそうです。
台湾関係者はもちろんのこと、台湾の重要性を知る人々にとっても必読の読み物と言えそうです。連載終了後は単行本として出版されるそうで、これもまた楽しみです。
◆月刊「正論」1月号(12月1日発売 定価:840円) http://seiron-sankei.com/recent
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渡辺利夫[わたなべ・としお]
昭和14年(1939年)6月、山梨県甲府市生まれ。同45年、慶應義塾大学経済学部を経て同大学院博士課程満期取得。経済学博士(同55年)。その後、筑波大学教授、東京工業大学教授、拓殖大学教授を歴任して同大学長、総長に就任。同27年12月、同大総長を退任し学事顧問に就任。同28年3月、日本李登輝友の会会長に就任。同30年4月、一般社団法人日米台関係研究所理事長に就任。公益財団法人山梨総合研究所理事長、国家基本問題研究所理事、公益財団法人オイスカ会長。第27回正論大賞受賞。
主な著書に『成長のアジア停滞のアジア』(吉野作造賞)『開発経済学』(大平正芳記念賞)『西太平洋の時代』(アジア・太平洋賞大賞)『神経症の時代─わが内なる森田正馬』(開高健賞正賞)『新脱亜論』『アジアを救った近代日本史講義』『国家覚醒―身捨つるほどの祖国はありや』『放哉と山頭火─死を生きる』『士魂 福澤諭吉の真実』『決定版・脱亜論─今こそ明治維新のリアリズムに学べ』『死生観の時代─超高齢化社会をどう生きるか』など多数。月刊「正論」の平成31年1月号から「小説台湾─明治日本人の群像」を連載。