に占領権がある」「台湾は天皇陛下の神聖不可分の領土」などという主張について、日本人からも
台湾人からも異論が出て論駁されているということで、多田恵氏の「呆れた!『林志昇集団』河村
常夫が虚偽の宣伝」とアンディ・チャン氏の「林志昇の嘘を検証する」という2つの論考をご紹介
した。
すると、アンディ・チャン氏はその2日後、アメリカの最高裁判事の言葉に触発され「林志昇は
真実(あること)に嘘(ないこと)を混入して人を騙している」として第2弾を発表している。こ
こに全文をご紹介したい。
サンフランシスコ平和条約(SFPT)の条文が頻出するので、なじみのない読者にはいささか難解
と思われるかもしれないが、林志昇なる人物がこの条約を使って「真実(あること)に嘘(ないこ
と)を混入して人を騙している」と指摘する論考なので、お付き合いいただきたい。
日本語に「玄関を張る」という言い回しがある。玄関先だけを立派にすることから、外観を飾る
ことを指す。いわば映画のセットのようなことだ。アンディ・チャン氏は、林志昇の言っているこ
とはこのような玄関を張ったような内容だと指摘し、説得力に富む。
林志昇の嘘を検証する(2)
【Andyの国際ニュース解説No.502 :2014年6月24日】
前号(No.501)のサンフランシスコ平和条約の第4条を検討した部分に間違いがあったので訂正
いたします。米国が「主要占領国を持続保有」と言うウソを討論した部分の最後の二行、「不利な
第2条aを書かず第2条bだけで「米国の占領権」を主張するのは詐欺手段だ」と書いた箇所は、第2
条ではなく第4条aとbです。
さて、林志昇の嘘の続きを書く気になったのは彼の嘘がかなり広がって騙される人が増えている
からである。彼の手口はSFPTとか国際法、明治憲法など麗々しく書いた後で、書いていないことを
推測し、断定する。読者はSFPTや国際法など調べないで信用してしまう。
一ヶ月ほど前、スカリア(Antonin Scalia)最高裁判事がテレビ対談で、「法律とは常に正確に
書かれている。書くべきことは書いている、書くべきでないことは書いていない」と言った。私は
「これだ!」と感じた。林志昇は真実(あること)に嘘(ないこと)を混入して人を騙しているの
だ。
●台湾は米国の領土と言う証拠はない
6月19日の台湾守護週刊、No.127に廖東慶という人が「中国に台湾の主権を持っている証拠はあ
るのか?」と言う記事を掲載した。
要約すると、中国が国連に加入した1971年、「台湾は中国領土の一部である」声明を出してもら
いたいと要求した。国連側は台湾が中国の一部である証拠を提出せよと答えたが、9ヶ月待っても
中国側は証拠を提出できなかったと言うのだ。
ここまではよいが、筆者は最後のパラグラフで彼自身も証拠がないことを堂々と書いている。
最後のパラグラフを要約すると、どの国が台湾の主権を握っているかと言うと、SFPTに依れば米
国である。1952年、60カ国がサンフランシスコに集まってSFPTに署名したが、中国と中華民国は参
加しなかった。日本は正式に台湾澎湖の主権を放棄し、その瞬間に台湾澎湖の主権は『正式に米国
の所有』となった!。この条約の原本は何所に保存してあるかと言えば、米国国会図書館の『条約
文書室』である。
この部分は不正確な事実と嘘の混合である。SFPTの記述は不正確、台湾澎湖が米国の所有になっ
た証拠はない。SFPTを詳しく検討してみよう。
●サンフランシスコ平和条約の詳細
サンフランシスコ平和条約は1952年ではなく、1951年9月4日から20日までサンフランシスコで会
議を開き、52カ国が参加した。このうち49カ国、つまり日本と48カ国の代表が9月8日に調印した。
そして条約の第23条aに拠り、調印国のうち、主要占領国(Principal Occupying Power)の米国を
含めた17カ国の過半数が条約を批准し、1952年4月28日に発効した。
第23条aでこの条約が批准されなければならない、と書いたのは、代表が条約に調印しても調印
国の国会が批准しなければならない。つまり条約に調印しても国が批准しなければならないのであ
る。
つまりSFPTの第23条aは各国の批准について述べているのであって、ここで林志昇が、第23条aに
「主要占領国」とあるから米国が「占領権」と持ち、条約発効後も占領権を持つという主張は根拠
がない。SFPTには「占領権」について述べた箇所はない。スカリア最高裁判事の言う、「書いてい
ないこと」をあるように主張した虚偽の陳述である。
日本以外の49カ国のうち、インドネシアとルクセンブルグはSFPTに調印したが批准しなかった。
これは私見だか、条約の原本が米国にあるというのはおかしい。調印国はそれぞれ原本を保持し
ていて、批准書のみが米国に寄託されたのである。当然のことだが調印国は原本を本国に持ち帰っ
て保存する、つまり49カ国が原本を持っているはずである。例えばオバマとプーチンが条約にサイ
ンすると、その場で二つの原本に調印され、互いに原本を交換しあって握手する。
林志昇グループは米国が原本を保有しているのは米国が主要占領国である証拠だと読者に思わせ
ているが、調印国がそれぞれ原本を持っていなければおかしい。日本のSFPT原本は外務省条約局に
保存されている。
●第2条「領土」と第4条「財産の処理」について
ここでスカリア最高裁判事が述べた「書くべき事は書いている、書くべきでないことは書いてい
ない」の検討をしたい。
日本国はSFPT第2条bで台湾澎湖の主権を放棄し、第3条で沖縄を米国の信託統治制度の下に置く
ことに同意した。第2条bで台湾澎湖の主権は放棄されたが、米国に台湾の統治権または占領権があ
るとは書いていない。
第4条bで日本は米国占領軍政府(The United State Military Government)が日本の財産処理を
行った(過去形)ことを承認すると書いてある。だからと言って米国占領軍政府が第2条bに遡って
台湾澎湖の領土処分権を有するとは書いていない。もしも米国が台湾の領土処分権を持つなら第2
条bに明記していたはずだ。第2条に書いていなのに、第4条bを使って「財産も領土も処分権があ
る」という証拠にはならない。
第23条aには「主要占領国(Principal Occupying Power)」と言う名詞が登場する。第23条は米
国が条約を批准すべき条項だが、ここに主要占領国米国を書いたことを第2条に遡って「米国が台
湾の占領権を持つ」と主張するのは間違いである。
林志昇はこのほかにも第4条の米国占領軍政府と第23条の主要占領国を同一視して証拠にしてい
るが両者は同じではない。占領軍政府は平和条約が発効した時点で解散された。林志昇の「占領権
は継続して持っている」と言う主張は嘘である。
●間違った運動は独立を妨げる
「米国は台湾の占領権、或いは主権を持つ」と言う林志昇の主張には法的根拠がない。この主張
で独立を熱望する人々を騙すことが出来ても、法的根拠がないから米国や諸国が承認しない。
私は何度も林志昇と会談したことがあるし、林志昇グループの台湾民政府(TCG)、林志昇から
派生した台湾米国政府(TGUSA)には友人がたくさん居る。彼らの熱意もよく理解している。皆は
法的根拠がなければ独立は出来ないと悟るべきだ。