題して特別寄稿されている。
先月は、昭和18年の「台湾日日新報」のインタビュー記事「決戦下学徒の決意」などを織り込ん
だ「日台の絆は永遠に」を月刊「Voice」6月号に発表されたばかりだというのに、今度は後藤新平
と新渡戸稲造をテーマに寄稿されている。今年の李元総統は何とも精力的だ。
月刊「歴史街道」7月号は、今年の6月5日でちょうど150年目を迎えた幕末の池田屋事件をメイン
特集としているが、もう一つ特集を組んでいて、それが「台湾と日本人─50年余りの統治は何を遺
したか」。
本会副会長でもある評論家の黄文雄氏による「『瘴癘の島』に築かれた近代化の礎」、本会関係
者にはおなじみの片倉佳史氏の「台湾に日本人の足跡を訪ねて」、そして、李元総統の「私の先生
─後藤新平と新渡戸稲造」の3本立てとなっている。
よく知られているように、李元総統は深い哲学的思索の果てにたどりついた人生の真実を「我是
不是我的我」(私は私でない私)と表現する。単なる「私」を超えたまさに無私の境地を指す。こ
の境地に導いてくれたのが新渡戸稲造だった。
この特別寄稿では、特に新渡戸との出会いなどについて詳しく触れている。台北高等学校時代に
英文の原書でカーライルの『衣装哲学』を読んで感激した李元総統は、新渡戸が残していた講義録
に出会い「原書では十分に咀嚼しきれなかった『永遠の否定』から『永遠の肯定』への昇華を明確
に理解していくことができた」ことで、少年時代から抱いてきた「死生観に対する苦悩が氷解し
た」と、当時を振り返っている。
また「新渡戸が専攻していた『農業経済』という新しい学問分野を私も究めてみたいと望むよう
になり、迷うことなく進学先を京都帝国大学農学部農林経済学科と決めた」とも書かれている。い
かに当時の李元総統にとって新渡戸の存在が大きかったかがよく分かる。
この特別寄稿で李元総統は、新渡戸を台湾に招聘した後藤新平についても、民政長官としてふ
るった事績について詳しく触れ、また新渡戸が台湾の製糖業に果たした貢献について、資料を駆使
しながら詳しく記されている。
月刊「歴史街道」7月号の特集「台湾と日本人─50年余りの統治は何を遺したか」は、日本と台
湾の両方から日本の台湾統治の実態をコンパクトにまとめ、台湾問題や日台交流に携わっている
人々や台湾を知りたい人々必見の構成となっている。一読をお勧めしたい。
◆月刊「歴史街道」7月号(6月6日発売、定価:648円)
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