台湾の総統選挙が投票日まで20日を切った。以前から、李登輝前総統の態度がはっき
りしない、謝長廷支持を打ち出さないのはおかしいのではないかという声が、台湾でも
日本でもあがっている。
現在発売中の「諸君!」4月号が「二〇〇八年台湾総統選挙と『海洋国家』日本の運
命」と題して、李登輝前総統と作家の深田祐介氏の対談を掲載している。
対談の中心テーマは、なぜ東アジアは混迷するのか、その原因とされる中国に対して
日本と台湾はどのように向き合うべきか、である。この中で、台湾の総統選挙について、
李前総統が初めて見解を明らかにしている。
李前総統は、今回の総統選について「なるようにしかなりません」と、一定の距離を
置きつつも、「非常に興味深い」として、「謝さんがあっさり大差で敗北してしまえば、
台湾の民主化は二十年遅れてしまうでしょう。しかし、馬さんを僅差で追い上げられれ
ば、両党の旧勢力が一掃され、大幅に世代交代が進む可能性があります」と述べるとと
もに、「場合によっては、第三勢力の結集、国民党の分裂など、政界再編もあるかもし
れない」と、非常に興味深い発言をしている。
また、驚いたことに「『馬氏は親中反日、謝氏は反中親日』といったような短絡的な
見方は間違い」と断言もしている。その理由は、中国国民党の馬英九候補は「世間で言
われているほど北京政府との関係は深くなく」「馬さんとアメリカの関係は予想以上に
深い」からだとし、一方の民進党候補の謝長廷候補も「胡錦濤は、謝さんが総統に就任
した方がやり易いと考えているふしがある」と、これまでの両候補に対する見方を180
度転換させるような見解を表明しているのである。
李前総統がなぜそのような見解に至ったのかはこの対談を読んでいただくしかない。
だが、これまで李登輝学校研修団における数度の特別講義において、ハンチントンの文
明論などを梃子に台湾の民主主義について分析してきたことと、この見解は符号してい
る。
特別講義では、中国国民党に対する考え方や陳水扁総統の統治方法などにも触れてい
て、李前総統の考え方の根本がよく理解できる。
なぜ李前総統が謝長廷支持を打ち出さないのか、なぜ「今、台湾に必要なのは、『独
立宣言』でも台湾名義での国連加盟でもない』と述べるのかなど、その理由を知りたい
方は、本会の機関誌『日台共栄』に掲載した特別講義でほぼ明らかにしているので、ぜ
ひお読みいただきたい。
最後に一言行け加えると、安倍政権が短命に終った原因について、李前総統が「とく
に官房長官の人事は失敗」と直裁かつ具体的に剔抉しているのには、日本ではあまり指
摘されなかっただけに、正直驚かされた。
また、些細なことかもしれないが、李前総統を知ることにおいては人後に落ちないと
思われている深田祐介氏が、昨年の訪日時に李前総統が靖国神社に参拝するまで、実兄
の李登欽氏(日本名:岩里武則)が靖国に祀られていることを知らなかったことにも驚
かされた。
いずれにしても、この「諸君!」の対談と、李前総統が2月下旬に刊行された『最高
指導者の条件』(PHP研究所)を併せて読まれることをお勧めしたい。歴史と現実を
踏まえて考え抜いた思考の深さ、スパンの長さを、改めて知らされる。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原正敬)
■「諸君!」(文藝春秋 定価:680円)
http://www.bunshun.co.jp/mag/shokun/index.htm
■『最高指導者の条件』(PHP研究所 定価:1,470円)
http://www.php.co.jp/bookstore/detail.php?isbn=978-4-569-69801-4