昨年9月、日本李登輝友の会では初の公式訪台団として、李登輝前総統が主導さ
れた「台湾正名運動」(小田村四郎団長)に参加しました。この詳細なレポート
は機関誌『日台共栄』創刊号で柚原正敬事務局長が報告していますが、この台湾
正名運動には、8月31日に発足したばかりの「日台関係を促進する地方議員の会」
(名取憲彦会長、略称・日台地方議連)も参加されていました。
最近になって、その中のお1人だった江東区の豊島成彦議員が帰国後の9月定例
議会で早速、正名運動の一つである「外国人登録証」問題と李登輝前総統の来日
問題について質問していたことが分かりました。
なぜ台湾出身の外国人登録証の国籍が「中国」とされているのかについて、そ
の根拠を示して欲しいとの質問に対して、区長は「法定受託事務とされ、国が定
める外国人登録事務取扱要領に基づき、全国的に統一された処理が行われており
ます」と、あくまでも江東区は法務省からの受託事務としてやっているだけなの
で、根本的な対応はできないとし、行政としても議論はしていないと答弁してい
ます。
また、李登輝前総統の来日について、区長は「もし近い将来に李登輝前総統の
訪日が実現し、本区の芭蕉記念館を訪れることになれば、本区といたしましては、
丁重にお迎えいたします」と答弁し、訪問されるなら歓迎すると表明しています
が、江東区として招聘するなど、積極的に対応するつもりはないようです。
豊島議員の熱誠あふれる質問でしたが、期待されるような答弁内容ではありま
せんでした。しかし、議会で外国人登録証と李登輝前総統の来日について質疑応
答されたことは貴重な経験ですので、ここにその質疑応答の全文をご紹介します。
なお、豊島議員のプロフィールは下記の通りです。 (編集部)
豊島成彦(とよしま なるひこ)昭和45年(1970年)東京都江東区生まれ。早稲
田大学理工学部卒業。クロアチア難民キャンプ、マザーテレサの家でボランティ
ア活動。財団法人社会経済生産性本部に出向。タイ仏教寺院でボランティア活動
に従事。現在、江東区議会議員(2期目)。松下政経塾16期生。
平成15年(2003)9月24日:江東区議会 平成15年第3回定例会(第9号)
午後1時07分開議
◯議長(榎本雄一君) ただいまから、平成15年第3回区議会定例会を開会いたし
ます。
(省略)
◯議長(榎本雄一君) 20番豊島成彦君。
(20番豊島成彦君登壇)
◯20番(豊島成彦君) 区民クラブを代表して、大綱四点についてお伺いいたし
ます。
(省略)
3点目に、外国人登録証問題について伺います。
私は、今月6日に、台湾・台北市で行われた参加者15万人にも上る「台湾正名運
動」というデモ行進に参加してきました。「台湾正名運動」とは、現在、中華民
国とされている台湾の国名を「台湾国」、あるいは「台湾民主国」と定め、国連
などの各種国際機関に参加することを目指す台湾の国民運動です。日本からも200
人以上が応援に駆けつけました。私は、名取憲彦東京都議会議員を会長とする「日
台関係を促進する地方議員の会」という超党派の地方議員連盟の一員として参加
しました。
台湾には戦前の世代や若い世代を中心に、広く日本語ができる方々がいらっし
ゃいます。私たちがデモ行進していますと、「わざわざ日本から応援に駆けつけ
てくれてありがとう」と、世代を越えて何度も日本語で感謝の言葉をいただきま
して、大変に万感胸に迫る思いがいたしました。
さて、なぜ日本の地方議員が台湾正名運動の応援に駆けつけたかといえば、こ
の運動が、そもそも日本発、それも日本の地方から始まったからなのです。日本
では、在住外国人は市区町村が発行する「外国人登録証」の随時携帯を義務づけ
られています。しかし、在日台湾人の「外国人登録証」の国籍記載は「台湾」で
はなく「中国」とされています。多くの在日台湾人が、これを台湾人の尊厳を踏
みにじる耐えがたい侮辱と感じています。
諸外国では、この問題について次のように取り扱っています。アメリカは、英
語で「Taiwan」、イギリスは「Taiwan-RoC」、韓国はハングル発
音表記で「タイワン」、タイも「Taiwan(RoC)」となっております。
なぜ日本だけがこうした表記になっているかについては、一概には否定しきれな
い経緯がかつてあったようです。
しかしながら、台湾の民主化が進み、主に本省人と呼ばれる台湾固有の方々に
支持された李登輝氏や陳水扁氏が政権の座について以来、改めて国号の問題が再
燃するようになりました。それも、かつて日本の市区町村の窓口で受けた屈辱を
ばねにしている日本滞在経験者がこの運動の中心となって、台湾国内でこの活動
が広がっています。自分の国の国名を正しく外国で表記されないとは耐えがたい
苦痛であり、人間の尊厳を侵す人権問題でもあります。
こうした中国が絡んだ問題について、いつものことながら、なかなか腰を上げ
ようとしない日本政府にかわって、現場の担当者である理事者の皆様にお伺いい
たします。
まず、本区で中国とされている方々が何名おり、そのうち何名が台湾出身者な
のかお示しください。
また、なぜ台湾出身者を「中国」と記載しているのかの根拠もお示しください。
また、こうした問題は、現在、どこで、どのように議論されているのかも伺い
ます。
また、区の窓口ではどんなトラブルが起きているのでしょうか。
次に、李登輝前総統と奥の細道についてお伺いいたします。
李登輝前総統とご夫人は、いわゆる「敷島の道」に長けております。以前より
「奥の細道」を訪れたいという希望を持っていらっしゃるにもかかわらず、日本
へのビザがなかなか発給されません。「奥の細道」といえば、我が江東区はその
出発地でもあります。私は、李登輝氏の訪日実現を強く希望いたしますが、その
際には、ぜひ李登輝前総統と、また、その盟友関係にあると言われている石原慎
太郎都知事ともども、芭蕉記念館にぜひ訪れていただきたいものです。
松尾芭蕉が江東区内に住まいを構えていたということをご存じの方は、私の知
る限り、日本国内でもそう多くはいらっしゃいません。ましてや、外国では皆無
かと思います。李登輝前総統の訪問を機に、芭蕉記念館、ひいては江東区の知名
度が全国的に広がることをひそかに期待するものであります。いざ訪日となった
際、光臨の栄を浴するためにも、事実上の在日台湾大使館でもあります台北駐日
経済文化代表処に資料の提供なり、何らかの手だてを今から打っておくべきかと
思いますが、いかがでしょうか。
いずれにいたしましても、巨大な中華人民共和国のそばで、今まで涙を流し続
けていた台湾人の方々に対する温かい目をぜひ皆様、注いでいただければ幸いで
す。
以上で質問を終わります。
ご清聴ありがとうございました。(拍手)
(区長室橋昭君登壇)
(省略)
次に、外国人登録問題についてのご質問にお答えをいたします。
まず、本年8月末現在の本区の外国人登録者13,451人中、国籍が「中国」と表記
されている方の数は5,173人でございます。そのうち台湾出身の方の数につきまし
ては、統計上、把握してございませんので、明確な数値はお示しできませんが、
おおよそ1割弱かと推定いたしておるところでございます。
次に、台湾出身の方が外国人登録証で「中国」と登録されていることの根拠に
ついてでございますが、外国人登録事務は国家統治の基本にかかわる事務である
ことから、法定受託事務とされ、国が定める外国人登録事務取扱要領に基づき、
全国的に統一された処理が行われております。このことにより、台湾出身の方の
場合も「中国」と表記することになっておるところでございます。台湾に係る外
国人登録の問題につきまして、さまざまな活動が展開されていることは承知をい
たしておりますが、外交上に係る問題であり、かつまた、法定受託事務としての
制約もございますので、現在、特別区の中では議論はいたしてございません。
なお、窓口では、ご指摘のような事例があることは認識をしております。こう
した台湾出身の方に対しましては、誠意を持って説明し、対応を図っているとこ
ろでございます。
次に、台湾の李登輝前総統と「奥の細道」についてのお尋ねでございますが、
李登輝前総統につきましては、芭蕉の大ファンであり、かねてから、その足跡を
訪ねてみたいという意向が伝えられていることは承知をいたしております。同氏
の招聘につきましては、「奥の細道」にゆかりのある関係自治体などで構成する
平成13年「奥の細道」一関サミットの席上でも話題になったところでございます。
しかしながら、その当時は、治療目的限定での来日許可のため、実現は果たせな
かったという経緯がございます。もし近い将来に李登輝前総統の訪日が実現し、
本区の芭蕉記念館を訪れることになれば、本区といたしましては、丁重にお迎え
いたしますとともに、私個人としては、大いに歓迎をしてまいりたいと考えてお
ります。
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発 行:日本李登輝友の会・メールマガジン「日台共栄」編集部
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