海底ケーブル切断は「中国の認知戦」と織田邦男氏(元空将)が指摘

本誌1月8日号で、1月3日午前、台湾・基隆港外の海底に敷設されている中華電信の国際海底通信ケーブルが損傷していることが判明し、台湾海巡署が「単純な事故ではなく、中国による台湾への『グレーゾーン』作戦の強化に伴う行動である可能性」を指摘したことを伝えた。

中国政府の報道官は「海底ケーブルの損傷は世界で毎年100件余り起きていてよくある海の事故だ」(1月8日、国務院台湾事務弁公室・陳斌華報道官)と主張し、単なる事故であり、意図的ではないとのコメントを発表した。

一方、米ペンシルベニア大学の主任研究員のベンジャミン・L・シュミット氏は「この貨物船は故意に海底ケーブルを破損させたのではないかと疑うのが妥当」(台湾国際放送)と指摘し、台湾の大陸委員会の梁文傑・副主任委員兼報道官は「武力攻撃と判断しにくい手段で圧力を加える『グレーゾーン作戦』の可能性を排除しない」(中央通信社)と指摘したことを報じている。

元空将で麗澤大学特別教授の織田邦男(おりた・くにお)氏も、米国側や台湾側の見立てと同じく「中国の意図的な工作だ」と指摘するとともに、海底ケーブル切断も中国による台湾周辺での軍事演習やサイバー攻撃も認知戦の一種で「台湾有事は、『認知戦』という形でもう始まっている」と指摘する。

では、中国による認知戦の目的はなにかと言えば、織田氏は「台湾の国民が『中国と戦っても無駄だ』」と思わせることにあり、台湾の人々がそう思ったときに勝負が着くと見立てている。

恐らく織田氏の指摘する通りだろう。

下記に織田氏に取材した「SmartFLASH」の記事をご紹介したい。

本誌では、中国が「戦わずして勝つ」ために、立法院で国民党や台湾民衆党に認知戦という工作を仕掛けている可能性を指摘してきた。

今回の海底ケーブル損傷事件も、本誌前号で指摘したように「台湾と日・米・韓の情報遮断を狙った可能性」があり、それは取りも直さず中国が台湾を「情報鎖国」にすることを狙った中国による認知戦であり、グレーゾーン作戦の一環である可能性が高い。

バルト海で展開されている海底ケーブル切断事件は、ロシアから肥料や石油を積んだ中国貨物船によって引き起こされている。

ロシアは、ウクライナ支援を続ける北欧やヨーロッパとウクライナを分断させるため、中国と組んでグレーゾーン作戦を仕掛けている。

中国は、台湾の士気を挫こうと認知戦とグレーゾーン作戦を仕掛けている。

そう見立ててほぼ間違いないだろう。

中国は「海底ケーブルの損傷は世界で毎年100件余り起きていてよくある海の事故だ」と言い放った。

それで思い出したのは、昨年9月18日に中国・深[土川]で日本人学校に通う10歳の男子児童が刃物を持った男に襲われて死亡した事件のときの中国側の反応だ。

このとき、中国外務省の報道官は「この事件は個別のもので、類似の事件はどの国でも起こりうる」と述べた。

どちらもよく似た反応だ。

海底ケーブルを損傷した貨物船はカメルーン船籍とは言え、船員は7人全員が中国籍、船主は香港籍だ。

日本人児童の殺人事件は明らかに中国人が犯人だ。

中国には関りがないと言わんばかりの反応だからこそ、気になる。

この発言は逆に中国政府の関与を証しているように聞こえてくる。


中国が進める“認知戦”とは? 「シーレーン封鎖なら日本は生き残れない」専門家が警鐘
【SmartFLASH:2024年1月12日】

戦後80年にあたる2025年。

いま、新たな「戦前」の不安が高まっている──。

1月6日、中国の貨物船が台湾の海底ケーブルを損傷させた疑いがあるとして、台湾の海巡署(海上保安庁)が貨物船の寄港先の韓国に捜査協力を依頼したと報じられた。

「台湾では、2024年5月中国が独立派とみなす頼清徳総統が就任したばかり。

中国は、この就任を受けて、台湾への武力侵攻を想定した大規模な軍事演習を5月と10月の2回にわたって強行しました。

また、2020年に中国は海底ケーブルを切断する装置を発明したと報じられています」(政治部記者)

今回の事件に関して、麗澤大学特別教授で元航空自衛隊空将の織田邦男氏は「中国の意図的な工作だ」と語る。

「中国による海底ケーブル切断は、今回が初めてではありません。

2023年3月には、オーストラリアにあるアジア太平洋ネットワーク情報センターが、過去5年間で27回切断されたと報告しています。

2024年2月には、台湾が実効支配する馬祖列島と台湾本島を結ぶ通信用の海底ケーブル2本も相次いで切断されています。

このときは、島外との電話やネットが遮断され、航空券の予約やネットバンキングができなくなり、買い物などで混乱が起きました。

中国の狙いは台湾を“情報鎖国”にすることです。

台湾は通信用の海底ケーブルを3か所に設置していますが、これらが切断されれば、後は通信衛星からでしか情報を得る手段はなくなります。

島国の台湾にとって、情報鎖国は最も避けたい事態なんです」(以下、「」内は織田氏)

台湾島に対する中国の軍事侵攻を想定した、いわゆる“台湾有事”が昨今話題になっている。

中国側のミサイルの先制攻撃や強襲揚陸艦による台湾上陸作戦で火蓋が切られる可能性はあるのだろうか。

「じつは台湾有事は、『認知戦』という形でもう始まっているんです。

認知戦とは、敵の心理や思考に働きかけて、戦略的に有利な状況を作り出す作戦です。

今回の海底ケーブル切断もそうですし、中国による台湾周辺での軍事演習やサイバー攻撃も、認知戦の一種です。

認知戦によって、台湾の国民が『中国と戦っても無駄だ』と思ったときに勝負が着くわけです。

2014年のロシアによるクリミア半島併合の時も、認知戦によってインチキな住民投票をさせた結果、ロシア編入が決まりました。

中国は当然、プーチンの認知戦を研究していますから、それを踏襲しようと考えているはずです」

つまり、台湾有事は認知戦という形ですでに始まっているというが、やがて“血を流す”戦争に進展することはあるのだろうか。

「その可能性はかなり低いと考えます。

中国は、アメリカが台湾有事に参戦してくるならば、軍事作戦では勝てないとわかっています。

ですから、中国はトランプ次期大統領がどんな態度を取るか、固唾を飲んで見守っている状態でしょう。

それに、中国は一人っ子政策を推進してきたので、兵士の家族の反発を食うような、死者がたくさん出るような戦闘はできないんです」

ただ、軍事衝突が唯一あるとしたら、それは台湾が独立を宣言したときだという。

「独立宣言をしたら、中国は勝ち負け関係なく、面子で戦わざるを得ないんです。

その際は、中国によるミサイル戦から始まるでしょう。

ミサイル戦なら自分たちの戦力を消耗しないで済む。

この段階で、台湾は『やっぱり、敵わないから諦めよう』という形になるかもしれない。

しかし、それでも中国陸軍による上陸作戦は難しいでしょう。

長く戦争をやったら、国民の批判の矛先は中国共産党に向かい、自分たちの足元もおぼつかなくなるかもしれません。

そのため、血を流す戦争をやるとしても“ショート・シャープ・ウォー”(急襲によって一気に占拠する短期激烈戦争)となるでしょう。

それで決着がつかないような戦いはやらないはずです」

戦争の可能性は低いと言うが、中国による台湾併合はあり得るのだろうか。

「私は2027年までに起こると予想しています。

なぜなら、習近平国家主席が中国共産党の総書記として、4期めが決まる年だからです。

習近平が今後も国家主席として君臨するためには、『レガシー』が必要です。

それが、毛沢東でもなしえなかった台湾併合なんです。

そして、この年は人民解放軍の創建100周年にもあたる。

軍の威信にかけても台湾併合は成し遂げなければならないんです」

中国が台湾を併合する事態になれば、当然、日本にも“被害”が及ぶ。

「中国に台湾周辺の制空権、制海権を押さえられたら、日本と台湾の間のシーレーンの安全性が確保できなくなります。

その影響は甚大です。

現在、1日150万トンの物資が行き来して、エネルギーの90%、食料の60%が日本、台湾のシーレーンを通っているんです。

台湾周辺を通過できなくなれば、タンカー1隻あたり約3000万円の燃料代が増える計算になります。

だいたい、シーレーンを通る船の10%しか日本人の船長はいないんです。

船員はほとんどがフィリピンなど外国人です。

いざ有事となったときに、彼らが日本のために命懸けで輸送に当たってくれるとは限らないでしょう。

シーレーンを封鎖されたら日本は生きていけません。

そうなれば中国の思うツボです。

その点、親中派といわれる岩屋毅外相や石破茂首相の外交手腕では心もとない。

もし、中国の要求を全部呑んでしまえば、『あいつらは脅せば言うことを聞く』と思われてしまいます。

それがいちばん恐ろしいんです」

最悪なシナリオが実現しないといいが……。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。