◆米国とともに欧州も日本もファーウェイやZTEを排除
今年は世界の通信業界において、大きな変化があった1年でした。その発端となったのは、4月にアメリカが中国の通信会社ZTE(中興通訊)を、アメリカが制裁措置を取っているイランや北朝鮮と違法に取り引きを行ったということで、アメリカの企業に同社との取り引きを禁止したことでした。
これによって、ZTEはアメリカの製品を使用できなくなって営業停止状態となり、一時は倒産の噂が出るほどでした。
結局は、10億ドル(約1100億円)の罰金や経営陣の刷新によって、アメリカ政府はZTEへの制裁を一時的に解除しました。
また、12月5日には、ファーウェイの最高財務責任者で、創業者の娘である孟晩舟(メン・ワンツォウ)が、カナダで逮捕されました。容疑はやはりアメリカが制裁中だったイランに対して違法に輸出したというものです。
先日アルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれたG20の際に行われた米中首脳会談で、一時的な休戦状態になることが決められたのもつかの間の逮捕劇です。アメリカは甘くないことを中国に示したのでしょう。
アメリカはかねてより、ファーウェイやZTEの機器には、通信内容を中国に違法に送る仕組みが仕掛けられているということで、政府や軍の関係者が両社の機器使用を禁じる通達を出していました。
また今年の8月には、アメリカの軍事予算を決める法律「国防権限法」で、ファーウェイとZTEの製品を政府機関が使用することを禁止しました。
さらにアメリカ政府は、日本などの同盟国に対して、安全保障上のリスクがあるとして、両社の製品使用をやめるように求めていたのです。
これによって、イギリスやオーストラリアではファーウェイやZTEの排除が決定され、また、日本でも名指しは避けましたが、事実上、両社を政府調達から排除することを決定しました。
中国は日本の決定に対して、中国政府はウェブサイトで「(事実であれば)両国の経済協力のためにならず、強烈な反対を表明する」という声明を出していますが、アメリカの同盟国など西側諸国では両社の排除が次々と決まっており、世界的な流れは止まらないでしょう。
◆豊かになればなるほど強欲になる中国
私はかねてより主張してきましたが、中国は3000年以上も前から「強盗国家」であり、易姓革命は国盗りを正当化する理論でした。また、『莊子』の「盗跖編」では強盗が孔子に説教し、それが日本での「盗人にも三分の理」の語源となりました。
20世紀になっても全中国では2000万人ともいわれる匪賊が存在しており、その規模は政府軍の10倍というものでした。このように窃盗が国家存在の条件であるために知的財産権やWTOを守れという要求は、中国にとっては「死ね」と言っているに等しいわけです。
日本人を含めて先進国の人間は、中国も豊かになれば人権意識が芽生え、民主主義の道を歩み、先進国と同じ価値観を持つようになると信じていましたが、豊かになればなるほど中国は強欲になり、力を誇示し、さらに他国の技術や国富を巧みに盗むことばかりに腐心するようになりました。だから諸外国としては、もはや中国企業や中国人を追い出すしかなくなるわけです。
日本もようやくファーウェイやZTE排除の決定をしたわけですが、相手は尖閣諸島を狙って敵対行動を繰り返し、日本の歴史教育にまで口を出して歴史戦を挑んできている隣人です。その決定はあまりにも遅すぎるといわざるをえません。
日本政府の決定を受けて、ソフトバンクも通信施設や次世代技術において両社の機器使用を停止するという決定を行ったわけです。なお、ドコモやauは、もともと通信施設や次世代通信技術でファーウェイやZTEの機器を使用する予定がなかったそうです。
◆中国でアリペイが普及した中国ならではの事情
ソフトバンクといえば、中国のアリババに出資して大成功した企業でもあります。中国企業との提携も多く、たとえばいま、買い物に対して100億円を還元することで話題の「paypay」も、アリババ系の中国スマートフォン決済大手「アリペイ」と連携して日本でもアリペイ決済を可能にし、訪日する中国人のインバウンドを狙おうとしています。
もともとpaypayは、スマートフォンでQRコードを読み込んで金額を入力するというアリペイと同じスタイルであり、いわばこのスタイルで先行する中国のやり方を真似たものです。
suicaなどのように読み取り機が不要で初期費用がかからないことから、中国ではアリペイやウィーチャットペイのような、QRコード型の決済が一気に普及しました。それこそ屋台でもスマートフォンを使った支払いが可能となっているのです。
ただし、中国でアリペイがあっというまに普及したのは、偽札が非常に多いという中国ならではの事情があります。銀行には必ず偽札発券機が置かれていますし、紙幣で支払った際、店員がお札を透かして偽札かどうかを確かめるという光景がよく見られてきました。
そうした心配がないということで、QRコードによる決済が爆発的に普及したわけですが、一方で、ニセのQRコードを読み取らせ、違った相手へ送金させるといった詐欺も起こっているようです。セキュリティにも問題があり、返金トラブルなどもまだまだ多いようです。
しかも、日本のpaypayとアリペイが連携したということは、いずれ中国でもpaypayが利用できるようになるということでしょうが、それこそ、その際の情報管理は本当に大丈夫なのか、心配になってきます。
アメリカのCIAやFBI、さらには国家安全保障局(NSA)は、ファーウェイやZTEのスマートフォンは、利用者の知らないところで利用情報を中国に流すソフトウエアが仕掛けられている可能性があるということで、政府関係者が使用を警告していました。
ファーウェイやZTEのスマートフォンは日本でも流通していますが、もしもこれが本当のことであれば、ファーウェイやZTEのスマートフォンでpaypayを利用したらどういうことになるのか…と想像してしまうのは私だけではないでしょう。
◆すでに経済は安全保障の一部
そもそも中国は、情報統制国家かつ人権もない国で、国内の企業内部に共産党の支部設置を義務付けています。共産党の命令によって、ファーウェイもZTEもいかようにも動くのです。
カナダで逮捕されたファーウェイの孟晩舟は、中国のパスポートを4通、香港のパスポートを3通、計7通も持っていたと報じられています。偽造大国の中国ですから本人が何らかの不正を働くために偽造パスポートを何通も作っていたのかもしれませんし、あるいは外国へのスパイとして中国当局が持たせていた可能性もあります。
いずれにせよ、あまりに怪しすぎます。
中国政府は孟晩舟の逮捕に対して、アメリカの対しを呼び出して抗議しましたが、そうなると、国家ぐるみである可能性のほうが強いでしょう。まずすべての中国企業は中国共産党に弱みを握られています。共産党と結託しなければ、ぜったいに成功はできないからです。歯向かえば、トップが逮捕されるなどで身の破滅です。
すでに経済は安全保障の一部なのです。結局、ソフトバンクは自身の通信システムから中国製機器を排除せざるをえなくなりました。政府が排除を決めたわけですから、中国製機器を使っていると、政府機関や政府と取り引きのある企業との商売ができなくなる恐れがあるからです。しかし、その機器交換や代替システムの構築などには、多くの費用と時間がかかると見られています。
日本の経済界にも、まだまだ目先の儲けだけで中国にすり寄ろうとする企業も多いですが、一党独裁で恐怖政治を行う国の企業をどこまで信頼して連携すべきなのか。他の日本企業にも再考してもらいたいと思います。