湾は天皇陛下の神聖不可分の領土」という主張に対し、日本人からも台湾人からも異論が出てい
る。
米国在住の台湾人、アンディ・チャン(Andy Chang)氏は6月21日に「林志昇の嘘を検証する」
を発表、その2日後に「林志昇は真実(あること)に嘘(ないこと)を混入して人を騙している」
としてその第2弾「「林志昇の嘘を検証する(2)」を発表している。
これに対し、台湾民政府と袂を別った米国台湾政府から反論があり、アンディ氏との議論の応酬
で不利になると、「アンディの理論は中華民国が喜ぶだけだ、アンディは何故このような議論をす
るのか、利敵行為が目的か」と非難してきたという。
アンディ氏は、台湾民政府と米国台湾政府の主張の違いを整理し、サンフランシスコ平和条約に
おける台湾の主要占領権などはどう解釈されるのかを考察、「味方である私が不合理な点を指摘で
きると言うことは敵(中華民国)も既にわかっていること」で、「味方の口を封じて敵に回すよう
な愚行を犯すべきではない」として、7月19日に「自分の味方を敵に回すな」を発表した。
日本人の中には、台湾にシンパシーを寄せる有識者ほど台湾民政府や米国台湾政府の理屈に惑わ
される人が少なくないように見受けられる。彼らの主張の根拠を明らかにするため、ここにアン
ディ氏の全文をご紹介したい。
なお、サブタイトルは編集部で付したことをお断りする。
自分の味方を敵に回すな
【Andyの国際ニュース解説No.505:2014年7月19日】
良薬は口に苦しという諺がある。よく効く薬ほど苦くて飲みにくいもの、ためになる忠言ほど耳
が痛くて聞きづらい、忠言は耳に逆らうとも言う。
苦くても効く薬だから我慢して飲むのは大人で、苦いから飲まないと言うのは子供や未成熟な人
である。苦いものは有害で有害だから毒だという人は味方を敵に回すようなもので救われない。
●アメリカを告訴した林志昇理論
林志昇がアメリカ政府を告訴した案は、アメリカ地裁と高裁で却下された。だが林氏理論は間
違っていないと主張して台湾民政府(Taiwan Civil Government: TCG)を組織し、2年前に分裂を
起こし、米国台湾政府(Taiwan Government-USA:TG-USA)の2つのグループが出来た。
サンフランシスコ平和条約(SFPT)の第2条(b)で日本が台湾の主権放棄をしたため台湾の国際的
地位は未定である。林氏理論では日本が放棄したのは「権利、権原、請求権」で「主権放棄」では
ないという。しかも、終戦で日本に進駐した占領軍は米軍が主体だから米国は「主要占領権」を
持っていると言う。
このあと林志昇は、SFPTの発効後も米国は「主要占領権」を持ち、台湾の主要占領権も持つと言
う。この理屈により、米国はSFPT発効から50数年も台湾の占領権を持っていた、だから台湾は米国
の属領で台湾人は米国の居住権を申請できるというのが訴訟の要点だった。だがこの訴訟は米国の
地裁、高裁、最高裁で却下された。
最近になってもTCGとTG-USAのグループは米国が台湾の主要占領権を持つ、台湾は米国の属領で
あると主張している。但し両グループの主張に違いがある。
TG-USAは「米国の支持と了解を得て台湾政府を創る」と主張する。TCGは「台湾は日本天皇の神
聖不可分の領土で、日本がSFPTで放棄したのは台湾の主権ではない。だが米国は今も台湾の占領権
を持つ」と主張している。
●SFPTの解釈に疑義あり
この数ヶ月、TCGとTG-USAのメールには、SFPTの第4条(財産の処分)と第23条(条約の批准と発
効)の拠ると米国は台湾の主要占領権をもっていることが確実だと書いている。詳細はAC通信、
No.501とNo.502を参照されたい。これは真実でないと私は思って、中国語でSFPT条約の中で台湾の
主要占領権その他についての考察を発表した。私のSFPTの見解を要約すると以下のようになる:
第一、SFPTは連合国48カ国と日本の締結した平和条約で、戦争終結の宣言である。主要占領国米
国とは日本占領を指すのであって台湾は第2条で放棄されただけ、米軍が台湾を占領した事実はな
い。
第二、SFPTが発効すると占領軍は日本から撤退し(第6条)、占領権は終結した。占領権が今でも
(日本で?)有効と言うのは不合理だし、台湾でも有効とはもっと不合理だ。
第三、もしも米国が台湾の占領権を持つならSFPT第2条(b)に明記すべきで、第4条(財産の処
分)にある米国占領軍、第23条(条約の批准と発効)で占領権を持つという主張は根拠がない。つ
まり米国は「台湾の主要占領国」と言う根拠はない。
第四、米国は台湾の主要占領国であると言ったことはなく、そのような言動もないし、台湾関係
法にも明記していない。そのような事実は何所にもない。
●反論と再反論
早速TG−USAから反論があった。SFPTが発効した後になっても蒋介石政権は続けて台湾を統治し
ているではないかと言う。
私はすぐに再反論を書いた。これこそ米国が台湾の主要占領国ではない証拠である。米国が台湾
の主要占領国なら蒋介石政権を追い出す権利があるはずで、SFPTを締結した時、78年に米国と中華
民国が断交した時も中華民国を追い出さなかった。しかも台湾における白色恐怖や38年の戒厳令、
独裁政治でも米国は沈黙していた。米国には主要占領国で中華民国を制裁する権利がないのだ。
また反論があった。米国が何もしなかったのは台湾人が米国に抗議しなかったからだと言う。そ
んなバカなことはない。中華民国政権に虐待されても台湾人が米国に訴えなかったから米国は何も
しなかった? そんな主要占領権があるか? 米国の人権無視である。
そうすると最後にアンディの理論は中華民国が喜ぶだけだ、アンディは何故このような議論をす
るのか、利敵行為が目的かと言う。なにおかいわんやである。
味方を敵視する理屈、つまり議論が不利になったら相手が利敵行為をしていると非難して沈黙さ
せる。せっかくの忠言も耳に入らないなら沈黙するしかない。
●自分の味方を敵に回すな
彼らの仲間には、たとえ少しぐらい不合理でも、台湾のためなら少しの不合理は受け入れると言
う人も居るがそうはいかない。味方である私が不合理な点を指摘できると言うことは敵(中華民
国)も既にわかっていることである。不合理な理由で独立運動は出来ない。忠言が気に入らないか
ら、味方の口を封じて敵に回すような愚行を犯すべきではない。
台湾独立は多くの困難を抱えている。正義と正当な理由をもって進むべきである。敵に有利な間
違った理論を使わなくても正当な理由はいくらでもある。米国が主要占領国だからTG-USAやTCGが
米国に抗議するのは米国を刺激し、困らせるだけである。
米国は台湾の主要占領国ではないが台湾の安全を保護することを「台湾関係法」で明確にしてい
る。米国を刺激する行動は台湾のためにならない。米国は友好国で台湾の保護国である。だから抗
議ではなく友好的態度で接することが外交の真骨頂である。自分の味方に対する態度もそうであ
る。味方を敵に回すような愚行は慎むべきである。